第243話

ごめんごめんと謝り焼き鳥を何本か口に押し込むと、徐々に中村の瞳に光が戻ってきた。

ごくりと焼き鳥を飲み下してコーラを飲み、中村は続きを話始めた。


「まあ、話をしたいってのがそれでさ……会社の人もつれないし、今のところ動画に出てるのは俺だけで、それだとちょっと寂しいだろうなと思って」


そういってこちらをじっと見つめる中村。

野郎に見つめられる趣味は……んん??


「……俺ぇ!?」


思わずでっかい声を上げてしまった。

驚き自分を指さす俺をみて、中村はウンウンと頷いている。

まじかよ。


「あとクロと……可能であれば隊員さんも」


「俺とクロはまあいいとして……隊員さんはどうなんだろうな。オフの時ならいけるかもだけど」


クロはたぶん撮影しようが気にしないだろうな。

隊員さんも顔を出したりしないのであれば、嫌とは言わないと思うけど……ただなあ、平日はまず無理だろ。それに土日も怪しいぞ。独身の人ならいけると思うけど、中村の言う隊員さんってのは都丸さんたちのことだろう。あの人らって大抵嫁さんに子供がいたはずだから、土日もきついんじゃないかなーって気がする。


うーむ……そうなると他に誰かいるかというと……ん?


「あ、生首」


「垢BANされるわ」


ですよね。

あれは映像として流しちゃダメな奴だ。


そうなると動画は俺とクロが出る感じかな? 北上さんもいけるかもだけど、基本ダンジョンに引き籠ってるはずだしなー。


「んまあ、動画に出るのは別にいいとして……俺に喋ったりとかは期待せんでよ? てかあれだ、クロに適当にしゃべって貰えば視聴数伸びてウハウハなんでね?」


よくある動画みたいに喋るとか俺には無理よ。無理無理。

喋っても超棒読みになると思う。


ぶっちゃけ視聴数を考えるだけなら、クロを映せばそれだけで解決するような気もするけどね。

日本で一番有名な猫となるに違いない。


「そうだけど、そうなんだけど……それはなんか負けた気がするから最終手段で」


まあ、気持ちはわからんでもない。



「どんな動画にするつもりなん?」


「んー……最初に挨拶して、それ以降はひたすら狩りの光景とか? 途中で倒すときのコツとか、どんな装備がいいとか、カードはどれがお勧めとか……攻略解説動画みたいな?」


「ネタに走らないのは良いと思います」


割とまともな動画になりそうでなにより。

視聴数稼ぐのに結構無茶する動画もあるって話には聞くし、中村も……と、若干不安だったけどよかったよかった。


「あんな血みどろの状態でネタに走る気にはならねーっての」


「そりゃそうだ」


そりゃごもっともで。


装備とかカードはともかく、倒すときのコツとか首刎ねるか頭潰せぐらいしかないような気もするけど……ああ、そこに持っていくまでのコツってことかな? それなら需要ありそうな気もする……ん、まてよ?


首刎ねたり頭潰す場面を動画にしちゃって大丈夫なのだろうか。

モザイクかけたらあまり意味ないし……無機質ダンジョンだけって訳じゃないよな。だって血みどろの状態で……って言ってるし、普通のダンジョンで動画撮影するつもりだろう。



「……って、無機質以外のダンジョンもやるの? 大丈夫? BANされない?」


「事前に警告いれておけば大丈夫っぽい。まあ、お金は貰えないけど……そっちはもとから期待していないし」


「なるほどね」


へー、知らんかった。


「痛みとか精神的にキツイとかで脱落する人多いみたいだし、その手の動画あったほうが良いと思う。ほどほどで良ければ手伝うよ」


「おう、あんがとな!」


グロい動画だと企業が広告つけてくんないってだけで、動画自体は投稿できんのね。


外国のサイトだし、そのへんの規制とかゆるいんかね。

まあ、なんにせよBANされる心配がないのは良かった。頑張ってやりまくっちゃうぞ。


ダンジョンに人があまり来なくなると、アマツが凹みそうだからね。

それに生首ダンジョンができたらさらに減りそうだし……動画が切っ掛けで人が増えるといいんだけど。


うん、最初は付き合いで手伝うつもりだったけど、こう考えると俺も動画作りを頑張ろうってなるな。

中村もー……中村も?


「そういやさ、なんでまた急に動画つくろうと思ったん?」


そういや中村はなんで動画作りはじめたんだっけ。ボッチだから? いや、ボッチは関係ないか。


「んー、まあ脱落者云々もあるけど……島津さ、俺とか隊員さん意外と組んだことある?」


何を急に……そんなのあるに決まって……?


「あるー……いや、ないか。ないね」


なかったわ。

試験の時のはありゃノーカンだろうし。


「俺は普段は隊員さんとか会社の人と組んでるんだけどさ、あと島津とか。んで、予定が合わなかったりする日もあるんだよ」


「まあ、そうだろうね」


組もうとした人がたまたま休みだったりとか、急用でいないとか、まあ色々あるよね。


「でもソロじゃちょっとなーってなるじゃん? だから他の人と野良パーティー組もうとするんだけど」


「っほー」


知らない人と組もうとか、またチャレンジャーなことやっとるな!

まあ、中村はコミュ力低くないしね、なんとかなるのだろう。


「避けられるんだよ」


えー。


「……それは、レベルが合わないとかそういう?」


なんだかんだで中村って結構深いところまで潜っているし、遅れて始めた人らと会わないのはしょうがないっちゃしょうがないよね。

気合いれてレベル上げしているような連中は固定パーティ組んでるだろうしさ。


「試験の時の噂が広まっててな。島津は当然として、なぜか俺までやべー奴あつかいよっ」


「なるほど、まじでボッチになったのか!」


「うるせーっ! なんでだよっ、俺なんもしてないじゃんかよ! ちょっとナイフで首刺しまくっただけだぞっ!?」


「そのセリフ、ただのやべー奴だぞ」


島津は当然としてってどういう意味だこんにゃろめ。

中村だって十分ヤバい奴だよ! そらボッチなるはずだよ!


あれ、それでいくと俺もボッチに……いや、俺にはクロがいるしっ、ボッチじゃないし!



そのままギャーギャー言い合ってたけど、だんだん悲しくなってきて……コーラのお代わりがきたところで、一旦休戦となった。


悲しい争いだったね。



まあ、とりあえず中村が動画を作ろうとする動機は理解した。


「なるほどねえ、それで人気取りのために動画をつくろうと」


「人気取りいうなし、誤解解くためだよ」


動画ではたぶん顔を出すことはないだろうけど、まあ装備で誰かってのは分かるだろう。

なにせ隊員さんは隊員さんとしか組まないし、例外は俺とか中村だけど……まあとにかく彼らが一般人と一緒のパーティになることはまずないんでないかな。


そうなるとこの装備で一般人の中に紛れ込んでるのは中村だけとなる。はず。

動画でまともな人アピールしときゃーその内避けられることもなくなるんでないかなー……と思う。

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