第259話


「太郎……お前、頭良くなったんじゃないのか……?」


カメラを持ったまま、震える声でそう太郎にたずねる中村。

太郎は変わらず『ハッハッハッハッ』と息をしている。興奮しすぎて体温上がっとんのかな。


そして太郎の頭だけど……うーん。


「よくなってこれじゃないかなー」


「うっそだろ」


北上さん何気に酷い事いうなっ。

まあ俺も口に出さないだけでそう思っていたけど。


「太郎ってまだ若いんだっけ」


「三才だってー」


「……三才と考えれば妥当?」


これが理由かなーって思う。

クロはなんだかんだで俺と同じ年だからねえ。


ただあんましおバカなままだと、普段は可愛いですむけどダンジョン内だと困ったことになる。

なんかダンジョン側でうまい具合で調整しとんのだろな。たぶん。


「なるほどたしかに……でも戦闘時は指示にしっかり従うし、頭良さそうな気がするんだけど……わからん」


そういうと中村は首を傾げながら太郎へと近寄り、屈みこむ。

そしてカメラを太郎に見せながら話始めた。


「ええと……これな、今から太郎とかの動画をとってな、皆に見せようと思ってるんだ。それで太郎の自己紹介をして欲しいんだけどさ」


しっかりゆっくり言い聞かせるように太郎に語りかける中村。

その姿はいつもよりずっと真面目で、誠実そうに見える。普段からそれならモテるんじゃないかなとか思わなくもない。教えないけど。




『ハッハッハッハッ』


「よっし、次行くぞ次!」


「諦めおった」


「しょうがないねー」


嬉しそうに尻尾を振って、中村を見つめる太郎。

やっぱ中村のいう事あんま理解してないなっ。


まあ、戦闘に関しては問題なくやれるようだし、そのうち賢くなることを期待しよう。

数年も経てば大分変るんじゃないかなーって思うよ。たぶんだけど。




「まあでも映像的には美味しい気がする」


「たしかにー」


それはある。

動物の素の反応って、結構笑える時があるからね。

太郎のあれはきっと受けるだろう。



目的地は割とすぐついた。

道中の敵は瞬殺だし、道も分かってるから駆け足でいけちゃうからね。


「んじゃ、この前の動画の続きからいっくぞー。前回はゴブリンけど今回もゴブリンなんだ」


「次もゴブリンだぞ」


「その次もだねー」


はっはっは。


「ゴブリン多すぎ問題」


ほんとそれな。


「まあねえ、でもあいつらカードは優秀なんだよ……あと、人型と戦うのに慣れるには良いと思う。でもやっぱ多すぎ」


ポイントとかカードとかその辺を考えると凄く美味しい敵だと思うけどね。

似たようなのが続くと、どうしてもダレちゃう訳ですよ。そのへん調整すればいいのにと思わなくもないけど、アマツはそのまま行く気なのかな。

単に時間があまりないし、実害というようなものはないし、一時的に放置しているだけかも知れないけどね。


ま、とりあえず狩り動画を撮りますかね……っと、その前に。


「ああ、そうだ。戦闘の前に新しいカード入手したから、それの紹介しようかなって思うんだけど良い?」


「お、まじか。飛竜だよな? ぜひやってくれ!」


この前紹介したばかりだけど、カード追加されたーってことで自慢もかねて紹介しようと思う。

クロの変身姿をその目に焼き付けるが良いなのだ。


まあ、先に俺がやるけど。


「んじゃ……ついでにこのままゴブリンもやっちゃうよ」


「おう」


ゴブリンは犠牲になるのだ。

何時も犠牲になってる気がするな。



「どーも島津です。この前紹介したカードだけど、一枚新しいのが出たんだよね」


まあ、それより撮影だオラァ。


「出たのは23階層の敵で飛竜のカード。効果は……入手してからのお楽しみって言いたいところだけど、一つだけ紹介しようと思う」


ふと思ったけど、これアマツがカードの効果分からんようにしてたんだよな。

確認とっておこう。


「……いいかな?」


「いいよ!」


おしおし。

許可が出たので一つだけ紹介しちゃおう。

てかアマツ、ここ見てんのなっ。別にいいけど。


「ありがと。今のとこはカットで……なんで秘密にするかというと、つけるまでスキルとかの記載が? になってるんだよね。ダンジョンマスター側が望んでそうしてるぽいので、全部は言わないで置こうかなと」


理由はちゃんと説明するよ! 説明は大事。


「んで、いくつかある効果のうち、龍化ってのがあるんでそれの紹介をするね。名前の通り龍に化けるスキルだよ」


そういうやいなや、俺はすぐに龍化を発動する。

すぐに体中がギシリと音を立て変化していき……中村の顔が面白くなっていく。

中村はまだみてないし、そういう反応なるか。


「はぁぁぁぁあ!?」


「中村うるさいぞ……とまあこんな感じでドラゴンカードと違って、見た目が思いっきり変わるっぽいんだよね。ちなみに身体能力がざっと2倍ぐらいになるよ」


「やべえなおい」


実際やばい。

と言っても身体能力部分に関してはドラゴンカードとそこまで差はないのだけどね。

ただ向こうは時間制限ありでこっちは無しだから、長期戦とか考えるとこっちのがずっと強いカードだ。


「んでこの姿なんだけど……どうも人によって違うっぽい」


「っへー」


「あ、そうなんだー?」


そうなんですよー。

てか北上さんはクロの龍化後の姿を見てる……ああ、猫と人だもんな。そもそも元のサイズとか種族が違うし、龍化後の俺とクロの姿が違っても当然と思うか。ドラゴンカードの竜化もそうだしね。



「俺はもろ人外になったけど、人によってはそうでもなかったり……中には二足歩行ですらなくなる人もいるかもね?」


「そこで俺を見るなし」


「楽しみにしてる」


「おう、めっちゃ恰好良い姿になってやんよ」


四足になって、顔だけ中村のままとかになったりしてな。

北上さんはー……そこまで龍! って感じならないと個人的には嬉しい。こっちもちょっと期待……そういや北上さんってもうレベル20超えてるのかな? それなら飛竜カードをセットできるかも知れない。


あとでこっそり見せてもらっちゃおうかな……楽しみだっ。

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