第71話
8対3と数的には隊員さんが圧倒的に有利である。
ターゲットにされた人が防御に専念して、相手の攻撃の隙を突いて残りの人が武器を振るう。
これを繰り返すことで、ほんの1分そこらでゴブリンは全て地面に倒れ伏した。
「……見た目は小柄なのにやたらと力が強い。 が、この程度であれば問題ない」
「こっちも問題なし!」
おそらくゴブリンの膂力は隊員と同程度か、やや劣るといったぐらいだろう。
これが一般人なら力負けしていた事だろうが、隊員さんは皆体を鍛えている。
もっと深い階層ならともかく、浅い階層であれば、レベル差は十分埋めることが出来るようだ。
もっともゴブリンが出て来る階層の割に弱い、と言うのが大きな理由ではあるが。
まじで犬より弱いからね、下手すりゃ2対1でも負けるかも知れない。
このまま狩りを続けて、慣れてきたらナイフは奪わずにそのままとする。
で、その状況にも慣れたら次は二手に別れて狩りをしよう。
1チームは俺が、もう1チームはクロが率いる事になるだろうね。
倒したゴブリンのナイフを回収し、バックパックにぽいぽいと放り込んでいると、何人かがこちらを興味深そうに見ている事に気が付いた。
何でしょ。
「ねーねー。 島津くんさー、さっきのあれどうやったのー?」
あれ……?
「あれはさすがに気になるっすね」
あれってなんだろ。
「俺たちも出来るようになるんですか?」
……あー、天井を駆けたやつかな?
「よっと……はい、たぶん出来るようになりますよ」
そう言って、皆の前でもう一度天井に着地して見せる俺。
普通であればすぐに落下するところだが、俺の靴には特殊な効果がついているので落ちることはない。
これが出来るようになるのは、運良く強化素材を入手出来るかどうかに掛かっている。
俺も半年ぐらいダンジョンに潜っている訳だけど、出たのってドロップが1回、宝箱で出たのが1回だけだからね。
カードも大概でないけど、こっちはその比じゃない。
誰かが出した物を買い取ると言う手段もあるけど、手放さないと思うんだよねえ。
なのでたぶんと言ったのだ。
「すげぇ……やばい、無茶苦茶やる気が湧いてきた」
「こら。最初からやる気出しとけ」
「すんませんっ」
うむ。
頑張ってとしか言えないなっ。
心折れない事を祈っておこう……てかあれは集めようとするもんじゃないね、偶然出たらラッキーぐらいに思っておかないとダメな奴だ。
さて、隊員さんも消耗してないし、早速狩りますかね。
と言ってもそろそろお腹空いてきたし、あまり長い時間狩るつもりはないけど。
約束は半日だったしね。
あ、言って無かったけど、自衛隊さんを手伝うのは基本的に水曜を除く平日だけで、水曜と土日はお休み。手伝う時間は半日程度となったよ。
これは俺の負担も勿論だけど、隊員さんの負荷もデカいって事でなるべく休みを取るように……って事でこの内容に決まったそうな。
午前か午後は俺が選んで良いそうなので、例えば午前中畑の手伝いをして、午後からダンジョンなんて事も出来てしまう。
休日は畑のお手伝いかこっちのダンジョン攻略を進める事も出来るね。
本当に自由に出来る時間があって良かったよ。
これで一日の日当が5万とかなので、かなり美味しいんじゃないかなーと思う。
「じゃあ、あと1時間ぐらい狩って、戻りますか?」
「ああ、そうしよう」
と言うわけであと1時間ぐらい狩ろう。
1部屋5分掛かるとして、移動を含めて10部屋は行けるんじゃないかな?
ナイフの回収が面倒だけど、これ後でポイントに交換出来ちゃうからね。
隊員さんがチュートリアル突破した際に、ポイントが足らないっ!て状況を少しはマシに出来るだろう。
「順調ですね」
1時間もあればゴブリンとの戦闘にも慣れてきた様に見える。
最初は固かった動きが徐々に変わってきて……何て言うか、攻撃をいなすのが上手いのかな?
良い感じに相手の攻撃を避けたり、相手の腕を掴んで体勢を崩したりとか手慣れているように見える。
転がした相手にナイフを突き立てたりとか……そう言う近接訓練とかやってるのかな? そうじゃないとあんな流れるように止めさせないよね。
全体的にゴブリンの動きが単純なのもあって、かなり上手く倒せていると思う。人型なのも良い方向に働いてるのかなー?
ナイフを奪うのを止めたらどうなるかな? と思ったけど、特に変わりはなかった。
1対1なら安定して倒せるんじゃないかなー……2体はちょっときついと思う。
この感じなら、早々に二手に別れて狩った方がいいかな?
最初は4~6体の部屋で狩りまくって、明後日には8体前後の部屋で狩りまくる。
相手の数が多いときは、俺かクロが減らせばいいし、サクサク部屋を回れるだろう。
たぶんこれで条件は満たせるはずだ。
あとでクロと相談しようっと。
そろそろお腹が減りすぎてやばいなー、でもそろそろ終わりだし頑張るかー、等と考えていると、都丸さんが話しかけてきた。
「ああ、そうだ島津さん」
「ほい?」
昼食は焼き肉ですよ。
お肉だけなら食い放題。
「ちょっと頼み事があってな……今までの戦闘では二人とも本気では動いてないだろう?」
「ええ、まあ。ゴブリン相手ですし」
全然違ったわ。
もちろん本気では戦っていない。
軽く攻撃すればそれ終わるので、本気を出す意味が無いのだ。
んで、それがどうかしたのだろうか?
俺がどうしたのだろうか?と首を傾げると、都丸さんは話を続けた。
「20階まで行くどれぐらい動けるようになるのか見たい、と要望があってな。すまないが帰る前に一度全力で戦ってみて貰えないだろうか?」
「あ、良いですよー。 その先確か10匹部屋なんで、そこでやりましょうか」
なるほど、本気で。
本気でね?
誰が見たいと言ったのだろうか……まあいいや、どうせなら本当に本気でやってビックリさせちゃおうじゃないのさ。
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