第12話 空気嫁の不在
ドックン!ドックン!ドックン!
心臓の音がうるさい。
俺と天沢さんの部屋の壁が爆発したあと、今後の方針を美幸と天沢さんと俺で話あい、壁が直せるお金が貯まるまで、このまま襖をお互いの壁にして、
生活することになった。
「鈴木が変な気を起こさないように、襖を開けたら爆発するようにするわね。」
「美幸ちゃん。それ私にもダメージ入るから辞めて欲しいな~!」
「美幸。いつから爆弾作れるようになったんだ。。」
「女性は絶対人生のどこかで、爆弾をつくる日が来るもんなのよ。」
「嘘つけ!二人に一人が爆弾製造できる世の中なんて嫌だ。」
「…美幸ちゃん、今度一応作り方教えてもらってもいい?」
「いいわよ。」
「この部屋にはツッコミは俺だけなのか。。」
天沢さんの部屋に飛散した壁の残骸を三人で清掃し美幸は帰路についた。
最後俺に何か言いたげだったが、特に何も言わず。少し俯いて帰っていった。
そして、この心臓の鼓動である。
今襖を開けたら、好きな人の生活している空間に入れる。
襖から漏れ出る空気は、好きな人の匂いがする。
興奮しないわけがない。
思えば俺は、隣に好きな人が住んでるとは知らずに、
一年間も空気嫁をシコシコ作っていたのか。。
鉄筋コンクリートのマンションとは言え、シグマが初めて歩いた時の感動の雄叫びは、聞こえていただろうな。
「ん?待てよ。シグマが帰ってきたらまずくないか?」
襖に耳あり障子に目ありだ。
この状況でシグマと会話をしよう物なら、天沢さんに筒抜けになるじゃないか。
しかも会話の内容は、悪代官と越後屋の会話ではない。
シグマと俺のラブラブトークだ。。
一番知って欲しくないことを、一番知って欲しくない人に知られることになる。
「やばい…」
とりあえず、今日はどこかのネカフェかホテルにシグマは泊まってもらおう。
急いでマンションの出入り口まで行き、シグマを待ち構える。
「ふー。あとは今後のシグマの住むところをどうするかだな。」
。。。
あれから4時間がたった。もう22時だ。
シグマが帰ってこない。
どこにいるかも、まったく見当がつかない。
携帯も持たせていないし連絡をとる手段もない。
「どうしよう。今頃、きっとどこかで泣いているわ。」
サツキがメイを探している時のセリフが出てきた。
つい一ヶ月前は、どこか俺の知らない街で、
所有者不明の空気嫁として、ゴミ処理されてくれ。
なんて思ってたのにな。
今はアイツが行方不明なのが、
こんなにも心揺れ動かされるとは。。
一回帰ってシグマを探す準備をしよう。
ガチャガチャ
バタン!
「とりあえず、財布と携帯を持っ…」
ん?この匂いは肉じゃがか?
まさか!シグマ!窓から帰ってきてたのか!!
タタタッ!
「シグマ!」
「きゃっ!」
1Kの俺の部屋には誰もいなかった。
当てが外れて落胆した。
「ど、どうしたの?鈴木くん?」
天沢さんだ!
しまった!声が筒抜けなのを忘れていた。
「ごめん!何でもないよ!」
「そっか!なら、よかった~!
あのさ!部屋肉じゃが臭くない??」
「アッハハ!肉じゃが好きだから大丈夫だよ!」
「へ~!肉じゃが余ってるんだけど、よかったら、食べる?」
「え。いいの?」
「もちろん!!」
こ、こんな理想的な展開があっていいのだろうか。。
好きな子の手作りの肉じゃがを食べれる。
色々なオカズにできそうだ。。
「鈴木くん開けてもいい?」
「おう!」
ススス
真っ暗だった俺の部屋に、天沢さんの部屋の明かりが入る。
「はい!口に合うといいんだけど。」
器に入った肉じゃがを手渡しされる。
「合わなかったら口が悪いに決まってる!」
薄暗いため、よく見えず、受け取るときに手が触れ合った。
二人きりの暗闇で、肉じゃがを受け取る行為が、こんなにもドキドキすることだったとは。。
「アハハ!じゃあ、また何か作ってあげるね~!」
「うん!ありがとう!おやすみー!」
「鈴木くんおやすみ~!」
ススス
パタン!
天沢さんの部屋の明かりが襖で遮られ、真っ暗な部屋に戻る。
まるで天使が天界に帰っていったかのようだ。
まだ暖かい肉じゃがと、ホワホワした気持ちが残る。
なんか、もうシグマ探しは明日でいいかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます