第65話
まあ、予想通り教えてくれなかった。
後のお楽しみってことだろうか。
さて、アマツの確認も取れたし……あとはあれだ、政府関係の人だな。
黙ったままポーションについてカミングアウトして、ポーションを渡したとして……もしばれてしまった時が怖い。
あとは向こうが協力する方向でいるのであれば、やっぱこっちもそれなりに気を遣わないとダメだと思うんだ。こっそりやっちゃうのは何か違うと思う。
そんな訳で、大塚さんに電話を掛けてみよう……ちゃっかり連絡先は頂いてたりするのだ。
電話を掛けて数回コールしたところで大塚さんが電話に出た。
「島津です。 すみません、1点確認したいことがありまして……」
とりあえず過去の経緯と、ニュースなどでここのダンジョンの存在を祖父母が知った場合、こちらが黙っていても湿布からダンジョンに何かあると気が付くだろう言うこと。それならばこちらからカミングアウトしてしまいたいと言う考えを伝える。
「なるほど湿布ですか……分かりました。 こちらでも相談したいので回答は明日まで待って頂けないでしょうか?」
「分かりました、よろしくお願いします」
考えるまでもなくダメだ、と言われる事も覚悟していたが、どうやら検討はしてくれるらしい。
「明日か……ご飯食べて寝よっか?」
結果は明日教えて貰えるそうなので……今日はご飯食べて休もうかな。
精神的に結構疲れてしまった。
俺の言葉にクロも賛同するようにニャーニャーと……これはご飯の催促だな。
若返りのポーション飲んだからお腹が空くのだろう。
カリカリも猫缶も在庫はたっぷりある。
たっぷり食べてゆっくり休もう。
ただしチュールは1本までとする。
そして翌日のお昼前、大塚さんから電話が掛かってきた。
「先日の件ですが、我々としては情報を漏らす事に賛同することは出来ません。 ですが、まだ一般人である貴方に対し強制する事は出来ない、と言う結論になりました……先日、隊員はああ言いましたが、まだ正式に契約した訳では無いですから」
「ええとつまり……」
賛同は出来ないけど、強制は出来ない……どうすればいいのか。
言っても良いって理解しても良いのかな?
はっきり言っておくれよぉ。
「許可は出せないですが、言っても構わないと言う事ですね」
「ありがとうございます!」
俺が戸惑っていると、大塚さんがそうはっきりと言ってくれた。
よしよし、これでじいちゃんばあちゃんにポーション渡せるぞっ。
「……あの、でも本当に良いんですか?」
と喜びはしたけれど、妙にあっさり許可出たよね。
じいちゃんばあちゃんが誰かに言い触らす、なんて事は無いと俺は分かっているけれど、政府にとってはそんな事は分からない訳だよね。
今の時点で本当に言ってしまって良いのだろうか?いや俺としては有難いんだけどね?
「ええ、まあ……なにせ近い内に国民に対して、ポーションの存在を明らかにする事になるでしょうからね」
「あ、そうなんですか?」
おう、そんな話になっているのか。
ってことは一般開放の日も近いか? やったね。
「ええ、ポーションの在庫を確保できる目処が立てば、ですが……」
「ははは……頑張ります」
不問にするからその分頑張ってねってことだろうか。
まあ言われなくても頑張りますとも。ほどほどにねっ。
「これからご報告に行かれるのですかな? 予備自衛官の事について、こちらからも話した方が良いでしょう……隊員を1名同行させても宜しいですか?」
よろしいですよ。
と言うか断れる訳もなく。
これってたぶん見張りって事だよねー。護衛も兼ねていそうだけど。
何かあったら困るし、有難いと思っておこうか。
んで、大塚さんに電話してから1時間ぐらいかな?
出掛ける準備が終わった辺りで家のチャイムがなる。
同行する人が来たのだろうと玄関を開けてみると、そこに居たのは分隊の隊長である都丸さんだった。
「あ、都丸さん……もしかして同行するのって」
「ああ、俺が選ばれた。 今日は宜しく頼む」
なるほど、都丸さんか。
確かに知らない人が来るよりは良いよね。
これも向こうの気づかい……かな?
まあ、とりあえず祖父母宅に向かおうか。
事前にそっちに顔を出すとは伝えてあるので、家には居るはずだ。
お土産のお肉と……ポーションを袋に詰め込んで、俺は都丸さんと共に祖父母宅へと向かう。
「昨日の男だがな、身元が判明したそうだ」
その道中、不意に都丸さんがそんな事を話し始めた。
「外務省の職員で間違いないそうで、今回の件でクビになった。 それと恐喝罪やらでしばらくは外に出て来られんだろうな」
「おお……早いですね」
昨日の今日できっちり調べて、更にはお縄になったか。
ちゃんと対応してくれた様で何より。これでなあなあで済ませていたら、俺はアマツにちくりに行っただろう。
と、俺が感心したような表情を浮かべていると、都丸さんは表情を変えずに話を続けた。
「表向きはな」
「ふぇ?」
ど、どゆこと??
「どうもな、外国と繋がりある奴らしくて、今回の件もポーションやらを奪って、海外に持ち出すつもりだったらしい……って噂だ」
「噂、ですか」
噂ねえ……秘密だから漏らしちゃいけないけど、俺には話しておくぜー的な?
てかですね。
「…………ん?海外? それ、不味くないですか?」
それよりもすんごい嫌な情報をさらっと言いませんでしたかね?
「かなり不味いな。 日本からか、それともアメリカかイギリスか……どこからかは分からないが、ポーションの存在が外に漏れてるって事だ……噂によるとな」
「近い内に国民に対して、ポーションの存在を明らかにするって……そう言うこと?」
他国にバラされる前に自分達で……それも早急に在庫を確保してからバラすと。
それに比べたら俺がじいちゃんばあちゃんに話すぐらいは、どーって事ないんだろう。だから不問にする……と。
「そう言うことだろうな。 ただ、明らかにする前にまずは供給を確保する必要がある。 その為にも、俺達は条件とやらを満たさないといけない。 その方法を知っている島津さんと共に、まずは数名の隊員をダンジョンに向かわせるつもりらしいな」
それぐらいなら全然構わない。
まずは何人かの隊員に条件クリアして貰って、あとはその隊員が他の隊員と一緒に……てのを繰り返して行けば、自衛隊内のチュートリアル突破者は一気にふえるだろう。
そうすればポーション集めも捗るしね。
俺一人が産出出来るポーションの量なんて、あっという間に追い抜かれるだろう。
その最初の切っ掛けのお手伝いぐらいであれば、頑張ってやりますとも。
「あとは……今のままポーションが出回ると、世の中がえらい事になるってんで、お偉いさん方もダンジョンに潜ることになりそうだ」
「まじで」
国会の議員さんって、俺からみたらじいちゃんばあちゃん大した変わらない年齢な訳で……ちょっと無理があるんじゃないかなーって思うのですが。
「まじだ。 島津さんの話から管理者が居るって事と、話し合うことは出来そうだってのは分かったからな。 だが話し合うにしても……前提としてその条件とやらを満たさないといけないんだろう? 誰が行くかで相当揉めてるらしい」
「あー……でしょうねえ」
そりゃ揉めるわ。
俺はダンジョン内死ぬことは無いって知っているけど、彼らに取って見れば下手すりゃ死ぬわけだし。
自衛隊ですら怪我人続出な訳で……そんな所に行く議員さんとか果たして居るのだろうか。
行くとしたら……ダンジョンに強く興味があるか、覚悟決まっちゃってる人だろう。
あとは選ばれちゃった可哀想な人とか。
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