第313話
「ただいまーっと」
玄関をあけて靴を脱ぎ、リビングを扉を開ける。
すると、足元で俺のことを見上げるクロの姿あった。どうやら俺のことを心配して待っていてくれた……よう、だ?
「えっと……クロ?」
出迎えてくれたと思いきや、俺のことをフンスフンスと嗅ぎにくるクロ。
一頻りにおいを嗅いで満足したのか、再び俺へと視線を向け……まるでチベスナのような目でじっと俺を見詰めてきた。
どうやら俺がヘタれて手を出さなかったのだろうと理解したらしい。
匂いでばれるとか怖すぎ……いや、まて誤解だ。
「いや別にヘタレた訳じゃないからね? 恐竜がでなかった今頃は……あれだよ、あれ」
その視線に耐えきれず、どうにか言い訳しようとする俺。
はたから見たらさぞかし滑稽な姿だろう。
「鼻で笑われた」
猫に鼻で笑われるとか、もう飼い主としての威厳はゼロよ。
「あー……それお土産ね。あとで焼いて食べようか」
俺がガックリと肩を落としている間に、クロの興味はお土産で持って帰ってきた貝へと移っていた。
貝が好きかどうかは分からないけれど、とりあえず磯の匂いに惹かれたようである。
マーシーに焼いて貰っても良いし、味見てぐらいなら俺が焼いても良い。とりあえずご飯の時までにどうするか決めよう……そんなことを考えていると、小さな足音? と共にもう一人の住民がやってきた。
「お、もう戻ってきたんだねえ。どうだい? 楽しんできたかい?」
そう登場するなりゲスい笑みを浮かべ、髪で卑猥なハンドサインをしてみせる生首。
「うるせえ貝殻でも食ってろ」
「いだっ」
ダンジョンで何があったか知ってから知らずか、無駄に器用なことをして俺を揶揄う生首にお土産に持ってきた貝殻を投げつけた。
貝殻はペチイッと音を立て、生首の額に張り付く。
「せめて中身もくれないかねえ……」
……すると、生首はぶつくさ文句を言いながら、貝殻をはがすと口へと持っていきボリボリと食べ始める。
いや本当にくうんかい。
こいつの生態がほんと分からん……いや、理解したくもないけれどさ。
「ぷう……」
自分で焼いても十分おいしかったので、ついつい全部焼いて食べてしまった。
クロにも貝柱部分をあげたけれど、結構気に入ってはいたようで大ぶりのやつをペロリと平らげていたよ。
「こんどフライにしてもいいかも」
「タルタルも忘れないでおくれよ」
貝は一応生首にもあげた。
さすがに貝殻食ってるそばで中身を食うのは良心が咎める……良心ってなんだろう。
さて、お腹も満たされ落ち着いたところで、今後の予定をクロと相談しよう。
「クロ、明日からのダンジョンだけどさ。あのでっけーワームを倒すのにアマツが別のダンジョン産のカードが前提だねって言ってたじゃん」
俺の言葉に「にゃあ」と返すクロ。
珍しいものを食えて機嫌が良いらしい。
気分が乗らないと尻尾振って終わりだからねっ!
「で、海外のだけどオークションが今月開催されるってことで、カードはそこで手に入れるつもりなんだけどー……そういや遥さんにオークションのことを相談するの忘れてた」
色々ありすぎてね……なんならタイミング合えば無人島でオークション参加しても良いなんて考えてたんだけど。
もっともあの感じじゃオークションのこと忘れてなくとも参加なんて出来なかっただろう……恐竜が出ようが出まいが。
ああ……またクロの目がチベスナのように。
ごめんて。
「そっちは後で聞くとして……それまでずっとダンジョン休みってのもあれでしょ」
「とりあえずはコアをもう一個手に入れてクロの装備を強化しようと思う。で、その後は無理しない程度に狩っていってカードを手に入れたら本腰いれて攻略していく。で、どう?」
こちらをじーっと見つめるクロの圧に急かされるように、一気に話してクロへと伺いをたてると……短く「にゃ」と返事がある。
許された!
とりあえず今日は精神的にまだ疲れているのでお休みとして。
一晩ぐっすり寝て英気を養い、明日から頑張るとしよう。
んで、ぐっすり寝て起きた翌日。
朝食をささっと食べ終えた俺とクロはまずはクロの装備強化用として、ワームのコアを確保し強化を終える。今までは全部食っちゃってたけれど、今回はちゃんと強化にまわしたよ。
そしてどのあたりが変わったのか調べるべく、セーフルームでクロの装備をしげしげと眺めていたのだが。
「んー? どこも変わったようには……あ、ここちょっと色変わってる」
俺の時はぱっと見で分かったのだけど、クロの場合は装備のほんの一部にしか変化が見られなかった。
おそらく変に装備を目立つようにするよりは、あまり変わらないほうが良いだろう? というアマツの気遣いによるものだろう。
例の無人島と違ってこっちは素直にグッジョブと言える内容だ。
アマツグッジョブ。
「それじゃどんどん狩っていこうか。食材として確保したいし、運がよけりゃカード出るかもだし」
これで俺もクロも装備の強化は完了した。
多少熱に対する耐性も上がっているし、前より楽にワームを狩れることだろう。
とは言えまだまだ火力不足は否めないので、無理せず1匹ずつ狩ることになるが……そんなペースで狩っているとワームのカードを入手するのは一体何時になるやら。
早いところオークションに参加してカードを入手しないと。
ああ、ちなみにオークションだけど、ちゃんと遥さんと相談して一緒に参加して貰うことになったよ。
これで英語もばっちりよ! 開催は2週間後なので、地味に先だったりするね。
ま、それまでは気長に狩るとするよ。もしかするとポロっとカードが出る可能性だってあるしね。
「あー…………やっと落ち着いた」
地味にフラグでも建てていたのだろうか。
固まった溶岩の上で、座り込む俺とクロ。目の間にあるのは固まって砕けたワームの残骸と、ほぼ食い尽くされたワームのコアだ。
「クロもおつかれさま。ほんっと酷い目にあったなあ……」
1匹、2匹と順調に狩っていって、3匹目に取り掛かった時にそれは起きた。
距離がちょっと近すぎたのか、もうすぐ倒せそうかなというときにもう1匹が乱入してきたのである。
最初から相手をしていた奴はもうすぐ倒せるし、なんとかなると思ったんだけどさ。
「まさか合体するとはね」
あいつ、ワームとは呼んでいるけれどスライムみたいなやつなんだよ。
スライム=合体するとは限らないとは思うけど、こいつは合体するタイプだったのだ……しかも厄介なのが、でかくなるだけならまだしも、高くなった温度がそのままだったのだ。
そこからはもうひたすら耐久戦。
相手を削りきるのが先か、こっちが再生し過ぎでダメになるか……結果から言えばぎりぎりだけど勝てた。
ただ極限までお腹が空いていたもんで、その場でコアを貪り食う羽目になったのである。
「戻って休憩しよっか。まだお腹に余裕あるし軽くなにかつまもう」
クロもさすがに疲れたのだろう。
俺の言葉に軽く「にゃー」と返すと、トットットッと足早に入口のほうへと戻っていく。
そんなわけで休憩しようと喫茶ルームへと向かった俺とクロであるが。
そこには先客が……いや、別に先客がいること自体はおかしくも何ともないのだけど、組み合わせがね。
なぜか中村と太郎が二人? で茶をしばいていたのである
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