第29話 裏切る者

 目良は、俺たちの前に立ちはだかった。


「目良。どういうつもりだ?」


「月島。それに木原。俺たちはもう10年以上も前から会っていたんだよ」


「10年以上も!?」


 木原さんと月島さんはまだ1年生。だからそれほど長い関わりでは無いはずなのに。


「目良。私たちは中学生の時、たった一度だけ同じになったメンバーだ。それにそれも3年前の話。10年以上前は私たちは会っていない」


「月島。お前は本当に覚えていないのか?」


 目良はまるで自分だけが不幸だと言うように、表情から悲しみを漂わせる。


「木原。お前なら覚えているだろ。あの夏の日、俺たちが出会ったことを」


「私は……覚えていない」


 木原さんは覚えていないことに悲しみを感じ、目良から目線を逸らした。

 目良はさらに絶望を覚えたのか、スタンガンを爪が食い込むまで握りしめる。


「目良。今は思い出せないかもしれない。でもきっといつか思い出す」


「今じゃなきゃダメなんだよ。今じゃなきゃ……俺は何もできないんだよ」


 目良は俺たちを直視する。その瞬間、指先から髪の毛まで、目良が見ている全ての物体が動かなくなった。


「ごめん。だけど、俺にはもうこの方法しか残されていない」


 目良はスタンガンを使い、俺たちを気絶させた。


 あーあ。どれほど仲間を信頼したところで、世界は裏切りという人間同士のみっともない戦いを望んでいる。

 だから俺たちは仲間同士で争い合い、いつしか別人となってしまう。

 どれだけ過去の思い出を引きずろうとも、所詮はいつか死ぬ命。


 俺はもう答えを探すことを諦めていた。

 分かり合うことを諦めていた。


 本当に世界というのは、傲慢であり、怠惰であり、嫉妬であり、強欲であり、憤怒である。


 分かり合えないということがこんなにも不幸なことだと、なぜ俺は気づかなかったのだろう。

 気づいたところで、分かり合うことなど不可能に近いと、なぜ思ってしまうのだろう。


 いつだって世界は強欲で、自分が求めていた結果で無ければ後悔を心に深く刻み込む。


ーーだから世界は、嫌いなんだよ。

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