第257話

ギシッと体全体が軋んだ音がした。

あ、これやばそう……そう思った直後から体全体に変化が起きる。

筋肉が盛り上がり、骨が太く堅く、骨格そのものが変わっていくのが分かる。


「ん……ぎっ」


別に痛い訳ではないが、体に生じた異常に思わず声が漏れる……が、ほとんど声にならない。

声帯なども変わっていってるのだろう。空気だけは漏れる音がした。


変化が起きたのは体だけではなく、装備にも変化が起こっている。

素材を使って強化していたりしていたので、元々生物っぽい部分はあったが……それでも大半は生地などであった。それが全て生物のそれに置き換わっていく。


体感的にはとても長く感じたが、実際の変化に掛かった時間はせいぜい数秒だろうか。


「うわ……うわ、これ声がどっから出てんだ?」


手足に胴体、見える範囲でも明らかに人のそれではなくなっている体を見て、声が漏れるが……その声にまた驚いてしまう。

喉から声が出てないのだ。


どこかと言われると難しいが……位置的には胃のあたりが近いかも知れない。

そこに胃があるのか? と問われるとそれはそれで怪しいが……。


「鉈と盾が体と一体化してる……まじか」


次に気になったのは手に持っていたはずの鉈と盾が肉体の一部になってしまったことだ。

盾は腕全体を覆うように透明感のある甲殻のようになっており、鉈は長くて肉厚な一本の爪と化している。


「視界もなんかおかしい、なんでここ見えるの」


頭上に手を翳せば、本来見えないはずの手が見える。

なんだろう。視界が二つあるような感じだ。

焦点も二つあるので、これはヘルメットが変化して目が出来ているんじゃないかな……。



ちょっとここまでは肉体が変わり過ぎていて、正直なんとも言えない気持ちになってしまった。

だけど素直に喜べる変化もある。


「翼もあるし飛べそうだなこれ」


身の丈よりやや小さいぐらいの翼が背中から生えていた。

これだけだとせいぜい出来て滑空ぐらいかなーって気がするけど、そこはファンタジーな能力がついているもんで、かなりの速度で自由に空を飛べそうである。


それならさっそく飛んでみようということで、クロと一緒にランデブー開始と洒落こもう。


「はやっ!?」


クロに声を掛けて、翼をくいっと羽ばたかせると、凄まじい勢いで上空へと舞い上がった。


「オゴゴォッ!?」


早すぎてちょっと制御できないですねえっ!?

ぐいんぐいんと曲がりまくった挙句、地面ですり下ろされる羽目になったわ。


こりゃ練習が必要だね。

ただ本当にかなりの速度がでるので、自在に飛べるのであれば飛竜に対しても空中でドッヅファイトと洒落こむことが出来そうだ。


あとはね。


「身体能力アホみたいにあがっとんな」


記載がないだけど、身体能力はがっつり上がってる。

体感的に倍かな?


「時間制限ないのもいいなあ……竜化もなぜか時間制限なくなってるぽいし」


ドラゴンカードは竜化に制限があったけど、飛竜カードにはそれがない。

そしてなぜか一緒に使った竜化が解ける様子がないんだよね。地味にうれしい。



「たっぷり狩ったし、帰ってご飯にしよっか」


その後はクロと一緒に実際に飛竜を狩りにいったりして、がっつり体を動かしたよ。

クロも俺も満足したので、帰ってご飯かなーって声を掛けたんだけど、クロがなにやらこっちをじーっと見つめている。



「ん? ああ、称号かー……これ効果分かんないんだよね」


一つ確認してないのあったわ。

称号だけは効果が分からんのよな。スキルと違った何か発動させるといった風でもないし……さっぱりだ。



「この称号って効果なんなんですー?」


なので作った本人に聞こうと思う。

20階のセーフルームに戻ったところで、アマツに聞いてみる。

姿は見えないけど、声を掛ければ顔を出すに違いない。


そして案の定、声を掛けるとすぐにアマツが顔をだし、笑顔で答える。


「ただのフレーバーさっ!!」


「……」


フレーバーかよぅ……。


「ちなみに誰に目を付け……気に入られるかによって内容は変わってくるよ」


「何か今へんなこと言いませんでした?」


目を付けられるとか言いかけませんでしたかね? 気のせいかな。気のせいじゃないよな。


「……じゃあもし仮にあの生首に目をつけられたら、あいつに関係する内容になると?」


「そういうことだね! 早い者勝ちだけど!」


「中村かわいそう」


「アハハ!」


どうやら俺はセーフだったようだ。

ただ中村は犠牲になるかも知れない……アマツ的には単に俺の友達ぐらいにしか思ってなさそうだし。ああでも動画とか作って……ダメだ、あれは生首と遭遇したあとだ。


たぶん中村が飛竜カードを手に入れた場合、称号としてつくのはあの生首関連の何かだろう。



「そんじゃ戻りますねー」


「うん! これからも頑張ってね!」


その後、例の呪殺の視線に関しても話を聞けたのでお暇することにした。

ちなみに味方を巻き込むかどうかは、巻き込まないので安心してほしいとのことだった。

よかったよかった。うっかり発動させて味方が全滅しました! とかなったほんと洒落ならんもんな。



んじゃ、とりあえず謎も解けた事だし帰ってご飯にしますかねー。


と、休憩所に戻ったのだけどね。


「……ん???」


俺をみた隊員さん達が急に武器を構えると、こちらに向けてきたのである。





龍化解除すんの忘れてたぜっ。


「てっきりモンスターが現れたのかと思ったぞ」


「いやー、解除すんの忘れてました。すんません」


なにせ今まで勝手に解除されてたからね……ついうっかりってやつだ。


「もしかして飛竜のカード手に入ったんだ?」


「ええ、入りました。ドラゴンカードをより強力にした感じっすね」


「っへー」


「でもそこまで見た目が変わっちまうと、人前だとちょっと使いにくいな」


俺が飛竜のカードを手に入れた事を伝えると、隊員さん達が興味津々といった様子で食いついてきた。

しかし、見た目そんなに違ったんか。確かに見える範囲はあれだったけど。うーん。


「あー……ちなみにどんな見た目だったんです? まだ鏡とかで見てなかったんすよね」


「二足歩行するドラゴン?」


まじか。ドラゴニュートぽいとかじゃなく、ドラゴンなのか。


「そんな感じ。写真とったげるからちょっと変身してみなよー」


「あ、じゃあたのんます」


「掛け声ないんだ。へんしんっとか」


さすがにそれはちょっと恥ずかしい。

小学生の時ならいけたかも知れないけど、この年になるとちょっとねえ。


まあそれはさておき龍化するとしよう。



本日二回目の龍化だけど、無事成功した。

相変わらず体がギシギシいってたけどな。


んでさっそく北上さんがパシャパシャとスマホで写真とってくれたので、拝見することに。


「こりゃまた……通りで視界が広いと思った」


ヘルメットにあると思っていた目だけど、思ったよりがっつり目だった。

人のそれじゃなくてドラゴンとか爬虫類っぽい目が二つデデンッとついてる。しかもかなりでかい。


人間部分の目も残ってはいるんだけど、こっちも見た目は変わっていてほぼドラゴンだねこりゃ。

しっかしなあ。


「まじで人の部分が二足歩行ってとこしか残ってない……」


こりゃモンスターと思われても仕方がないね。

見た目はまさに二足歩行するドラゴンだ。

ちょっと頭部が特殊な感じだけど、人よりはドラゴンのほうがずっと近い。


なんといったら良いのかな。

たとえが難しい……でっかい鮫の着ぐるみの口の中から、小さい鮫の顔がこんにちわしてるみたいな?

実際には鮫じゃなくてドラゴンだけどさ。



と、俺が写真を見ながら複雑な気持ちでいると、都丸さんが質問してきた。


「クロが使うとどうなるんだ?」


ふむ。


「そういえばまだ試してないですね……やってみる?」


俺だけ使ってクロで試してなかったな。

クロに聞いてみると『にゃー』と一応やると返事があったので、カードをいったん外してクロに渡す。


そしてクロはカードをセットするとさっそく龍化を使ったらしく、その姿が変化していく。

俺の場合は迷彩服とかヘルメットとか諸々全部、生物のように変化したが、それはクロも同じらしい。


クロの装備も原型がなくなり、やがて一つの形を作っていく。




「お、おおおぉぉっぉぉおっ!?」


龍化後のクロの姿を見た俺は思わず歓喜の声を上げていた。


そこに居たのは見た目は猫そのものだった。

ただいつものクロとはシルエットが違う。

装備類は全てしぼ……お肉に変わってしまったのだろう。丸々とした体形である。



ようは太った……ぽっちゃりした? まあでぶ猫ですね。

スラっとした猫も猫らしくて好きだけど、こっちこっちで大好きです。

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