第六源 誰よりも永遠を誓った彼女たち

 魔王は世界を支配した。

 だというのに、勇者という希望は一向に現れる気配がない。

 誰もが絶望を身に染みて感じ、希望という光すら拝もうとしなかった。


 ーーもう終わりだ。生きる意味がない。世界なんて壊れてしまえ。


 そんな多くの者たちの絶望が、ただ世界に流れていた。

 どよめく空気を掻き消す者は、もういない。

 唯一の希望であった神崎天矢は、もういない。


「天矢……あなたは、今どこにいるの?」


 雫はその一室でそう呟く。

 書斎とも呼べるその一室で、彼女は天矢の帰りを待っていた。


「雫様。知りたいですか?天矢様の居場所を」


 一人のメイドーーアンドロメダ・シスフィーは雫に聞いた。

 雫は背を向け、小さく頷いた。

 雫は天矢がまだ生きている、天矢は帰ってくると願っていると分かったシスフィーは、小さく笑って喜んだ。


「あなたたちは、本当に美しい絆で結ばれているのですね」


 シスフィーは羨ましそうに言う。


「雫様。天矢様が世界を救うと信じているのなら、あなたにはやらなくてはいけないことがあります」


「やらなくちゃ……いけないこと?」


 雫は振り替えって首をかしげる。

 シスフィーは固い顔をし、雫に全てを話す。


「雫様。私も天矢様から力を頂いております。それは天矢様の居場所を知る・・力」


「知る!?」


「はい。ですので天矢様の居場所は分かっています」


「じゃあ今すぐ行きましょう」


 立ち上がった雫を、シスフィーは止める。

 シスフィーは真面目な表情を浮かべ、雫の肩を叩いて言った。


「雫様。天矢様の居場所は一度も動くことはありません。それが何を意味するか、分かっていますか?」


「私は……それでも行く」


「雫様。天矢様なら囚われていたとしてもすぐに抜け出すことができます。ですが天矢様は一切動いていません。それはなぜなのか分かりますか。神崎天矢はし……」


「天矢は生きてる」


 雫はシスフィーの言葉を掻き消した。

 聞きたくない言葉だったからーー違う。

 分かっていたことだったからーー違う。

 天矢を信じていなかったからーー違う。


「シスフィーさん。天矢は生きていますよ。たとえそこが宇宙であっても、たとえそこが地獄であっても、天矢は帰ってくると約束してくれたから、だから天矢は帰ってくる」


 雫の言葉。

 シスフィーには雫と天矢がお互いをどれだけ信じ合っているかが分かったらしい。

 何よりも美しい絆、いや、愛があると分かった。


「シスフィー。私を天矢がいる場所に案内して」


「はい。分かりました」


 永遠に壊れない絆があるのなら。

 永遠に汚れない愛があるのなら。

 そんな世界を彼らが創ってくれるのなら、私は信じて待ちましょう。

 いつか、世界が平和になるーーその日を。

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