第217話

眠気に耐えながら必死に話を聞いた。俺ってえらい。


疲れてるときに英語聞くとかさ、もう無理でしょ。

通訳さんが日本語話してたけど、それでも眠気が襲ってきて無理無理。


クロにいたっては席についたらそっこうで寝に入ったからな。

猫耳尻尾セットつけたら、俺も寝れたかな? 人としての尊厳失いそう。


んで、ちょいちょい抜け落ちてるけど、記憶に残ってる話をまとめるとだ。


・明日、アメリカが苦戦している階層で、自衛隊に戦闘内容をみてもらいたい。

・気付いた点について指摘やアドバイスがほしい。

・実際に自衛隊にも戦闘を行って貰いたい。

・以降はチームをいくつかに分け、指導してもらいたい。

・可能であれば階層の更新をしたい。

・装備については貸出も可能。ただ、返却はしてもらう。


他にも色々言ってたんだけど……記憶にない。

場面がちょいちょい飛んでるから、目を開けたまま寝てたっぽいな。


とりあえず、この後は歓迎会ってことで、夕飯ご一緒しましょーって流れだそうな。

都丸さん曰く。


「絶対、北上から離れるなよ」


だって。

こええよ歓迎会。


「あ、会場はここじゃないんだ」


「隣に用意したそうだ。立食パーティーだとさ」


「ほうほう」


てっきり椅子とかそのへん片付けて、ここが会場になるのかと思ったら違ったようだ。

隊員さんの後について行くと、別会場には既に料理が並んでいた。

全員が一度に食うだけあって、かなり広いし料理もたくさんある。


なるべく人がいるところには向かわずに、北上さんと適当に美味しそうなつまんでようか。

てか、クロのご飯あるんかな?





「これ、おいしい?」


適当にとってきた料理を口に運んでいると、北上さんがこちらを覗き込むようにみていた。

北上さんのお皿にも俺と同じ料理がのっているが……俺は毒見役なのだろうか。


とりあえず食うけど。


「うん、おいしい。おいしい?」


美味しいような気がした。

うん、不味くはないはず。


「なんか高級そうな味です」


ちょっと慣れない感じの味付け……なんかこう高級感あふれるような?

決して不味くはないんだけど、美味しい! と、手放しに褒められるかと言うと難しい。


俺って貧乏舌ですし。


俺の言葉を聞いて、料理を口に運ぶ北上さん。

首を傾げながら料理を飲み込むと、なるほどと言ったように頷く。


「あー、わかるわかる。ぶっちゃけおにぎり片手に焼肉の方が……」


北上さんも俺と同じく貧乏舌……って訳じゃないか。

焼肉とおにぎりとかそれ絶対おいしいやつだし。


「あ、でもデザートはおいしそうだよ?」


「え? あ、ほんとだ」


まじか? と思ってみたらまじだった。

てか、これデザートだったのか。


「てっきり虹色のケーキが並ぶかと思ったけど、違うんすね」


「あれはあれで一度は実物みてみたいよねー」


食べてみたいとは言わないのがみそだな。


アメリカのお菓子って蛍光色なイメージが強くて、見てもデザートとして認識してなかったようだ。

ここに並んでるのは普通に美味しそうだし。実際美味しかった。



「クロ用のご飯も用意してくれてるとはねえ」


「ねー」


ちょいちょいつまんで食ってる俺たちの横で、クロが黙々と猫缶食べてたりする。

割と高級そうな猫缶だね。お皿をてしてしと舐めているので、割と気に入ってそうである。



猫缶を食べて、満足そうにしているクロを撫でていると、背後から人が近付いてくる気配がした。


「島津くん」


「ん」


北上さんの声を受けて立ち上がり、背後を振り返る。

するとそこに居たのは、以前日本のダンジョンに来た、アメリカの隊員さんであった。


「ご無沙汰しております。島津さん。北上さん」


「ええ、お久しぶりです。ウィリアムさん」


「お久しぶりです」


にこやかに笑みを浮かべるウィルアムさんにつられ、俺もつい笑顔で返事を返してしまう。

クロ? 後ろで欠伸してるよ。


「ご活躍はよく耳にしますよ。なんでも既に22階まで進んでいるとか」


「あ、このついこの前23階まで行きましたよ」


「それはそれは」


俺の言葉に笑みを深くするウィリアムさん。

まあ、これから協力してダンジョン潜ることになるわけだし、その協力する相手の実力がより上がっていると分かれば、まあ嬉しいだろう。たぶん。


……ところでですね。

さっきからウィリアムさんの横で、こっちをちらちら見てくる女性がいるんですけど。

てっきり紹介してくれるかと思ったんだけど、ウィリアムさん中々言い出そうとせんな。


あ、女性が焦れたっぽい?


「そろそろ私も紹介して貰っていいかしら?」


「ああ、そうでした……こちらはエマ中尉。我々と同じく、アメリカのダンジョン攻略組みのトップメンバーです」


ほほう。

これまた女優みたいな隊員さんだね。

アメリカだとすごいモテそう。


「島津です。よろしくお願い致します」


「北上です。よろしくお願い致します」


俺と北上さんが、エマ中尉……中尉って、どれぐらい偉い人なんだろうな。軍隊の階級とかよーわからんのよな、俺。


とかなんとか挨拶しながら考えていたら、ふいにエマ中尉が視線を下に向ける。


「あら、可愛い猫ちゃんね」


視線の先に居たのはクロだ。

挨拶しにきた二人の様子をみにきたんだろうかね?


エマ中尉はクロをみて、身をかがめようとして……その瞬間、クロが俺の肩へと飛び乗った。

抱きかかえようとでもしたんだろうか? エマ中尉は笑顔のまま固まっている。


まあ、初対面の相手がいきなり手を伸ばそうとしたら、そりゃまあそうなるよね。

別にクロはそこまで人見知りじゃないけど、ここは見知らぬ土地だし警戒もしているのだろう。


っと、いちおうエマ中尉をフォローしとくか。

ちょっとさすがに可哀そうかなー……なんて声を掛けようとしたんだけど。


「オゴッ」


クロが俺のあごに頭をすりつけてきた。

ゴンって。


……いや、むしろこれ頭突きじゃね?

舌噛んだんですけどー!

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