第283話

まあ、あんまりドロップ率高すぎてもバランス崩れちゃうしなあ。

町についた時点で、多少売れる程度に手に入ればいいか?


それに、これだけあっさり倒せる相手だし、これでドロップぽろぽろ出たらそれでね?

まあ、でたらラッキーぐらいに思っていくのが良いだろう。


「最初の一撃で死んでたっぽいよー」


「まじか」


えぇ……最初の一撃ってことは、あの蹴りでってこと? 確かに良い感じに当たってはいたけれど、一応当たったところは腕なんだけどなあ……折れた腕が腹に突き刺さってたとか? だとしてもちょっともろ過ぎないか? ネズミ並みじゃん。


確かに中村がオーバーキル過ぎるというのも分かる……けど。


「……いや、やっぱ確実に殺しておかないと。刃物もってたし危ないべ」


痛みがないってのが敵にも適応されているのなら、瀕死状態でも普通に攻撃してくる可能性がある。

てかゲームを参考にしている以上はそう考えたほうが良いよな。


うん、やっぱ多少はオーバーキルになっても確実にいくことにしよう。そうしよう。


そう一人納得していると、太郎がなにやらこちらに近寄ってきた。


「お? どうした太郎?」


俺が声を掛けると太郎は「わふん」とちょっとしょんぼりした感じで小さく鳴いた。

なるほどなるほど。


太郎との付き合いもそこそこ長くなってきた。

今ではクロだけではなく、太郎の言いたいことも何となくは理解できるのである。




「ふむふむ……お腹すいたと? どこかで食料調達できぶふぅんっ!?」


どうやらお腹空いたらしく……と思ったら、ぜんっぜん違ったらしい。

クロに頬をはたかれたぞっ。このお面、なんの防御効果もないのな!


頬を抑えてうずくまる俺にクロが「うなうな」と文句まじりに太郎の言葉を翻訳する。

えーと、なになに……。


「全然違ったわ。さっきの敵が落とした包丁だけど、あれ太郎が拾ってたんだって。でも敵が消えると同時に包丁も消えちゃったらしい」


まじでぜんっぜん違ってて笑うわ。

なんだろうな……なんかイメージ的に太郎の訴えってさ『遊んで!』か『ごはん!』とかしかないような気がするので、それが原因なのかね。


まあ、それはさておき。

なかなか大事な情報だよなこれ。


「奪うのはダメか」


「生きてる間なら使えるかな」


「あー。そうかもねー」


死んでから消えるってことは、仮に敵が武器を手放したとしても生きている間は消えずに残っているってことだよな。

場合によっては相手の足を折って動けなくしておいて、武器を奪って戦うのはありかも知れない。


その前に武器を手に入れればそんなの考えなくても良さそうだけどね。

はよ落ちてないかなー武器。あとアイテムも色々ありそうだよね。草とか種とか……あとは巻物とか? 壷もありそうだ。 杖はどうなんだろうな、あれば便利そうだけど。



「しっかし罠といい、敵といい殺意高いなあ」


「気を付けて進まないとねー」


ほんとそれな。

ダンジョンで最初に出会った敵がさ、包丁握りしめて突っ込んでくるとか下手すりゃトラウマですよ。トラウマ。


「ところでこの受けたダメージってさ、時間経過で回復するんかな?」


「どうだろねー」


「足踏みでもしてみたら?」


俺がそう提案すると、中村は「ああ、そうだな」といってその場で足踏みを開始する。

薬草とか落ちてりゃそれを使ってもいいけど、今のところ何も拾ってないしねえ。


しかし、これで通じるのは楽だね。中村もあのゲームの経験者だから、このダンジョンについてある程度事前知識を持っていると言えなくもない。


もしかすると、このダンジョンのことが広まればゲームの売り上げくっそ上がったりするのかな?

そうなれば社長もウハウハだろう。あの生首が夢枕に立ったのもそれでチャラに……なるかなあ。


とまあ、俺がそんなことを考えている間も中村の足踏みは続く。

だがしかし、一向に中村のHPバーが動く気配は……あるにはあるのだが、どうも速度が遅い。

ゲームだと一瞬で回復してはずだが……と、俺と北上さんが首を傾げていると、ふに生首の口が開いた。


「時間経過で回復はするよ。でも足踏みしても意味はないね」


「もっと早くいってくれませんかねえ??」


「面白い絵も獲れたし、いいじゃないかい」


ほんとこの生首はよぅ。

まあ……面白い絵だったのは認める。お面が良い味だしてると思う。


てか、いつのまにカメラ構えてたんだこいつ? 中村がすっ飛んだときに拾ってたのだろうか……。


「撮影は私がやるよ。できれば君たちにはダンジョンに集中してもらいたいからねえ」


「まあ……そういうことならお願いしようかな」


とりあえずカメラ返せよと視線を向けると、生首からそんな提案があった。

一応他のメンバーに目配せして、軽く頷くのを見てから俺はその提案を受けた。


自分のダンジョンの宣伝なのだから、真面目にやるだろうってのと、みんなレベル1になってしまったので、アマツのダンジョン内ほどみんなに余裕がないだろうなーというのが理由だ。まあ、そこは慣れたら違ってくるのだろうけど……最初だしね。


「脳内にMAPが出てくるの違和感あるけど便利だな」


ダンジョン内の地図に関しては、アマツのダンジョンとは違って脳内に勝手に浮かんでくるやつだった。

この辺りも思いっきりゲームを参考にしているんだろう。なかなか使いやすい……アマツのダンジョンもこっちの方がいいなーと思わなくもないけど、アマツはアマツなりにダンジョンにこだわりあるだろうし、一緒にはならないんだろうなーって気もする。


「まあ便利よな……落とし穴あったらどうする?」


「全員飛び降りる方向でいいんじゃなーい?」


「孤立するよりゃいいよね」


罠で怖いものは色々あるけれど、ゲームと違って落とし穴はかなり致命的になる可能性がある。

分断されたり、落ちた先がモンスターハウスだったりとかね。


誰かが落ちた時にどうするか決めておくのは大事だろう。

幸い俺たちの意見は分かれることなく、誰かが落ちたら一緒に落ちる方向となった。


クロは「にゃ」と鳴いて、太郎はひたすらはしゃいでいた。

太郎が理解しているか若干不安があるが……まあ、みんな飛び降りたら一緒についてくるだろう。何も言わずに飛び降りるつもりもないから、大丈夫大丈夫。


「とりあえず進もうか。罠が怖いから中村は最後尾で……」


まあ、なにはともあれ先に進まないことには始まらない。先頭は俺、そのすぐ後ろをクロと太郎がついて歩き、その少し後ろに北上さん、さらに後ろに中村と続き、俺たちは最初の部屋から通路へと進んでいった。


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