第45話

「……生放送?? ダンジョンで?」


メッセージの内容は以前送ってきた動画についてだったが……なんでも動画を偽物だと批判する人が多くて、それに対して怒った投稿主がなら生放送でやってやるよと啖呵切ったそうな。


「えぇ……それ大丈夫なのか」


銃があるし、投稿主は大丈夫だと思うけど……銃で生き物を殺しまくる動画を生放送っていけるのか?

BANされそうな気もするけど……でもいけるならこれでダンジョンが本物だって事が広まるよな。


……うむ。 がんばれ投稿主、応援してるぞっ。



「んじゃ、中村に返信……まじで? いつやるの?っと」


そう返信するとすぐに反応があった。


「今日の夜中ぁ? ……あ、そっか時差か」


時間は夜中と言うことで、ふざけんなーと思ったが……アメリカだし時差があって当然なんだよな。

確か12時間ぐらい違うんだっけ? なら仕方ないよな。


翌日のことを考えるとあまり夜更かしはしたくはないが、この生放送はちょっと見逃せない。


「クロも見る? 他のダンジョンで生放送するんだってさ」


クロにそう尋ねるとにゃんと返事がある。

そして昼寝に入るクロ……放送時間に合わせて仮眠を取るつもりだろうか。


……俺もとるかな。

いや、さすがに時間がありすぎるか、今寝たらそのあとずっと起きてないとダメそう。


大人しく筋トレでもしてようか。






筋トレやりすぎた感がある。

気が付いたらもう生放送の時間になっていた。


「始まる始まる。 クロ、始まるよー?」


クロにそう声をかけて、スマホで動画サイトにアクセスする。

俺が入る前に既に何人も……というか100万人以上のアクセスがあるようで、チャット欄は英語やら読めない言語で埋め尽くされている。


早すぎて読めない。

てか遅くても読めないか……ははは。



まあ、いいや映像に集中しよう。

場面はちょうどダンジョン入り口前に投稿主が来たところだ。


「入り口でかくて良いなあ。 うちのも少し大きくなれば良いのに」


投稿主は英語で何やら熱く語ったあと、扉を勢いよくあけ中へと入っていく。


扉大きいのちょっと羨ましい。

毎度這って入るのあれなんだよねー。


でもまあ、小さいからこそ周りにばれてないってのもあるし、難しいところだよね。



んで、動画のほうだけど、投稿主のおっさんは銃をいくつも持ってガンガン前に進んでいく。


当然ゴブリンがわらわら寄ってくるんだけど……全てアサルトライフル? だったかな、あんな奴で一掃している。


「やっぱ銃は強い……」


いいところに当たると一撃で死んでるんじゃないかな。


「あとやっぱゴブリンうちより弱いね。 1階だからかな」


うちのゴブリンと比べると動きも遅いし、装備も貧弱というか腰布だけだし。どうみても弱い。

だとしても銃が強いってことには変わりないんだけどね。


やっぱ軍隊とか来るとがんがん攻略しそうだよなあ。

問題は弾代かな? あとは敵の数が多いから弾切れもだね。



さて、動画のほうだけどそんな感じで投稿主がガンガン進んでいくもんで、チャットもえらい盛り上がりを見せている。


投稿主もそれを見て気分を良くしたのか、上機嫌でさらに進む速度を上げていく。


「あの数は不味いんじゃない? こっち気が付いてないけどさ」


そして、うちで言う小部屋にあたる場所だろうか、やたらとゴブリンがたまっている所にたどりついた。


数は……30は居そうな気がする。


そういやでかいダンジョンって推奨人数も多いし、敵の数も多いんだっけか。

となるとおっさん一人じゃこれ以上進むのは無理なんでないかなあ。



「英語さっぱり分からん……でも何か興奮してるし、煽られた? 沸点低っ」


なんて考えてたらおっさんが興奮し始めた。

この先に溜まっているゴブリンについて話していたのだけど、どうもチャットで煽られたっぽい? やたらと放送禁止用語を連呼しているけど、それ以外はさっぱり何言っているか分からない。


「え、うそ行くの??」


どうも奥に行こうとしないおっさんに対して、臆病者とかそういった言葉が投げられたようで、おっさんは興奮しながらゴブリンの群れに突っ込んでしまう。


すると一斉におっさんに向かいゴブリンが向かってくるわけで。

最初は銃でガンガン倒していたのだけど、弾が切れ、銃を交換してまた弾が切れたところでゴブリンがおっさんに飛び掛かった。


残り3匹だけだったけど、おっさんはあっという間に残りの2匹にも飛びつかれ、悲鳴を上げる。


「……うわちゃー」


幸いそこのゴブリンは身体能力は大したことはなく、おっさんは何とか振り切ってその場から逃げることが出来た。

ある程度離れるとゴブリンが追って来なくなったから助かったのであり、これが追いかけてきていたらおっさんはきっと助からなかっただろう。



「生きているけど怪我やばいな」


その後、おっさんは何とか地上までたどり着き、救急車を呼んだ。

程なくして現場に救急車が到着し、おっさんは担架に乗せられ運ばれていった。


その様子は地面に転がったカメラで撮影が続いており、放送を見ていた皆がこれは決して嘘ではないと理解したことだろう。


さらには警察、続いて軍隊まで来たところで電池が切れたのか放送が止まる。

クロはもう寝てた。


「警察に加えて軍隊まで来ちゃったと……これ、相当でかいニュースなるよね」


思っていた以上に大事になりそうだ。

ダンジョンの存在が広まるのは確かだけど……。


「……封鎖されないと良いけど」


そんな期待よりも、そっちの心配のほうが大きかった。



後日、この件はアメリカのニュースでかなり大きく取り上げられたらしい。

日本でもちょろっとニュースでやったぐらいだしね。


ただ、一度ニュースで見かけて以降、続報はない。


ネットではその扉があった場所の写真なんかが上がっているけど、壁で覆われていて中がどうなっているかは分からないし、周りには軍が常駐しているそうで近づく事すら困難とのことだ。


これ、どうなっちゃうんだろうな。

後でアマツの様子でも見てくるかな……と考えた時だった。


また中村からメッセージが来たのである。


「ぬ? また中村からだ」


またである。

そして内容もまたかよと言いたくなるような内容だった。


「イギリスも生放送するう!? ……そっか、イギリスでも見つかってたもんな。 でもアメリカのニュース見てないんだろうか? あれ見たら尻込みしそうなもんだけど」


今度はイギリスでも生放送するらしい。

アメリカの動画をみてか、うちにも同じようなのがあるぞ!と投稿した奴がいるそうで。

で、またまた例によって偽物だろうと煽られて、なら生放送やってやらあ!となったらしい。


うそでしょ。


「人数揃えるつもりなのかなあ……いや、そもそもゴブリンだし、ダンジョンだもんな。 俺が思っているのより、危険だけど参加するってのはずっと多いのかも知れない」


まあ一人じゃ無理ゲーってのはアメリカの例で分かっているはずだし、たぶん人数集めて行くんじゃないかと思うんだ。


ダンジョンって聞いたら多少危険でも行きたい奴は大量にいるだろうし。



そう思って生放送見たんですけどね。




「なんで一人で突っ込むんですかねぇ……」


一人で突っ込みやがりましたよこの野郎!?

日本刀あれば行けると思ったのか!無理だよっ。


……てかなんで日本刀持ってるんだろこのイギリス人。


謎だ。




そしてこの件はまたでかいニュースとなり、世界中にダンジョンの存在が知れ渡る事になる。



で、一方の日本はと言うと……一向に見つからないですね。

ネット上ではダンジョンの話題が尽きることもばいし、日本にもあるんbじゃないか?ってことで有志が結構頑張って探してみたそうな。


でも見つからなかった。



アマツも諦めて目立つところに移動しちゃえばいいのになーって思った。

思ってしまった。


これは果たしてフラグだったのだろうか?



午前中の狩りも終わり、クロと一緒にご飯を食べている時だった。


「番組の途中ですが、ニュースをお伝えします」


「ん?」


何となくかけておいたニュースで臨時ニュースが入る。




「本日11時頃、渋谷のハチ公前に突如として巨大な門が――」



「ぶぼぉ゛っ!?」



「――中に入った若者数名が怪我を負ったという情報もあり、現場は騒然としています」



き、気管に入った!!?


くそっ……てかまじで??ハチ公前って目立つってレベルじゃないでしょ??


アマツ……遂に乱心したか??

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