第135話

幸いな事にドラゴンはこちらに気付いてはいるが、何か仕掛けてくる事はなかった。


なので、俺はじっくりとドラゴンを観察してみる事にした。



「ドラゴン……だよな」


やっぱどう見てもドラゴンだ。

ちょっとただの大き目なトカゲですーとかないかな?って期待したけれど、あれをトカゲと言うには無理がある気がする。


正確には分からないけど、体長は20m超えてそう。

翼はないので飛ぶタイプではなさそうだけど、その分四肢がごつくて攻撃力も防御力もありそうだ。


それに首もかなり分厚い甲殻で覆われているし、防御の薄そうな腹は狙いにくそう。

ちょっと長期戦になりそうな気がするね。


てか、離れているのに威圧感が半端ない。

体がこう、ずっしり重いと言うか……まじでやばそうな相手だ。



「ポーションは全種多めに飲んでおく。あと予備も大量にね」


対策としては……対策って程ではないけどポーションを事前に多めに飲んでおく。予備も多めに用意する。ぐらいかなあ?


事前に大量に飲むのは、胃の容量的にクロがきつそうだけど……なんとか飲んで貰うしかない。

クロもそれは分かっているので、にゃーと返事をしてくれた。


予備のポーションは俺の場合はポケット……ここもいつの間にか拡張されてて、ポーションぐらいなら結構な量はいるんだよね。なのでポケットに詰め込む。


クロもどこに入れているか良く分からないけど、何個か持っておくことが出来るので、詰め込んでおくよう言っておこう。



「ドラゴンってぐらいだし、ブレスがあるかも知れないね。避けられるタイプなら良いけど、そうじゃないなら……俺が盾で防ぐから、クロは背後に隠れてて」


怖いのはブレスかな。

直線に火球が飛んでくるようなのなら避けれると思う。

でもビームみたいのとか、放射状に飛んでくるのは避けるの無理かな。避けても首振りそうだし。


なのでその場合は俺が盾で防ぐつもりである。

盾でガードしてもダメージ通してきそうな予感もするけど、そこはポーションと再生でなんとかするしかない。たぶんその為のトロールカードだろう。



さて、準備できたし行きますか。


「よぉっし、行くよ!」


クロに声をかけ、盾を構えて部屋に突入する。

そして各種ナイフを全力でドラゴンへと投擲する。


弾かれそうな予感しかしないけどね。

刺さればラッキーぐらいの感覚である。



そしてドラゴンはと言うと、俺が投げたナイフ避ける素振りはない。

それどこか何か溜めるような仕草を見せたかと思うと、がばっと口を大きく開ける。

喉の奥にはまばゆい光が見える。


「開幕ブレスかよっ!?」


どう考えてもブレスだ。


距離を詰めて懐に潜り込むには遠い……嫌な距離撃ってくるな、こんちくしょーめ。


俺はクロが背中に張り付いたのを背中に感じると同時に、ぐっと盾を前に突き出した。




その直後、俺の視界を光が埋め尽くした。


ブレスは火球タイプでもビームタイプでもなく、炎が放射状に広がタイプであった。


避けることはまず無理だが、威力的にはビームタイプよりはましだろう。

火球タイプなら避けることも出来ただろうが、そう俺の都合の良いようには行かないらしい。



「ぐっうっぅうう゛う゛っ!?」


盾を構えてすぐ、体の周囲に張り巡らされた障壁が突破された。

そして全身が火に包まれ、耐えがたい激痛が体を襲う。


ブレスを耐える時間が恐ろしく長く感じる。実際には10秒にも満たない……せいぜい5秒かそこらの時間だろうが、それが永遠に感じるぐらいキツい。


盾を構えた左腕は既に感覚がない。



やがてブレスが止んだのだろう、背中の感触からクロが飛び出したのが分かった。


俺も後に続こうと前を見て……見ようとして、あることに気が付く。

目が見えない。


高温に曝されたため、目をやられてしまったらしい……俺は目が見えないと分かった瞬間、横に走り出した。


目が見えなければ戦いようがない、かと言ってその場に留まるのもなしだ。

ドラゴンがもし突っ込んできたら対処しようがない。


「クロ!目をやられた!少し時間稼いで!」


そう叫んでポケットから取り出しポーションを目に掛ける。

ジュワッと水分が蒸発した音がするが……有難いことにそれでもポーションは効果を発揮してくれた。


ほんの数秒で目が見えるようになる。



これなら戦える!……と思い鉈と盾を構えようとするが……。


「っ」


盾を構えることは出来なかった。

腕が動かない訳では無い。


手首から先が無いのだ。

肘から先も炭化している。



この腕じゃ盾は持てない。


それに俺が元居た場所に目を向ければ、そこには半ば溶けかけた盾は転がっていた。

あれじゃ使えてもせいぜい後1回だ。


……だんだん全身の痛みが和らいで、むずむずする。

これは恐らく再生が始まっているんじゃないだろうか?いつものポーションの回復の感覚とは違う。


決めた。盾は後で回収する。

それよりまずはクロの援護に入らないとだ。


なんとか攻撃を回避しながら、クロも攻撃を加えているが芳しくなさそうだ。

……いや、避けれてない。


叩き潰すような攻撃はすべて避けているが、尻尾を避けるのが厳しいらしい。

ただクロは軽いので尻尾の攻撃は大したダメージではないようで、全て障壁で防げている。


だと言ってもいつ尻尾以外の攻撃を食らうか分からない、急いで援護に入ろう。



「氷礫!」


動きを止めたいので後ろ足に向かい氷礫を放つ。

一瞬ではあるが動きを止めるのには成功した。


こっちに注意を向けたいので、頭を狙って衝撃波を放つが……。


「まじか」


何かで防がれたのが感覚で分かる。

こいつ、頭に障壁張ってやがる。


脳みそ潰すのは出来ないとは言わないが、厳しそうだ。

通常攻撃か土蜘蛛で障壁を破ってしまえば行けるだろうが、たぶんその前に噛みつかれる。



ならばと装甲の厚そうな前脚を狙うが……こっちは通った。


障壁は頭部限定かも知れない。

それに分厚そうな甲殻だが、鉈で十分ダメージを与えることが出来るようだ。これは嬉しい誤算だ。


ただ、嬉しくないことも同時に判明する。


こいつ脚が太すぎて、一回切りつけたぐらいじゃ深手にならないんだ。

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