第134話
病院についた俺は受付に向かい、病室の番号を聞いてすぐに向かった。
俺が来ることは事前に知らされたので止められる事は無い。
病室の前には人が集まっていた。
隊員さんであったり、お偉いさんであったりと見知った顔が多い。
その中に大塚さんの姿もあった。
大塚さんは俺を見つけると、手招きしてから病室の扉をノックする。
「島津さんが到着しました」
「おう、来たか。入ってくれ」
すぐに入出許可が出た。
今の声は宇佐美さんだろう。
「あの……っ」
病室に入った俺は宇佐美さん話し掛けようとして、言葉を失った。
病室には宇佐美さん以外にも、無事な隊員さんや医者、それに……重傷を負った隊員さん達の姿があった。
負傷したのは都丸さん、太田さん、山崎さん……それに北上さんだ。
全員負傷した箇所に包帯を巻いている。
既に手持ちのポーションで処置を行っているらしく、血は既に止まっていて、ぱっと見ではどれ程の傷を負ったかは分からない……一人を除いて。
「見ての通りだ。がっつりやられちまってな……」
そう言って太田さんが腕を上げようとして……顔をしかめて止める。
動かせる様な傷では無いのだ。
「これ、ポーション持ってきましたんで使ってください!」
それを見てはっとした俺はすぐに持ってきたポーションを差し出す。
例のむかつく野郎で効果は確認済みだ。千切れた手足もくっつくのだから、大抵の傷は治ると思う……。
「おぉ!……見えます!治ってます!ありがとうございます島津さんっ」
「腕が動く……!ありがとう、恩にきる」
「痛みが消えた……ありがとう島津さん」
山崎さんは片目を潰され、太田さんは片腕がもげかけていたそうだ。
都丸さんは両腕にかなりの傷を負っていたらしい。
そして北上さんは……。
「あー……私はダメ見たいねー」
片腕と片脚失っていた。
千切れた手足をくっつける事は出来ても、欠損した手足の再生は出来ない、と言うことか……。
北上さんは力無く笑って見せるが、まだ悲観するには早い。
「……数日待って貰えますか?もうすぐ次のポーションが手に入るはず……それならきっと治ると思います」
そろそろ次の敵に行くつもりだからね。
そいつを倒せば次のポーションが手に入るだろう。
それなら欠損した手足の再生だって出来るかも知れない。
言って無かったけど、ここ数日の間にトロールのカードは入手済みだったりする。
なので後はもう少し強くなれば次に行けるのだ。
感覚的にあと数日で行けるとは思う。
それなら北上さんもすぐ復帰できるし、他の隊員さんにレベルを離される事も無いだろう。
「すまんが頼む……できる限りの礼はする」
「……ごめんねえ」
そう言って頭を下げる宇佐美さんと北上さん、それに他の隊員さん達。
俺は任せといて下さい、と胸を叩いて答える。
彼らは一緒にダンジョンを攻略している……ちょっと恥ずかしいけど、仲間と言っても過言では無い。
仲間の為ならポーション取ってくる事ぐらいどうってことはない。
何か無茶苦茶気合い入ってきた。
しっかし、一体何があったんだろう。
電話だとモンスターにやられて重傷を負ったとしか聞いてないんだよね。
「しかし、一体何があったんです?まさか次の階層に行ったとか……いや、でも相手はトカゲだしこうはならないか」
次の階層に行った可能性も考えたけど、牛さんの次はトカゲだからね。
あいつの攻撃じゃこうはならないはずだ。
「牛だよ。牛にやられたんだ」
俺の問いに答えたのは都丸さんであった。
……牛?確かにあいつば手強いけど、でも最近は安定してきたって話だよな?どういう事だろう。
と、頭に疑問符を浮かべている俺に、都丸さんは何があったのかを最初から詳しく話してくれた。
「同士討ちが発生して、一気に複数体が火事場状態に……それはまた運が悪いとしか言えないですね……」
「他のモンスターなら同士討ちしてくれてラッキーで済んだんだがな……」
牛を4匹相手にしたところ、まず1匹目が瀕死になり、身体能力が上がって暴れ始め……角が偶然近くに居たもう1匹に突き刺さり瀕死になり、そいつが暴れ出しさらにもう1匹に……と不運が重なり3匹同時に瀕死になってしまったそうだ。
そしてまず太田さんが腕を角で突かれて負傷。助けに入った山崎さんが目を負傷し、最後に北上さんに2匹が同時に向かい負傷したそうだ。
その後は都丸さんが何とか敵を引きつけている間に部屋から脱出に成功。
応急手当を行い、部屋に様子を見に行くと……手足はもう無かったそうだ。
これが相手が牛さんでなければ、同士討ちしてくれてラッキーで済んだと思う。
ついてないとしか言えないなあ……。
……ところでちょっと気になることがあるのだけど。
「あの、ところで太田さんは何を……?」
何時の間にか着替えてたんだよね、この人。
それにどこかに出掛けそうな雰囲気が……。
「おう!今からあの牛とっちめてくるぞ!」
「え゛」
まじか。
「やられっぱなしで終われるかっ!行くぞぅ、山崎ぃ!」
「は、はい」
そして山崎さんに声を部屋を出ると……外に居た隊員にも声をかけてどこかに行ってしまった。
……いや、ダンジョンに行ったんだろうけど、まじか。
さっきやられたばっかりで……?メンタルすごいな。
「い、良いんです?」
てか、医者が居るのに止めんのかい。
「……医者としては信じたくは無いが、傷は完全に治っとる。彼らはこれからもダンジョンに潜り続けるんだろう?だったらむしろ今行った方が良いかも知れん」
「ふむ?」
どゆこと?
「あれだけ酷い傷を負ったんだ、心にもダメージはあるだろう。今は平気に見えても後から……何てこともある。なら今のうちにもう一度相手を倒して、問題なく倒せると言う体験をするのは悪い事じゃない」
「へー……」
そう言うこともあるのか……確かにトラウマにでもなったら大変だし、太田さんのあれはあれで良かったのかー。
…………北上さん不味くね?
本人の前だから口に出さなかったけど、不味いよね絶対。
こりゃ急いでポーション取ってこないといけないな。
「と言うわけで、ちょっと気合い入れてトロール狩るよ」
俺の言葉にうーにゃーと返すクロ。
クロもやる気十分なようだ。
今もバリバリと床で爪を研いでいる。
ゴリゴリ削れてるね。
ここダンジョンだからまだ良いけど家ではちょっと勘弁して欲しいところではある。
病院から戻った俺とクロだけど、まだ昼間言うこともあり、早速ダンジョンに潜ることにしたのである。
「カードは揃ったし、あとは数を相手にして無傷で行けるかどうか……あとちょっとだと思うから、頑張ろうね」
目標は1日1000体かな。
これだけ狩って無傷で行ければ次の階層に行けるでしょー。
よっし狩るぞー!
「ぷぅ……行けた」
いっぱい狩りました。
何だかんだで3日掛かってしまった……やっぱ再生能力厄介すぎる。
あとは一度休憩挟んで準備整えたら突撃かな。
と、何時もならそうるのだけど。
「……何時もなら直前まで見ないんだけど」
今まで戦う直前まで相手を確認する事はなかったんだけど、今回はちょっと失敗できないし事前に見ておこうかなーと思う。
まあ、事前に見ても直前に見てもあまり変わらないかもだけどね。
何か準備すると言ったって、せいぜいポーションを多めに積んでおく程度だし。
……ま、とりあえず覗いてみるか。
何時にも増して扉が豪勢なのですっごい嫌な予感がするけど、盾を構えてそろーっと……。
「げっ」
思わず声が出た。
まさかここでこいつが来るとは……。
「ドラゴンじゃん……まじかよ」
中に居たのはファンタジー物でお馴染みのドラゴンであった。
物語によっては、ほぼお肉と化していたりするドラゴンだが……このダンジョンで、それはまず無いだろう。間違いなく強敵だ。
ちょっと覚悟して挑まないといけないかも知れないね、こいつは。
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