第284話

歩くたびに床がギシリと嫌な音を立てる。

先ほどの道場のような部屋とは違い、通路はちょっとぼろかった。

抜けてる床がないのでまだましではあるけど、裸足で歩くとささくれが刺さりそうな感じ。


予想していたことだが、通路は非常に見通しが悪かった。

数メートル先は真っ暗なんだよね……いつ目の前に敵が現れるか分からないから、かなり気を張らないとダメだろう。

足音で接近が分かるかもだけど、足音が小さい敵とか、動かない敵なんかもいるかもだからねえ。


「お?」


そのまま体感距離で100mほど歩いたところで、前方の視界が急に開ける。

次の部屋へとたどり着いたようである。


部屋は通路同様にちょっとぼろい。

壁はところどころヒビが入っているし、掛かっている掛け軸はボロボロだ。

さらに床は一部板がはがれて草が生えている。


そのように、最初の部屋とは違う様相を見せる部屋であるが、俺はそちらにはあまり注目していなかった。

なぜなら、部屋のすみに敵が2体いたからだ。


そいつらは俺が部屋と入ると同時にこちらへ振り返った。


「小鬼……? わりと可愛いぞ」


俺に続いて部屋にはいったメンバーも、その姿を目にする。

中村がつぶやいたように、部屋にいたのはのっぺらぼうではなかった。


小さいが、ころんと丸い体。肌は赤く、顔は愛嬌があるが額には小さな角が一本生えている。

こちらをみて、左右に揺れるように小さく飛び跳ねている姿は可愛らしい……と言えなくもないだろうか。


まあ、可愛らしい姿をしていようが、醜い姿をしていようが敵には変わりないだろう。

俺たちは武器を……武器はないので、一体どんな攻撃をしてくるのだろうか? と警戒だけはしながらしながら、徐々に小鬼へと距離をつめていく。


そしてある程度の距離に近づいた途端に、小鬼は大きくこちらへと向かい飛び跳ねた。


そして、空中でその姿に変化がおきた。

腹がグバァッと大きく裂け、牙の生えそろった口が姿を現したのだ。


それをみて、俺たちは一瞬ギョッとした表情を浮かべるが、体はすぐに回避行動へと移っていた。


先ほどまで俺たちが居た空間を齧り取るように、その大きな口が閉じ合わさる。

ガチンッというその大きな音からして、もし噛みつかれたらタダじゃすまないであろうことは良く分かった。

おそらく頭部に食らえば即死だろう。


「かわいい?」


「かわいくない!!」


俺の問いに全力で否定する中村。

そりゃそうだ。


さて、どう殺そうかな? やっぱ顔狙いかな? と考えていると、真っ先に飛び出した影が二つ。クロと太郎だった。……太郎はクロの後をついていっただけな気がしなくもないけど。


クロは小鬼の一体に駆け寄ると、前足を振るいすぐに距離をとる。

さきほどまでクロが居たところに、小鬼の噛みつきが襲うがあたるはずもなく……小鬼はその場に転がるように倒れ込んだ。

足首が半ばまで裂かれて、血が溢れている。クロの攻撃はどうやらアマツダンジョンと同じようなものらしい。不可視の刃だ。


そして太郎はクロが相手をした個体とは別個体に向かっていた。そして足ではなく、腕に噛みつくと体を回転させながら飛び上がる。

太郎は着地すると、そのまま嬉しそうに部屋を駆けまわる。その口には小鬼の腕が咥えられていた。


そして一拍遅れて俺と北上さんの攻撃が小鬼にはいる。

クロに足を裂かれた小鬼は、顔面に北上さんの蹴りが入り。太郎が噛み付いた小鬼には俺の打ち下ろしの拳が頭頂部にめり込んだ。


それで小鬼は二体とも力尽きた。

のっぺらぼう同様に耐久力はあまり高くないらしい。


この戦闘で、小鬼の攻撃力は高そうだが、動きは大分鈍いので油断しなければ問題は無さそうな相手だと分かった。乱戦で後ろから攻撃されると怖そうではある。


戦闘を終えた俺たちは、再び部屋を出て通路を進んでいた。

そしてまた100メートルほど歩いたところで、視界が開ける。



「そろそろ何か落ちてても良いのになあ……おぉっ?」


「刀かな?」


次の部屋には敵の姿は無いが、床に刀らしきものが転がっているのが見えた。

三部屋目で初ドロップか。

これを少ないと考えるか、それとも普通と考えるか……いや、まだ三部屋だし、全部みてみないとなんとも言えないか。


ま、それはともかく、初ドロップを喜んでおこう。

俺だけじゃなく、北上さんや中村も喜んでいる。クロと太郎は我関せずだ。


きっと大喜びした中村がドロップに駆け寄って、罠にはまってくれることだろう。期待してるぜ。




「おっしゃー! ……罠ないよな」


ほらな。と思ったら、手前で急に忍び足になったぞっ。

つまんな……いや、これはこれで面白いか。


「慎重になっててうける」


「地雷で吹っ飛ばしたら悲しいからねー」


「アイテムのそばに落とし穴とか地雷とか、たまにある」


……ふと思ったけど、忍び足で進んでも罠踏んだら発動するし、意味ないよな? むしろダッシュでいったほうが、矢とか通り過ぎて避けられるかも知れないし、安全かも知れんぞ。


まあ、今更だけどね。

ちらっと視線を向けた先で、中村の手に刀が握られていた。




「打刀だって。……打刀ってなに?」


「いや、知らない」


どうやらゲームよろしくアイテムを入手した時点で名称とか分かるらしい。

ただ打刀とか言われても分からんのよな。

刀の一種というのは分かるけどねえ。


そう俺と中村が首を傾げていると、北上さんがチラリと刀をみて口を開く。


「えーっとね。簡単に言うと徒歩の人が使う刀かな」


っほー。

それは知らんかった……徒歩っていうと、武将とかじゃなくて足軽? 雑兵? そんなのが使うやつってことだろうか。

と言うことはだ。


「へー……じゃあ馬に乗って使うのが太刀とかだったり?」


よく、日本刀のことを太刀とか呼んだりするよね。

詳しくは知らんのだけどね。徒歩が打刀なら、太刀は馬に乗ってる武将かなーってなんとなく思ったのだ。


「儀式に使ったりとかあるけど、まあその認識であってるんじゃないかなー?」


お、大体あってたらしい。

しかしなあ。どうせなら太刀を使ってみたかったんだけど……うーん。


「使いたければ馬に乗ってこいってことか……」


はいよー! とか叫びながら太刀振り回すのか。

馬とか乗ったことは……小さい頃に牧場でちょっと乗せてもらったぐらいかなあ。

まともに乗れる気なんかせんぞ。

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