第149話

会見からおよそ一週間が経った頃、俺のもとに一本の電話が入る。


「試作品の試供ですか」


「ええ、試作品が出来たので実際にダンジョンで使って頂きたいそうでして」


「地上での実験の結果はかなり良かった様ですね。あとはダンジョン内で実際にどう作用するかみたいそうで」


電話の相手は大塚さんで、ついにモンスターの素材使用した装備品、その試作品が完成したので俺に使って欲しいと言った内容である。もちろんクロの装備もあるそうだ。


俺たちが21階で使用して問題なければ、それより浅い階層なら問題なく使用出来ると判断できる訳で、このトライアル結果によって正式に発売するかが決まるそうな。


「どういった装備なのです?」


「なんでも今ある装備に追加でつけるものだそうで、衝撃や熱などを和らげる効果があるそうですよ」


「ほー……ドラゴン戦によさそうですね」


追加装甲的な?衝撃と熱を和らげてくれるのであれば、ドラゴン戦がかなり楽になりそうだね。

元々ドラゴンの素材で強化しているので、だいぶブレスのダメージも抑えられているけど熱いもんは熱い。複数を同時に相手するとどうしても食らってしまうんだよね。


これはレベルが上がっても防ぎようが無いと思うので、どうしても防御力を上げるしかないのである。

なので、ありがたく貰ってしまおう。


感想をレポートにまとめるのと、あとで装備を一度回収するらしいけど、協力のお礼ってことでお金貰えちゃうしね。



「と言うわけで試作品貰っちゃった。クロのもあるってさー」


届いたダンボールをべりべり開けると、中から装備が入った箱がさらに出てきた。

そっちの箱をさらに開けると、中には……なんと言うか、厚手の皮で出来たパッド?みたいのが入っていた。厚手といっても俺のほうは精々20mmぐらいかな。この形的に盾につけるやつっぽい。


あとは恐らく腕とか足とか部分的にガードする用のが入っている。こっちは厚さ10mm程度だね。


ちなみにクロの方はと言うと……ダンボールに入って出てこないので代わりに俺が開けることに。


「クロのも同じ感じだね。厚さは違うけど……あ、裏側は違う。なんだろ、フェルト?」


クロの方は俺より薄かった。

どうも俺の方は皮と皮の間にフェルトを挟む構造で、クロの方は皮の裏にフェルトを張り付ける構造になっているらしい。


「何々材料はトカゲの皮と羊の毛?……そういやあの羊、地味にタフかったな……あれ、毛で吸収でもしてたんかな」


説明書が入っていたので読んでみると、皮はトカゲのもので、フェルトは羊の毛だったようだ。

トカゲが熱を和らげて、羊が衝撃吸収だろうね。よく考えるとあの羊タフかったし……あの電撃の衝撃って羊も食らっているはずなんだよね、なのにまったくこたえて無かったもん。


これは期待出来るんじゃなかろうか。


「裏側に貼り付けるように取り付ける……おお、ぴったり」


パッドは装備の裏側に張り付けるようにして使うらしい。

表に貼ることもできるが、その場合は攻撃を受けてズタボロになるだろう……鞣して強度上げてるとは言え、トカゲの素材じゃドラゴンの攻撃には耐えられないと思う。それにこれって確か……あまり高温に晒すと変質するんだったよね?だったら尚更だ。


「クロのもぴったり……いつ測ったのかな?」


……クロの装備もぴったりだった。

別にぴったりなのは良いことなのだけど、いつの間に測ったのだろうか……そんな測るタイミング無かったと思うんだけどな。


……まあ、クロは極端に大きいとか小さいとか無いから、平均的な猫を参考に作ったんだろう。たぶん。


「んじゃ、さっそく試してみるかー」


装備の性能は気になるので、さっそく試してみよう。

……装備を手にダンジョンに向かおうとするが、クロがダンボールに収まったまま動こうとしない。


レベルが上がって頭良くなっても、このあたりはやっぱ変わらないのね。





結局クロが飽きるのを待ってから行くことになりましたっ。


「よっしゃ、ブレスこいこい」


試す相手はもちろんドラゴンだ。

ドラゴンで使えるのならこれ以降の階層でもきっと役に立つだろう。


とりあえず1体で居たドラゴンを見つけたので、目の前に出てクイクイッと挑発してみる。


まあ、挑発しなくてもぶっ放してくるんですけどねー。



そして案の定、ドラゴンは俺を見るなりガバッと口を開き、ブレスを放つ。

俺は盾を構えてそれを待ち受けた。



「ん……あ、っつぃいい!!」


最初は良い感じだった。

いつもなら直ぐに破られてしまう障壁が1秒、2秒ともち……お、これこのまま防げるんじゃ?そう思った直後、障壁が破られ全身を火に包まれてしまう。


くっそ熱い。


「熱いわっ!!」


熱すぎてムカついたので、お返しとばかりにドラゴンの顔面に向かいブレスを放つ。

きっちり絞って放ったので威力はばっちりである。

首から上が無くなったドラゴンの巨体が、ズシンと地響きを立て横になった。



「6秒ぐらいかー……破られた後のダメージも少なくなってるかな。……次は剥がしてためそう」


障壁は大体6秒ぐらい持った。

それにブレスの直撃を食らっても、比較的防御の薄い部分だけ火傷を負っている様なので、きっちりブレスの威力を軽減してくれているね。


次は剥がして検証を行うのだけど……うーん、正直やりたくはないよなっ。



「んっが!」


でもやる。

試作品を引っ剥がし、ブレスを食らってみるが……今度は2秒かそこらで障壁が破られてしまう。

さらに気のせいじゃないレベルで、先程よりブレスのダメージがでかい。




「……やっぱかなり軽減されるなあ」


とりあえずドラゴンを倒し、落ち着いたところでさっきの結果を振り返ってみる。


障壁がすぐ破られたこと、今度は全身に火傷を負ったことから、この試作品の装備はブレスを相当軽減してくれる事が分かった。


出来ればこれからずっとお世話になりたいレベルであるが……。


「あとは何回もつか」


問題は繰り返しの使用に耐えられるかどうかだ。

これも確認する必要があるだろうね。


繰り返しブレス食らうのはちょっと嫌だけど……まあ、しゃあない。



「……10回もった」


結局この装備が効力を発揮するのは、ブレスをフルに食らったとして10回まで、と分かった。

それ以降は皮が変質したのか、ほぼ軽減されなかった。


「相当良いぞこの装備」


結論から言えばこの装備は相当使える。


実際の戦闘でブレスをフルに食らうってのは余りないのだよね。

ドラゴンカードのお陰で、ブレスを食らってもすぐ移動するので……複数体に同時に吐かれても、せいぜい食らって5秒とかそんなもんだと思う。


なので大抵は追加装備+障壁で受けきれるし、突破されても食らうのは僅かだろう。

つまり直ぐには変質しない。


この辺りは一度修理して実際に使ってみる必要はあるけどね。

それで半日使っても大丈夫なら問題なし。

半日持たないならもう少し手を加えて貰う感じかな?


「んっし、そろそろ戻ろうか」


暇そうにしているクロの頭を撫で、それからひょいと抱え上げて休憩所へと向かう。


帰ったらご飯食べて簡単にレポートでも作成しよう。

明日は追加装備つけて普通に狩りかな。


この装備があれば次の階層に行くのもそう遠くは無いかも知れないね。




あれから1週間後、俺はダンジョン内のカフェルームで隊員さん達に別のダンジョンについて話を聞いていた。


「ほう。他のダンジョンに潜るのか」


「ええ、カード揃えたいと思いまして……」


何故かというと、一つはダンジョンの一般開放に向けてのトライアル……あれが予想より早く開催されそうな流れになってきたからである。

てっきり募集を開始して、年末ぐらいにトライアルかな、とか考えていたのだけど、下手すりゃ来月末にはやりそうな雰囲気だ。


なので中村と一緒に潜る前に事前情報は集めておきたい。


もう一つは潜るにしてもどのダンジョンにするか決める為である。

と言うのもですね……例の試作装備を使うようになってから、ドラゴン狩りが無茶苦茶捗ってですね。


よっしゃ次の階層に行ってみるかー!とゲートキーパーの元に向かったんですよ。


結果としては、初めて撤退することになりもうした。

くやしい。



「あー、確か次はシーサーペントでしたっけ?」


「攻撃手段がですねー……」


次の相手がさ、水中に居たんだよ。

水中に居られると、鉈はもちろん投げナイフも、ブレスすらまともにダメージ与えることは出来ない。


唯一攻撃できるチャンスはシーサーペントが水面から頭を出して、ブレスを撃つ瞬間だけ。


ただこの時にうまくブレスを当てても一撃じゃ倒せなかったんだ。

どうも体の周辺を障壁と……なんかよく分からないもので守っていて、ブレスが散らされるんだよ。


その上自己治癒能力も有るみたいで、水中に逃げてる間に傷が癒えてしまうんだよね。くっそ厄介だ。


氷礫で凍らせるのも考えたけど、あの水量を凍らせるのは無理。

表面だけならいけるけど、すぐ割られるし、氷の上で戦っていたら水中に落ちて悲惨な事になるだろう。


なので別ダンジョンに潜ってカードを入手したいのだ。

出て来る敵が分かればどんなカードかも何となく分かるし、それでどのダンジョンに潜るか絞ろうと思ってる。雷系があると嬉しいね。

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