第314話
一応言っておくと中村と太郎の組み合わせ自体は別におかしくはない。
仕事としてではなく、個人で潜る際には太郎やほかの隊員さんと潜ることもしているのだ。
ただ……思い浮かぶのは別れ際に中村の目から光が消えていた光景だ。
まさかねえ?
「……」
出会いがなさ過ぎてそちらの道へ走ったのか。
ここで生首ではなく、哺乳類という括りであるだけましなのかも知れない.
「よっ、おつかれ」
……なんて中村が知ったら怒り出しそうなことを考えていると、こちらに気づいた中村が陽気に手を上げ、声をかけてきた。
隠れたりしていないのだから当然だが、、見つかってしまったようだ。
他のテーブルもちょいちょい空いてはいるが、ここは相席でいいだろう。
俺は軽く手をふり中村へ応えると、クロを抱えテーブルへと向かった。
「中村も休憩?」
「おう。腹減ったから飯休憩よ」
中村の言葉を聞いた俺はちらりと視線をテーブルに向ける。
4人掛けのテーブルには、中村が食べるであろうコーヒーとサンドイッチ、サラダとスープ……それと太郎用かな? 白い皿の上にゴロリとした焼いた肉塊が鎮座していた。
喫茶ルームでずいぶんと豪快なもん食べてるな。
と思ったら、手にナイフとフォークをもった中村が食べやすいように一口サイズに切り分け「ほれ、太郎もしっかり食えよー」と太郎にさしだした。
そんな甲斐甲斐しく世話する中村であったが、その様子を見てしまった俺の目からはきっとハイライトが消えていたのだろう。
俺の視線に気づいた中村が訝しむように口を開く。
「? ……なんだよ変な顔して」
「んにゃ、なんでもないよ」
きっと俺の考えすぎだろう。そうに違いない。
ちょいちょい一緒に潜っている太郎と仲良くなった中村が、単に気を利かせて世話を焼いているだけだ。
俺はそう思考を切り替え、何を食べるかを決めることに意識を向けた。
「太郎もうまそうなの食ってんな……よっしゃ、今日は肉だな」
たぶんあの肉塊、ローストビーフだと思う。
本来なら薄切りにして出すところを太郎用にと塊で出して貰ったのだろう。断面が綺麗ですごく美味しそう。
「いつも肉くってね?」
「そんなことは……あるなあ」
思い返せば肉ばっか食ってる。
もちろんじいちゃんばあちゃんに貰った野菜とか、作り置きの総菜も食べているけど基本は肉が多い。
だって在庫いっぱいあるんだもん。
「魚も好きなんだけど獲らないといかんのがね。ダンジョン内にでりゃいいんだけど、せいぜいシーサーペントぐらいだし。あいつ狩るのちょっとめんどいんだよなあ」
「休みの日に釣りにいくとか? お、太郎もくいたいか? よーしよし今度釣ってきてやんよ」
そういって太郎の頭をわしわしと撫でる中村。
太郎はガン無視で肉をぱくついてる。
いやあ。
手遅れにならなきゃいいなあ。
「お~、よしよしよし嬉しいかあ~。愛いやつよのう」
「手遅れかな」
俺の友人はもうだめかもしれない。
なんだよ愛いやつって、時代劇ぐらいでしか聞いたことねーぞっ。
「ん? なにが?」
「いや、なんでもないよ」
そういって、俺はそっと目をそらすのであった。
「そういやダンジョンに新しい機能追加されるって話、島津知ってる?」
「へ?」
食事も終わり、茶をすすってると不意に振られた話題に思わず素で返す俺。
そんな話は初めて聞いたがな。
「知らんか。島津ならアマツさんあたりから何か聞いてるかなーって思ったけど」
「聞いてないなあ。まあ仮に聞いてたとしても中身までは教えてくれないんじゃないかな。秘密だよ! とか言ってさ」
何かあるぐらいは教えてくれるだろうけどね。
昨日あったときに何も言わなかったってことは、驚かせようとでも思ってたんじゃないかな。
「んで、どんな内容なの」
「確かに言いそう……内容はまだ発表されてないから、俺も知らん!」
お前も知らんのかい。
「いつ発表とか決まってるん?」
「これ見る限りまだっぽい」
そういって中村がさしだしたパッドを覗き込むと、そこには『今月ダンジョンに新機能を追加するよ!! 乞うご期待!!! byアマツ』と書かれていた。文章なのにうるさい。
「へー……ちゃんと仕事してたんだ」
「そりゃそうだべ」
もしかすると煎餅を食べながら寛いでいたあの姿は、一仕事終えたものだったのかも知れない。
そう考えると生首を放り込んだのは悪いことをした……いや、そうでもないなっ。
デートスポットに恐竜の群れぶっこんでくるよりは大分ましに違いないっ。
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