第51話 卑怯者

 久遠は思いっきり弥助の頭にボールを投げた。あまりに咄嗟のことだったので、俺は魔法でボールを動かすということができなかった。

 弥助はボールが頭に当たったことで倒れた。

 それを予知していたかのように、救急車がすぐに駆けつけ、弥助は救急隊に運ばれていく。


 俺たちは弥助が運ばれていくのを遠くからただ見ていた。


「すまん……弥助……」


 俺は運ばれていく弥助を見て、俺は爪が食い込むまで拳を握りしめ、久遠に殴り掛かりたくなる衝動を押さえた。


「さあ。次は神崎、お前の番だぞ」


 久遠は俺を呼ぶ。

 俺は久遠に応え、バッターボックスに進む。だが俺がバッターボックスに入ろうとした時、ある者が俺を止めた。


「神崎。ここからは……野球部に任せろ」


 俺の肩を叩き俺を止めたのは、野球部の部長。ってことは、加藤がやってくれたのか。


「加藤。サンキュー」


「いえいえ。意外と簡単でしたよ、この任務」


 倉橋高校の彼らは驚いている。

 なぜならば、野球部部長の神墓かみはか ごうは、彼女が誘拐されたことで野球をする意味を失っている。

 だが今、彼は彼女を取り戻した。


「なぜ……いる!?」


 神墓が驚愕の表情で見ているベンチには、神墓の彼女の神紙かみかみ 茶妙ちゃえがいた。


「久遠。実は加藤に任務を任せていた。それが茶妙の救出。お前たちは少し舐めすぎていた。茶妙の場所など簡単に見つけられたよ」


 まあ実際は魔法で茶妙の居場所を聞いただけだけどな。

 心の声が読めるのは便利だ。


「だがまだ八点差だ。ここから巻き返せるはずがない」


 久遠は汗を流す。

 やはりまだ久遠は勝つ作戦があるらしい。というかそもそも俺が問題なんだ。


「そもそも神墓。このゲームは選ばれた三名しか参加できない。だからお前が来たところで……」


 だが久遠は喋るのを止める。

 俺たち神乃学園のベンチには、金髪の女教師がいた。

 彼女はこちらに一歩一歩歩いてくる。


「倉橋高校野球部。倉橋高校の教師陣は、弥助と神墓の交代を認めているぞ」


「嘘つけ……」


 久遠は何かを察しているようだった。


「久遠。異論はあるか?」


 久遠は言葉に詰まる。

 久遠は金髪の女教師の前に、なす術なく沈黙をした。


「じゃあゲーム再開。神墓。打て」


 神墓は弥助に預けていたバットを手に取り、弥助の仇を打つためにバッターボックスに立つ。


「久遠。お前がどれほどの策略家だろうとな、仲間を傷つけたお前はただのクズだ」


「黙れ」


「久遠。お前はもう……野球には向いていない。だからここで負けて、少しは反省したらどうだ?」


 今ここで、両者の因縁に決着がつく。

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