第156話


「13時まで休憩をとる。午後からは許可証を受け取り、実際にダンジョンへと向かう。時間の都合上全てのダンジョンに潜る事は出来ない、どのダンジョンに行くか各自で決めておくように」


誓約書を受けった教官は、そう言い残すと部屋を出て行った。

途端に室内の空気がだらけ、ざわざわと騒がしくなる。


「ちゅかりた」


かくいう俺も午前中ずっと講義を聴くだけだったので、結構疲れていた……なので、講義が終わった途端にだらりと足を投げ出す。


クロ?ほぼずっと丸くなってたから元気ですよ。俺も丸くなりたい。


「なあなあ、どのダンジョン潜るっ??」


「えー……飯食いながら考えようか」


中村は元気だなあ……ここじゃ周りの視線が落ち着かないし、とりあえず移動しよう。

建物内に食堂があって、俺たちも使えるそうだからね。

外に食いに行ってもいいけど、装備脱ぐの面倒だし、かといってこのまま行ったらマスコミやら野次馬やらでひどい目に合いそうなので、そっちは却下だ。


なので食堂に向かうとしよう。

もちろん隊員さん達も一緒だ。


クロは動くの面倒くさそうにしていたので、抱えてもっていく事になりました。



講義が終わってすぐ向かった事もあり、全員が一つのテーブルに集まる事ができた。

ほかの参加者はまだ室内で色々話しているのだろう、食堂に来る人はまばらだ。


「結構いけるね」


「食い足りないけどなー」


食堂の日替わり定食を頼んでみたが、味は結構いけた。

ただちょっと洒落た感じの料理で、量が少ないのがあれだけど……お代わりすれば良いので問題はない。



お腹も落ち着いたし、一息付けたところで午後からどのダンジョンに潜るかの相談をしよう。


「んで、どこに潜るかって話だけど……俺とクロ、それに都丸さん達はカードが目当てだったりするんだよね。……で、良いですよね?」


「ああ」


一応確認したけど、俺とクロ、それに隊員さんの目的はカードなんだよね。


「と言うわけで……これ、一応秘密なんだけど……カードとかって推奨人数より少ない人数で潜ると、出る確率上がるんだよね」


「……まじか」


中村にもそれに付き合って貰いたいので、少人数で潜るメリットを話しておく。


「ただそれだと戦闘がきつくなるんだけど……ぶっちゃけ俺やクロ、それに隊員さんはかなり先行してるからよほど深い階層に行かなければ問題は無いと思う」


戦闘がきつくなるデメリットもあるので、勿論それも話しておく。


「なので……俺とクロと中村は固定として、都丸さん達は毎回参加するわけでは無い」


「ダンジョンの推奨人数は中は10人前後、大は15人前後……隊員さんが少ないときは中で多いときは大でどうです?あ、全員来られない時だけ小かな?」


もしちょっとそれは……って人がいるのなら、メンバーによって少人数で潜るか推奨人数で潜るかを決めれば良い。


「良いと思うぞ。皆はどうだ?」


「中村は?」


「問題なし」


中村は俺たち……特に俺とクロの強さはよく知っているので、問題としなかったようだ。


「クロはー……問題無さそうだね」


クロに至っては話を半分聞いてなさそうだ。

追加の猫缶開けようとしてるし……。


「それじゃ午後は大に行くってことで」


ま、まあ全員の合意が取れたと言うことで、潜るダンジョンは推奨人数より少なめの大ダンジョンとした。




昼食を食べ終わり、教官に大ダンジョンを希望する事を伝えた俺たちは、ダンジョンへと続く扉の前で自分たちの番がくるのを待っていた。


この施設内にはダンジョンに繋がる扉が複数あり、希望者はそれぞれ分かれて扉の前で待っている。

部屋自体も違うので、どのダンジョンにどれだけの人数が行ったのかは俺たちには分からない。

ただ大ダンジョンは割と少なめなようだ。


俺たちを含めて全部で100人いるかどうか……昼休みに組んだのか、それとも前々から組んでいたのかは分からないが、大人数のパーティーを組めたのはこの人数だけなのだろう。

そうなると極大ダンジョンはもっと少ないだろうし、中と小に人が集中しているのかもね。


「うー……緊張してきた」


「俺もだ」



扉の前には参加者と、それに午前中担当していた教官とは別に合計10人ほどの教官がいる。

これから何チームかに分け、教官たちと共に中に入り、モンスターと戦うわけだが……自分の番が迫るに連れて緊張してくる。



「島津も?」


「だって俺、家のダンジョンしか行ったことないしね」


「ああ、そうなのか」


何気にほかのダンジョンは初なんすよ、俺……。

敵は問題なく倒せると思うんだけどね……確かここの敵は。


「確か出るのってトカゲでしたっけ?」


「ああ、トカゲが出るぞ。ただし尻尾の先まで2m以上あるがな」


「結構でかいですねえ」


「それなら問題ないか」


「1階のモンスターだからな。大ダンジョンでもそんなに強いのはでないさ」


結構でかいけど、ただのトカゲが出るんだった。

ドラゴンと比べれば雑魚だね雑魚!……だけど緊張が解けないのは、これどっちかと言うと知らない人の前で戦うことに緊張してる感じかな。


こればっかりは、実際に戦って慣れないとどうしようもないか。

んまあ、なるようになる!




一度に入る人数は大体15人程度だ。

教官に引き連れられて扉を潜り、だいたい1時間ぐらいで戻ってくる。


戻ってきた人たちの顔色を見ると、青くなってるのが5割、興奮してるのが5割と半々に分かれている感じだ。


顔色悪くなっている人の内、何割かは脱落するんじゃないかなーと思う。

やっぱ生き物を殺すのってきついものがあるからね。


……よく考えると別にモンスターは生き物じゃなくても良いんだよな。

ゴーレムとか、ガーゴイルとか動く鎧とか、生物じゃないのでも良いはずだ。


ダンジョンに潜りたいけど、生き物を殺すのはきついって人に需要があるんじゃなかろうか。

今後さらにダンジョンを増やすかは分からないけれど、こういったのも良いんじゃない?とアマツに提案してもいいかもだね。



そんな感じで時間を潰していると……ついに俺たちの番が回ってきた。

行くのは俺たち11人と、それ以外にも10人ほど……これはでかいパーティー組んでないけど、大ダンジョン見に来た人たちだろうか?


見た感じ3人前後のパーティに見えるね。



ま、行きますか。


教官の後に続いて扉を潜り、そのまま少し歩くと目の前が急に開ける。

このあたりはうちのダンジョンと変わらないかな。


違うのはいきなりフィールドタイプのダンジョンが広がっていると言うことだろう……てか、ここ。


「砂漠だ」


足元のざしって感触。

あたり一面黄土色の景色が広がっている。まさに砂漠だ。


なるほどね……そうだよね、こう言うのだってあるよね。

すごいなダンジョン。



「注意事項として、モンスターは人を見ると躊躇無く襲ってくる。決して隊員より前に出ないように」


参加者が目の前に広がる光景に目を奪われていると、教官が注意事項について話し始めた。


「モンスターについては、最初は隊員が対処するが、最終的には全員に戦闘を行って貰う」


「講義でも話したが、大ダンジョンでは多いときは30体近いモンスターが現れる。奥に行かなければそこまで多くは無いが、それでも5体から10体は普通に出る」


ふむふむ。

さすが大ダンジョン、出てくる数が多い。


「戦闘を行うときは決して突出はするな。囲まれて酷い目にあう事になるぞ」


そう言って、教官たちはゆっくりと先に進んでいく。


少し遅れてその後ろを俺たちが、そして少し離れて他の参加者たちがついていく。


……砂漠だから歩きにくいかと思ったが、どうも下は砂岩らしく、その上に薄らと砂が積もっている状態のようで、そこまで歩きにくくは無かった。


ただ地面を見ていると何となく分かるのだが、平坦なところは下が砂岩だが、平坦ではない、砂丘のような場所は砂だけなので相当歩きにくいようだ。



そして歩き続けること数分、遠くから何やら這いずるような音が聞こえてきた。

ただ、自分たちの足音に紛れて聞こえにくいので、俺たち以外の参加者は気が付いてなさそうだ。


「来るぞぉ!決してパニックにはなるな!」


教官がそう叫んだ直後、大きなトカゲの群れが砂丘を超えて飛び出してきた。

……近くで見ると思っていたより大分大きい。


最初の敵は教官たちがあっという間に倒したが、それでもその大きさに何人かビビってる感じがする。



「倒したモンスターは持ち帰りポイントに変換するか、解体して素材にするか……食材にするかだ」


「もっともポイントに変換できるのはチュートリアルを突破してからだがな。このモンスターは一応は食べられるが、あまり美味しいとは言えない」


倒したトカゲを指さしながらそう話す教官たちであるが、たぶん半分ぐらいまともに聞こえてない気がする。

でかいし、迫力あったし……死体血だらけだしね。しょうがない。


中村は割と平気そう……まあ、俺とクロがひたすら連れまわして、相当な数の戦闘をこなさせたからねー。

まともにやったのは4日間だけだったけど、次潜ればチュートリアルは突破出来るところまでは行ってる。



「次、モンスターを倒さずに確保する。受付番号順に戦って貰うから用意しておくように」


教官たちが見本を見せたあとは、参加者の出番だ。

……てっきりパーティ単位で戦うのかなーとか思ったら、一人ずつやるのね。


まあ、複数人vs複数体とかやったら、下手すると誰かに攻撃が集中して大けがを負う……なんてこともあるかも知れないし、それが妥当か。



教官に呼ばれて最初の人が前に行くが……相当びびってるなあれ!

大丈夫かな。装備は割とまともそうだけど。



「う、うあ、ああぁっ」


「落ち着け、噛まれても大したダメージはない。落ち着いて攻撃をするんだ」


トカゲの攻撃は足への噛みつきがメインだ。

蹴って追い払おうとしているが、それぐらいじゃ引かない……何度か足をかまれてしまう。


ケガは……大丈夫そうかな。

でかいけど、そこまで噛みつく力は強くないらしい。



「よし、よくやった……次、120番前に!」


まあ大した怪我も無く倒せた様である。



「……意外と皆大したことない?」


その光景を見ていた中村が首を捻り一言ぽつりと漏らす。


ほほー。


「そりゃ初戦だし……中村も最初はビビってたじゃん」


中村の初戦もさっきの人と同じぐらいビビってたのにねー。



まあ、俺も人のこと言えないんだけどね!



「トカゲって食えるらしいけど、どんな味なんだろうなー!」


誤魔化したな。

あとでゴブリンの群れに放り込んであげよう。


あとトカゲは……あんま食う気は無いかな。

ドラゴンのお肉一杯あるしね。




そうこうしている内に、ついに俺たちにも順番が回ってきた。


「次、212番!」


一番手は最初に受付を済ませた、クロである。


「……クロ、いい?手加減するんだよ?手加減」


目立つな……と言うのはもう手遅れなので、せめて引かれないようにしたい。


いや、まあ手加減しても細切れになりそうだけどさ。

何をしたのか周りにも分かるぐらいには、出来るはず。出来ると思いたい。


「大丈夫かな……」


「俺としてはお前の方が心配だけどな」


どういう意味かなー?




まあ、中村は後で問い詰めるとして、クロに戦いに集中しよう。



クロがトカゲに向かって歩いて行くと、周りから止めようとする声が上がる。

体長2m越えのオオトカゲに猫が向かっていくんだ、そりゃ止めるだろう……が、クロはその声に構うこと無く、前に進み隊員が押さえていた手を離し、トカゲから距離を取り……一番近くにいるクロへとトカゲがターゲットを移した瞬間であった。





「クロさんっ!!?手加減どこいったの???」


ブレスぶっ放しやがって下さいましたヨっ!?

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