第12話 特別衛生三課四班、戦闘中
足を狙った木下の射撃音が廊下に響き渡った。
狙いは盛大に逸れたものの目標01の右肩に着弾する。
木下の使用する弾丸は.45ACP弾。亜音速で飛翔する大口径弾頭に期待するのは貫通力ではなく衝撃力。いわゆるマンストッピングパワーを重視してのことだ。
「四番より各位。目標01は獅子型と推定。階段脇のオフィスに引き込み迎撃する。至急援護を頼む。長くはもたねえ!」
Zodiac――目標01は銃弾を受けてのけぞった。
だが怯むことなくこちらに迫ってくる。
見た目は人間と変わらない。
青白い肌と開いた瞳孔がZodiacの特徴ではあるが、血塗れの姿では見分けがつかない。だが間違いなくZodiacだ。負傷を与えた今でも運動能力にせよ耐久性にせよ、人間のそれよりも高いことは明白だ。
『了解。十番は射線を確保でき次第狙撃開始。一番を残し全隊突入。一番は窓から目標01が飛び出す可能性を考慮し警戒せよ』
木下はバックステップで元いたオフィスに戻った。
「タケ、ブン! 左右に散開。飛び込んできたところを狙え!」
「「了解!!」」
「カウント! 2! 1! 撃て!」
二挺のショットガンの射撃音が狭い屋内に反響した。
「動き速過ぎるやろこのボケェ!」
胴体を狙って発砲指示をした木下は、想定外の結果に罵声を上げた。
左右に展開させたショットガンから放たれたスラッグ弾はオフィスに飛び込んできた目標01の両脚に命中したものの、その勢いを完全に削ぐことは適わなかった。
「うおっ!?」
目標01は飛び込んできた勢いそのままに木下に掴みかかり彼を押し倒す。
木下の視界をあり得ないほど大きく開いた標的01の口腔が埋め尽くす。
「たんまり食らえや!」
木下は左腕で目標01の喉元を押し返しながら、ゼロ距離で発砲。
反動で右肘が床を撃つ。
激痛。無視。連射。
七発撃ち尽くし銃を捨てる。自前の砂鉄入りナックルガードを握り込む。顎目がけてフックを一発。
手応えあり。
目標01の抑え込む力が僅かに緩んだ隙に離脱。
床を蹴り距離を取りながら発砲指示。
「タケ、ブン! 撃て撃てィ!! ――隊長、支援まだか! 今ならやれるんや!」
散弾銃の発砲音の後、無線が入る。
『今行かせている。そのまま抑え込め』
「無茶言うんやないでオッサン!」
木下は捨てた銃を拾い上げ
――刹那。
目標01があり得ない挙動をした。
うずくまった姿勢から斜め後方に跳躍。木下の射撃を回避。
身を捻りながら振るわれるかぎ爪のような右手。
それが木下の見た最後の光景となった。
木下の放った銃弾が床にめり込む音と、木下自身の頸椎がへし折られる音がほぼ同時。
「「班長!?」」
『四番! おい、木下! どうした!?』
ぐるる、と目標01は喉を鳴らし、次の標的に襲い掛かった――
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