第157話

ブレスを放ち、トカゲを地面ごと吹き飛ばしたクロは、後ろ足でガッガッガと頭をかき、ふんっと鼻を鳴らすと満足そうにうにゃーと鳴いた。


「ク、クロ……一体どうして」


機嫌よさげなクロをとりあえず撫で、いったいどうしてブレスを放ったのか聞いてみる。


少し面倒そうに眼を細めたクロであったが、やがてうにゃうにゃと話し始める。


「ふむ……ふむふむ。なるほど、そういう理由が……」


理由を聞いてみれば成程確かに、と納得出来る話であった。



「じゃあ俺もブレス吐かなきゃ」


そうなれば俺もクロに倣ってブレスを放たなければいけないだろう。


隊員さん達は……ブレスは放てないから、まあ普通に戦うだけでいいかな。


隊員さん達を見れば、皆頷いているのでその方向で問題なさそうである。


「じゃあ俺もじゃねえよっ!?一体全体どういう理由でブレス吐こうとしとるんだお前はっ!??」


「いや、聞いての通りだけど」


「俺は猫語分かんねえんですよ!?誰もが猫の言葉を分かると思うなよっ!??」


えー。問題あるのが一人居た。

そこは気合いでどうにかしなさいよー。尻尾つけてるんだしい。


しゃーない、翻訳するか。




かくかくしかじか。


ざっくり言うと、実力を隠しても意味は無いだろうと、どうせばれるのだから。

それなら実力をきっちり示し、舐められ無いようにする。

自分……つまりクロが居るだけで、何かしてくる奴は居るだろう。だから余計実力は示しておかないといけない。


自分たちは現在世界でもっとも攻略を進めているパーティーである。

ここで実力を示し、交信達の目標となる姿を見せねばならない。彼らにとって良い刺激となるはずだ。



あとちょっと周りの反応でムカッとしてたのと、講義が退屈でイライラしてたのもある、と。

あのニヤニヤしたやつに見せつけたかった。あとぶっ飛ばす……だそうだ。



「と言うことだよ」


「……そっか」


とりあえず納得したようでなにより。


まあ、色々理由はあるらしいけど、なんとなくメインの理由は最後のやつな気がしなくもない。

クロさん、間違っても吹っ飛ばしちゃいけませんぞ。ミンチになっちゃう。


それとねクロさん、言いにくいんだけどここにあのニヤニヤしてた奴居ないんですがそれは。


……その事を聞いてみるとごろんと転がり、うなうな言いだした。

あざとい。でも可愛いので良し。



「まあ、クロがぶっ放した以上もう手遅れなんで、俺もやっちゃおうかなと」


教官すら引いてるし。

俺が追加でブレスぶっぱしようが誤差ですよ誤差。


「いいと思うよー」


「俺たちも普通にやるしな」


「なあに皆でやれば問題ないさ」


隊員さん達も普通に戦うつもりらしいし、ここは俺たちの強さをしっかりアピールしとこうじゃないの。

観客少ないけど。


「え、俺も?まじ?」


まじまじ。中村もだよ。

ここ暫く筋トレ頑張ってたし、モンスターとも戦いまくったんだから、その成果を存分に発揮するといい。一人だけ地味な絵面になると思うけどなっ。



「あ、ブレス吐くんで、ガードしといて貰っていいです?」


「いいよー」


観客で思い出したけど、本気でブレス放つならガードしておかないと二次被害が出ると思う。

クロは竜化まではしていなかったし、本気で撃ったわけじゃない。それでも爆風凄かったからね。


本気で撃ったら周り全部吹っ飛びそう。あと輻射熱で皆焼けそうな気がする。



ああ、そうそう。

隊員さん達が手に入れたレア装備だけど、実は盾なんだよね。


見た目は凄い綺麗な宝石って言うのかな、クリスタルシールドみたいな感じ。

色は赤いのでちょっとクリスタルとは違うけどね。


基本的には8人で共有しているようだが、前に大怪我したこともあって普段は北上さんが使っているうようだ。


性能は結構凄い。

MPを消費して敵の攻撃をがっつり防いでくれるのだ。

普段使う分にはそこまで消費しないけど、強力な攻撃や広範囲の攻撃を防ごうとすると、こう……ビームシールド?みたいなのがブンッて展開して、MP消費を代償に攻撃を防いでくれるのだ。


もちろん広範囲を防ごうとすると防御は薄くなるみたいだけど、それでもブレスの二次被害を防ぐ事は可能だ。


少しだけ使わせてもらったけど、集中して防げばクロのブレスだってMP切れるまで持ちこたえるからね、相当強力な装備である。


土蜘蛛は試してない、あれはちょっと試すには怖すぎる。




と、そんな訳で俺が思いっきりブレスを放っても大丈夫なのである。




と言う訳でやりますか。


「はい、みんな私より後ろに下がってねー」


北上さんが盾を展開しそう言うと、参加者は慌てた様子で後ろに下がる。

さっきのクロのブレスがかなり衝撃的だったようだ。

巻き込まれたらかなわんからね。


しれっと教官たちも下がってたのは見なかったことにしよう。



「さて、どうするかな」


単純にブレス放っても良いんだけど、それだとクロと被るしインパクトが少ない気がする。

……地面は砂岩だよなあ……ちょっと思いついたことがあるんだけど、上手くいくかな。


まあ、失敗したら失敗したで良いや。

その時はブレス放って有耶無耶にしてしまえなのだ。


まずは竜化をして……と。

メキメキとかメリメリと、相変わらず嫌な音を立てて装備と体が変化していく。

後ろのざわめきが大きくなる事から、かなりインパクトがあったのではないかと想像できる。


程なくして、砂丘からトカゲが10体ほど飛び出してきた。

少し多いので撃ち漏らしが心配ではあるが、まあたぶん大丈夫だろう。



「ふん!」


気合を入れ、思いっきり地面を踏みしめる。

踏みしめたところから地面はひび割れ、大きく陥没する……そして逆にトカゲたちの足元の地面が大きくせり上がった。


俺の前方には空中に投げ出されたトカゲたちがいる。

その状態でブレスを避けることは不可能だろう……まあ、こんなのしなくてもまず避けれないとは思うけどね。

こんな光景アニメでもなければ見れないだろうし、インパクトはでかいはず。



そして俺が全力でブレスを吐くと、俺を中心に爆風が広がり、ビームのようなブレスが真っすぐに伸びていく。


爆風がやんだ後には、俺の前にいたトカゲたちの姿はもとより、砂丘すらなくなっていた。

全て吹き飛ばされるか溶けてしまったのだ。


はるか遠くで大きな爆発が見えた。

……爆心地は凄いことになってそうだね。ブレスが通ったあとの地面が溶けてガラス状になっているし、自分で撃っておいてあれだけど、火力高すぎる。


うむ、ばっちりだ。


「おっし。次中村な」


「あほかぁっ!」


なんか怒られたし、げせぬ。





お前の後にやる羽目になる俺の気持ちも考えろよ!との事だったので、ごめんねてへぺろとクロと一緒に謝っておいた。あまり反省はしていない。


まあ、それはさておき中村の番である。


中村の武器だけど、今回は日本刀を使うみたいである。

うちのダンジョンでは刃渡り制限のせいでナイフをメインで使っていたのだけど、せっかく買ったのだからこれも使いたい、との事。


買ったのは良いけど、無駄になるってのは悲しいからね……中村の防具だけどさ、筋トレ始めて体格変わったせいで、ぱっつんぱっつんになって着れなくなったんだよね。


貯金使い切ったのに……と嘆く中村がちょっとあまりにも可哀そうだったので、俺の方でサイズ調整しておいたよ。

ちなみに単純なサイズ変更であれば、ポイントとか消費しなくなってたね。

でも攻撃力や防御力に関わるような変更だとポイント消費するのは変わらずだった。

小さいけど、これも変更となった箇所だねえ。



さて、色々考えている内に中村の戦闘が始まった……5体一斉になのはあれかな、俺とクロの戦闘を見て、こいつも経験者だろうと判断されたかな。


間違いでは無いけど……まあ問題は無いんだけどね。



「ふんっ」


戦闘自体は地味に、あっさりと終わった。

最後の1体の首に切っ先を入れ、捻るまで10秒かそこらだろうか。


「……きっちり止め刺してるし、有望だな」


「もうチュートリアルは突破したんだったか?」


「いえ、まだですね。次行けば突破出来ると思いますけど」


今は犬をひたすら狩っているところだ。

そろそろ1000体にいくので、次はいよいよゴブリンだ。


人型かつ刃物を持った相手に臆せず戦えるか……今までの戦闘を見るにたぶん大丈夫だろう。



その後、隊員さんがトカゲをミンチにして無事午後の分は終了となった。



「明日も午前中は座学で午後はダンジョンと……どうしようね。個人的にはささっと筆記試験クリアして、自由にダンジョン潜りたいのだけど」


夕飯もせっかくだからと皆で一緒に食べる事にしたよ。

やっぱりトライアルの事が自然と話題に上がるね。


「そりゃ俺だってそうだよ」


「まあ、そうだな」


「まあ講義はあと3回だ。土日参加するだけだとしても次の週末には終わるさ、だから全部受けておこう」


講義自体は実はそこまで多くない。

あまり多すぎても希望者を捌き切れないだろうしね、しょうがない所はある。


まあ短いほうがすぐダンジョンに潜れるので、嬉しいっちゃ嬉しいけどね。

長いと土日しか参加できない人は、なかなか許可証を貰えないし。


とにかく残りはあと3回だ。

まずは明日の講義を受けて、どこかで時間を作って中村のチュートリアルを終わらせておく……うん、そんな感じで行こう。


ちょっとトラブルはあったけど、今のところは順調に進んでいるし、中村が筆記試験に落ちでもしない限り月末にはダンジョンに自由に潜れるようになるだろう。





フラグ立てたかな。


「あー、面倒なことになりそうな予感」


しかも回収早い。


「何あいつら?」


中村が視線で示した先にいたのは例のニヤニヤしてた奴。

今日は人数が少ないので中ダンジョンに来たのだけど、ばったり会ってしまった。


そいつだけかと思ったら、パーティーぽいの全員ニヤニヤしてるし、やべえぶん殴りたい。

クロも尻尾がゆらゆらしているので、苛立ってるのがわかる。


米軍のあいつといい、なんでこう馬鹿なのってどこにでも居るかなあ。


「さあね。なんか舐められてるのは分かるけど」


「ふーん。まあブレス撃ちゃ黙るっしょ」


「間違っても当てないようにな」


「ほんとほんと。掠っただけでも危ないからねー」


「いや、掠らなくても余波だけで吹っ飛んじゃないっすかね」


「ふりかな?」


受付順的にクロが先に戦うんだけど、大丈夫よね?





結果から言えば、吹っ飛ぶだけで済んだ。


教官たちが危ないから下がれと言ったのに、指示に従わなかった連中が悪い。


「わー、クロがすっごいどや顔してる」


「あれは俺にも分かるわ」


地面に転がり、茫然としている連中を見てふふんと鼻を鳴らすクロ。

誰が見てもどや顔してるのわかりますわ。


まあ当然そこらで転がってる連中にも分かるわけで、初日にニヤけてた奴が青い顔を赤くして、急に立ち上がるとクロに向かい指をさしながら何やら喚き始める。



「い、インチキだこんなの!猫なんかがなんでこんな!」


「あ゛?」


猫なんかが何?


「……こ、こん……な」


それ以上いったら物理的に口をきけなくてしてやろうか?と思い睨みつけると、男は急にガクガクと震えだし、膝をついたかと思うとそのまま地面に倒れこんでしまう。




「……ん?」


……動かない?気絶した?

一体どういう事だ?何かあったのだろうか?


そう思い辺りを見渡すと、周りに居た人たちが皆バタバタと倒れていく。

残っているのは内のパーティーメンバーと教官のみだ。


「んんん???」


え、まじで何があったし??

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