第250話


「……」


「……」


そういや言ってなかったなあ!?

沈黙がくっそ気まずいんですが。



「な、なに……?」


しばらく無言でいた中村であったが、ふいに立ち上がるとゆらゆらと揺れるように近づいてくる。

まるで幽鬼のようだ。


「まさか、出来たのか、彼女が」


震える声で確かめるように言う中村。

その目をみれば分かるが、あれはどうみてもそうだと確信している。

視線に呪が絡みついているようだ。



俺はその視線から逃れるように、すっと顔をそらす。



「うぉぉぉおいいっ!? いつのまに作ったんだよおい!」


「アメリカいったときに、ちょっと。落ち着けって」


首元をつかんでガックンガックンゆする中村をどうにか落ち着かせようとするが、逆効果だったらしい。


「仕事でいったんじゃねーの!? この裏切り者がァ!」


「いや色々あってね?」


目が血走ってて怖い。

あとそれ言われると俺としてもちょっと何も言えない。


お仕事のはずだったんだけどなあ?


「色々だぁ?? 自慢かこの野郎、地獄に墜ちろ! クロに嫌われちまえっ」


「それは勘弁して」




10分後。

どうにか落ち着いた中村は、部屋のすみっこで膝を抱えて蹲っていた。


「中村が心を閉ざしてしまった」


「うるせぇこの破廉恥野郎」


「えぇ……」


破廉恥とかそんな言葉初めて言われたわ……。

てかこの中村いろいろとダメそう。


「ほら、中村にだって出会いはあるよ……動画みて興味持ってくれる人だっているかもだよ?」


既に相当な人が見ているわけだし、当然女性だっているだろう。


「動画見てとかろくな出会いになる気がしない。てか動画みて寄ってきたってそれ、俺がどこの誰だか調べてきてんじゃね? 怖くて無理だべそんなの」


「意外と冷静」


それもそうだな! とかいって立ち直ってくれりゃーいいのに、妙なところで冷静なんだからよぉ。

……まあ、実際無理よな。


急に知らない人から声かけられたりしたら、怖ってなるよ。

それに向こうはこっちのこと調べて知ってたりするんでしょ? むりむり。

ダンジョンの個室にこもっても、出待ちとかされそうでまじ怖い。


「うーん……隊員さんを紹介してもらう?」


女性隊員は北上さんだけじゃないし。

中村はレベル的にいつものメンバー以外とも組んでるっぽいしね。

コミュ力はあるんだよ。出会いとかそのへんがダメなだけで。


「振られでもしたら気まずいなんてもんじゃねーべさ。これからも一緒に潜るんだし」


……それは確かに。

俺も北上さんがその気がなくて、俺の勝手な思い込みとかだったりしたら……やべえな、日本に居られないレベルかもしれん。



うーん。

しかしそうなるとなあ……難しいなあ。


「あー……あとは生首ぐらいしか……」


見た目だけは美人だし。

鎧か何かに据え付けておけば……まあ冗談だけどさ。


「……」


「……ん?」


「……」


「え、いやそこまで無言になられると怖いんだけど……」


俺の言葉を聞いた中村が急に無言になった。

怒ったわけじゃなさそうだけど……いや、まさかねえ。


てかずっと無言だと怖いわっ。




「んじゃ、今日はここらで帰るわ」


夕飯を適当にとり、少しゆったりと過ごしたところで、明日も早いからと中村は帰り支度を始める。

その顔は妙にすっきり? した感じで……ううーん?


「おう、お疲れー。まあ動画伸びてよかったな」


「ああ、助かったよ。また撮影するときはよろしくなー」


「大丈夫だろうなあいつ?」


ぱっと見はなんともないのだけど、ちょっと不安だ。

生首を押し付けようとしたのはまずかったか?


女性との接点がなさ過ぎて、もう性別が女性ならなんでも良いとかなってるんじゃなかろうか。

友達として、彼の将来を思うとちょっぴり不安です。





「えーっと、前にもらったURLどこいった?」


まあ、なんとかなるべ。

とりあえず掲示板みてみよっと。


「さすがに前のスレは残ってないな……一番勢いあるのはこれか、Part184? もうそんなに進んでるんだ」


前に見たのは……なんだっけ。

たしかトライアル会場に尻尾生やした変態がどうとかそんなスレタイだった気がするけど。


まあ、結構前なのでもう残ってないね。

今あるのはダンジョン攻略のススメってやつだ。


ちらっと覗いてみると、俺たちが投降した動画について話題になっていた。



「あ、やっぱ試験の時の事、覚えてる人いるな」


俺とクロ、それに中村をみて以前、試験会場で話題になった連中だと気づく人はすぐに気づいた。

特にクロの存在は印象に残っているだろうし、余計だね。


「特定班こっわ。これペナがなければ特定されそうだな……改めてアマツに感謝しておこう」


気になったのは俺たちの身元について話題に上がったところか。

もう札幌会場って時点で道民だとはバレている。


そこからさに住んでるところとか、どのダンジョンに潜ってるとか……いや、知ってどうすんだよって思うんだけどさー。


ただまあ犯罪行為するとダンジョン入れなくなっぞ? ってことなので、調べようとする人は現れなかったので助かった。

なんか色々とトラウマになってそうな雰囲気だね。


今度アマツに何か差し入れしてあげようと思います。



ただ、どこのダンジョンか? って話については即ばれたけどな。

なにせ日本にあるとわかっているダンジョンで、一般人が入れないダンジョンは一か所しかないし。

バレバレですわ。


てか、そのあたりの情報から俺がニートでーっす言ったのも嘘だとばれた。

いずれバレるかなーって思っていたけど、思っていたよりはやかったな!



あとね。


「俺の剣鉈も誰が作ったのか特定されてる。備前長船派の……まじ?」


小屋にあった鉈剣、なんかすごいのだった。

いわゆる刀匠が打ったもので、数もそんなに出回ってるものじゃないはず、とのこと。


依頼して打って貰うしかないから、分からんのだそうな。


「ってもう引退してるのか、昭和の中期から後期にかけて造られたと考えられると、よく分かるなあ」


打った人はまだご存命とは言え、結構なご高齢ってことですでに引退していた。

あなたの剣鉈のおかげで助かってますと何か贈り物でもしようかな。


「別の人のだけど売ってるのな……んん? 桁が一つ違うやん、やっば。しかも売切れてるし」


数十年前はともかく、今の時代だとそういった刀剣類もネットから作成依頼だしたり、買えちゃうらしいね。

その人のお弟子さん……と、その他数名でやってるサイトがあったのだけど、品物はすべて売り切れな上に、注文が殺到して次の受注がいつになるか未定になってたよ。


俺たちの動画が原因って訳じゃないよ。

それ以前からその状態だったそうな。


ダンジョンができたことで、需要が膨れあがったんだろうね。

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