第182話

まあ、名前は良いや。

そのうち慣れるだろうしね。


それはそうとこの犬……じゃなくて太郎。


「元気いいですね」


「ああ……なんだ?妙に落ち着きが」


妙にはしゃいでるんだよな。

さっきからこちらをみて、飛んだり跳ねたり、ぐるぐる回ったりしている。

別に犬用のご飯とか持ってないんだけどな。


この落ち着きのなさでダンジョン潜って大丈夫だろうか……とちょっと心配していると、足にもふっとした感触が触れる。

クロが俺の横に座っていたのである。


「クロが気になるのか」


太郎の視線はクロに釘付けだ。

自分より小さな生き物が珍しいのかね?

落ち着きがないのもその為だろう。



「あ、こら」


我慢できなくなったのか、太郎が駆け出しクロの元に駆け寄りベランダから開いた窓に入ろうとして……その瞬間クロの猫パンチが飛んだ。


「あー」


「容赦ないな」


クロってば、ダンジョン内程じゃないけど外でも結構パワーあるんだよね……5%しか影響ないとは言え元が元だから、普通の成人男性よりパワーあるんだなこれが。


カウンターで猫パンチを食らった太郎はどうなったかと言うと、軽く飛ばされて庭をごろんごろんと転がっていた。


が、すぐに起き上がると更に嬉しそうにクロへと駆けよっていく。


「めげないっすね」


「ああ、その辺りも加味して選ばれたからな」


さらに何度も猫パンチくらっては転がってを繰り返してるんだけど、めげないなこの子。

遊んでもらってる感覚なんだろうかね?だとしても普通は最初の一撃でビビりそうなもんだけど……都丸さん曰くその辺りを加味したそうだから、まあ特別な子なんだろう。


でもね。



「でもちょっとおバカっぽいのが」


「……それは言うな」


俺の言葉に渋い顔をして答える都丸さん。


都丸さんも俺と同じ感想を抱いていたようだ。

ハスキー犬ってもともとおバカなイメージがあるけど、この子は……うん、まあ、そんな感じだ。


ダンジョン潜ってるうちに頭良くなるから大丈夫とは思うけどね。




んで、都丸さんが太郎を抱きかかえ、落ち着いたところで今日ここにきた目的を聞いてみる。



「今日はネズミ狩りですか?」


これしかないよね。

他のダンジョンでも……小ならいけると思うけど、まあここで鍛えるのが一番だし。


「ああ、そのつもりだ。まずはレベル上げて……頭良くなってもらわんとな」


やっぱそうか。


「ちょっと付いて行っても良いですか?」


「ああ、構わんぞ」


ちょっと興味があるし、若干心配なのでついていこうと思う。


そう言った俺の顔面をクロがぺしぺししっと猫パンチするが、俺も都丸さんもスルーである。


よしよし、と頭を撫でたら大人しくなったのでクロも別に本気で嫌がってる訳じゃないだろう。

いや、それとも潜る前に私が躾けてやんよ!って意思表示……?


まあ……あくまで隊員さんのチームなんだし、それは無しでいこう。



さてさて、果たして太郎はネズミ狩れるのだろうか。


「太郎、GOGO!!」


「おぉ……」


なんて思っていたけど、あっさり仕留めたね。


「やっぱ体格良いし、強いですね……」


「ああ、ネズミなら多少でかかろうが問題なしだな」


都丸さんの指示で、ネズミに突っ込んで首にがぶっと噛みついた。

そんでそのままぶんぶん振り回して……あれ、首の骨折れてそうだ。


やっぱでかいし、強いな犬は。

ただね、犬の戦闘シーンを見るとですね。


「ただ、ちょっと4階の犬を思い出しそうに……」


「……」


あの犬まじでやべーのですわ。

かなりトラウマなる人も居るんじゃないだろうか……あれを思い出すと、顔がついつい真顔になってしまう。

横を見れば都丸さんも似たような顔をしていたので、同じようなものなのだろう。



「ん?クロどしたの」


んんー……と真顔で太郎の様子を見ていたら、ぺしぺしと顔をクロが叩いてくる。


あ、ちなみにクロだけど俺の頭の上に居たりする。

地面を歩くと太郎がやかましいからだろう。


んで、クロが何を言いたいかってことだけどー……。


「……1体に時間かけすぎと?まあ確かにそうだな」


「(普通に言葉分かる様になってんよな)え、見本見せる……どします?」


俺が言う前に都丸さんが言ってしまった。

てか、前からちょいちょいあったけど、普通にクロの言葉分かってんだよなあ。


まあ、良い事なので問題なし。



んで、クロはどうやら太郎が止めを刺すのに時間をかけすぎなのが気になってるそうだ。

その気になれば噛むだけで殺せるだろう、と。


今は相手が1体だから良いものを、これが複数体いたらブンブン振り回している間に攻撃されてしまうと言う事だ。


「せっかくだ、やって貰おう」


今の時点で太郎が理解出来るかは分からないが、とりあえずやって貰おうってことになった。


とりあえず適当な部屋を覗いてっと。


「ここで良いかな」


「太郎、ステイ」


良い感じで10体居る部屋だった。

都丸さんが太郎にその場で止まる様に指示を出し、クロが部屋へと入っていく。


当然部屋に入ると同時にネズミは一斉に襲い掛かってくる訳だが……。


「む」


それを見た太郎が、都丸さんの指示を破り、部屋へと突っ込んでいく。

……助けに入った?かな。ネズミの姿を見て自分も戦いたくなったって感じではない……ような気がする。犬のことは良く分からないので自信はないデス。


まあ、助けに入らなくてもクロだけで問題はない訳で。

太郎が1体に噛み付いた時点で、残りの9体はクロの手によってバラバラにされている。



……それをみて太郎がおびえるかなーって思ったけど、尻尾を振りながら嬉しそうにクロへと駆けよっていく。


精神鋼かな?あ、教育的指導入った。


「指導に容赦がないな」


「まあ、相性は悪くないみたいですね……」


周りをグルグルと駆ける太郎をみて、ちょっとクロがやかましそうにしてるけど……まあ相性悪くはないんじゃないかな。

物怖じしないってのはでかいよね、これで頭良くなって強くなっていけば、頼りになるチームメンバーになるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る