神のモノローグ

第一章 『存在価値』

 世界とは何であろうか?

 生を与えられた者は何を思うだろうか?


 生という不確定なものを与えられ、誰もが生きていて死という恐怖を感じてしまう。

 たとえ自分を娯楽という世界に投じたとしても、そこで得られるものは一時的な解放感にすぎない。


 本当に世界とは愚かであり、誰もが世界を憎んでいる。


「ヘラちゃん。また神になろうとした人間がいたらしいよ。しかもそれは魔法使いらしいよ」


「魔法使い?」


 ヘラという謎の存在は、問う。


「あーあ。そういえばヘラちゃんはそういうの知らないんだよね。魔法使いって言うのはボクたちみたいな神が使う術みたいに、物理法則からかけ離れているもの」


「だが魔法法則というのが存在するが、名前から察するにその魔法使いと関係があるのではないか?」


 ヘラの答えに、とある存在は顔をしかめる。


「ヘラちゃん。そうなんだけどさ、ボクは分かりやすく説明しようとしただけじゃん」


「それよりも、さっき言ってた神になろうとした人間は、神になったの?」


 ヘラはとある存在の話など興味がないらしい。

 とある存在は少し落ち込みはしたが、すぐに切り替え、ヘラの問いに答える。


「神になろうとした存在の名は、確か神崎天矢てんし。彼が魔法法則を生み出した第一人者だ」


「だが魔法法則など世界の全てが記されている神書しんしょに書かれていたではないか。なら魔法法則は他の何者かが生み出したというのが妥当ではないのか?」


 ヘラの意見は真っ当である。

 だがとある存在はヘラの言葉を聞かなかったことにし、話をもとに戻す。


「神崎天矢という男なのですが、どうやら彼は神を生け贄にし、神に成り上がったようなのです」


「神を生け贄に?」


「つまり、神崎天矢は神殺しを成した」


 ーー神殺し

 それは人にはまず不可能とされてきた下克上。

 だがしかし、神崎天矢という天才は神殺しという偉業を成し遂げてしまった。つまり、神崎天矢は神というものを全て敵に回したということになる。


「ヘラちゃん。どうしますか?」


 神殺しという言葉を聞けば、神は動揺をするのが普通である。

 だが、ヘラは笑った。


「人というのは傲慢であり強欲であり嫉妬深い。だからこそ人というものは哀れであったのに。だが人が神という存在を殺した。ゾクゾクする展開だよ」


 とある存在はヘラを見て、少し驚嘆する。

 だがヘラという神は他の神とは一風変わっている存在である。故、とある存在はヘラを見て、少し面白がる。


「では、神崎天矢は野放しにでもしておきましょうか?」


「話が分かるではないか」


「ですが問題は他の神が神崎天矢にチョッカイを出すかどうかです」


「その程度で死ぬような奴なら、期待しただけ無駄ということだ」


 ヘラは神崎天矢を期待しているようだった。

 とある存在も神崎天矢という人間が神殺しを成したということに少し興味を持っている。


 神崎天矢。

 彼は一体何者なのだろうか?

 神殺しを成した天才は、何を望んでいるのか?


 神崎天矢という人間をきっかけに、神の世界は大きく歯車をずらし始めた

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