第14話
家に帰った俺はダンベルなどの筋トレ道具を玄関に置くと、防具一式が入った袋をもってダンジョンへと向かった。
「クロただいまー」
クロに挨拶をして袋から防具を取り出していると、興味を引かれたのかクロが側まで寄ってくる。
「それが防具だよー」
クロはしきりに匂いを嗅いでいたが、一通り匂いを嗅ぐと満足したのか毛布の上で寝転がってしまう。
……クロにお土産も買ってくるべきだったかな?
良い缶詰開けるので勘弁して貰おう……。
「よっし、じゃあ早速試してくるかな、お昼前には戻るからね」
取り出した防具一式身につけた俺はそうクロに告げると2階への階段に向かう。
ネズミだと弱すぎて参考になら無さそうなので1階はスルーである。
2階へとついた俺はポーションを飲み干してフェイスガードをつける。
「……まずは試しに攻撃受けて見るか」
防具をつけてどれぐらい動きが阻害それるのかとか色々試したい事はあったけれど、まずは防具としてきちんと機能するか確かめることにした。
丁度良いタイミングで曲がり角から1匹分の足音が聞こえてくる。
程なくして現れたウサギを俺は盾を構えて迎え撃った。
……いや、最初はこっちから攻撃仕掛けないけどね。
「ふんふん」
ウサギの攻撃を盾やプロテクターで一通り受けてみたが、結果は上々であった。
噛みつきも防具に傷跡が少し付いただけで破られたりとか言ったことはない。
「衝撃はあるけど大分和らいでるし、何より痛くない」
それに何よりダメージらしいダメージが無いと確かめる事が出来たのが大きい。
そして動きがどれだけ阻害されるかについてはこちらほぼ問題は無かった。
買ったときは重かった防具もダンジョンに入ってしまえばまったく気にならない。
「いける! ……でも靴だけは戻すかな。 何か違和感がすごい」
ただ靴だけは別だった。
軍用の靴をつけて戦闘してみたが、慣れない靴のため上手く動けなかったのである。
靴に関しては今の登山靴そのまま使用する事にした。
うっかり転んだりしたら洒落にならないからね。
さて、防具の具合は確認できたし一度戻らないとだ。
お昼も食べないとだし、何よりもクロの様子みたいからね。
クロは今のところは辛そうにしている感じはない。
……でもそれはダンジョン内だけのことであって、地上に戻ってしまえばクロはもうまともに歩くことすらままならない状態だ。
クロの前では普通に振る舞っているつもりだけど、内心不安でいっぱいだ……。
「ただいまー」
休憩所に戻るとクロが出迎えに来てくれる。
一人でダンジョンに潜っていると段々と精神がささくれ立つと言うか、何かこう……まいってくる感じがする。
でもこうしてクロと触れ合っていればそんなのは全部どこか行ってしまう。
……クロもその辺に気が付いてやってくれているのか知れない。
自分の勘違いかも知れないけどすごく嬉しい。
「結果は良かったよ、お昼食べたら3階行ってみるつもり」
クロにそう告げるとクロはまた俺の顔をじっと見つめてくる。
心配してくれるんだと思う。 でも行かない訳にはいかない。
「夕方に一度戻るね」
安心させるようにクロの頭を撫で、俺は再び階段へと向かった。
次に行くのは3階だ。
3階で問題なく戦えるなら攻略はぐっと楽になる。
攻略速度だって上がるだろう。
逆に3階で通用しないなら2階でひたすらウサギを狩ってレベルを上げなければならない。
時間を大きくロスするし絶対にそれだけは避けたい。
そうこうしている内に俺は3階に辿り着いていた。
「よし……行くか」
少し進めばすぐにでかウサギとやり合うことになる。
俺は気合いを入れ直して前へと進む。
「いた」
程なくしてでかウサギと接触。
俺は2階の時と同様にまずでかウサギの攻撃を防げるか試した。
胸に激しい衝撃。息が漏れる。
「っ……衝撃は結構有る、でもダメージは無い……いける、3階でもいけるぞこれ」
以前骨をへし折られた攻撃であったが胸に仕込んだプレートによって無効化されていた。
その他の攻撃もガードすればダメージは無かった、攻撃を受けながら話すぐらいには余裕がある。
「次は出来れば2匹が良い……」
俺はでかウサギ仕留めると再びダンジョンを進み始めた。
2匹に対応できるのであれば一先ずこの階層でやっていけると言うことになる。
「って、言った側からきたし」
2匹はすぐに見つける事が出来た。
でかウサギは俺を見つけると同時にこちらに向かい攻撃を仕掛けてくる。
俺はまず先頭の1匹の攻撃を盾で受け止めた。
「おりゃっ」
そしてぐっと力を込め、盾を押し返す。
シールドバッシュと言うほどではないが、でかウサギは数m後ろに飛ばされる。
それと入れ替わりでもう1匹が攻撃を仕掛けてくるが、そちらは盾ではなく腕のプロテクターで攻撃を防ぐ、そして脚をはじき返すように鉈を振るった。
鉈はでかウサギの脚を切り裂いていた。決して浅い傷では無いだろう。
そしてこちらにダメージは無い。
「ふぅ」
その後の戦闘も危なげなく終えることが出来た。
でかウサギは2匹共に床に沈んでいる。
やはり盾は勿論の事、プロテクターやパッド部分で受ければダメージはほぼ無い、いけると思えた。 焦らなければ2匹相手でもガードは出来るのだ。
……まずは小部屋を通らずにマップを埋められるだけ埋める、その頃にはレベル上がっているだろうから次に数が少ない小部屋を狙っていく。
そうやって順に進んでいけば3日もあればこの階層を攻略出来る可能性だってある。
「うっし、いくかーっ」
俺は気合いを入れ直し、次の敵を求めてダンジョンの奥へと進んでいく。
その後も順調にでかウサギを倒し続けた俺であるが、夕方休憩所に戻る頃には同時に3匹相手取っても問題なく勝てる様になっていた。 しかもポーションの消費は三つだけと実に満足のいく結果である。 ちなみに探索中に宝箱も見つけているのでポーションの収支としてはトントンである。
「たっだいまー! クロ、お腹空いたでしょ、ご飯にしよっ」
防具を揃えた事で攻略が一気に楽になった。
抱えていた不安の大部分が解決した俺は意気揚々と休憩所へ入り、クロに声を掛けた。
クロは水を飲んでいた所だったようで、舌を出したまま固まっている。 いきなりテンション高くてごめん。
夕食をクロと一緒に済ませた俺は再び3階へと向かい、今度は小部屋の攻略を進めようとしていた。
「おぅりゃっ!」
真っ先に突っ込んで来たでかウサギを後続に向け盾ではじき飛ばす。
1匹が避けきれずに転倒し、残りの2匹は巻き込まれないよう回り込んでこちらへと突っ込んでくる。
俺は攻撃される前に潰そうと回り込んだ2匹に一気に距離を詰め鉈を突き出した。
鉈はでかウサギの喉元に深く突き刺さる。
鉈に力を込め捻るとゴリッと鈍い音がし、でかウサギの四肢から力が抜ける。
もう一匹は? そう思ったところで脇腹に衝撃がくる。
「んがっ」
さらに横に回り込んでいた奴から蹴りを受けたのだ。
レベルが上がったことで俺自身の耐久もあがり、以前程のダメージはない、がそれでも痛い。
ポーションの効果でジワジワと引いていく痛みに意識を引っ張られながらも俺は残りの3匹に向かい鉈を構えるのであった。
その後戦闘は割と呆気なく終わった。
相手が3匹であればもう問題ないぐらい強くなったのである、もっとも防具が無ければそうはいかないのだが……。
まあ、防具のおかげにしろ何とか小部屋でも戦えてはいる。
問題だったポーションの消費も3部屋に1個程度で済んでいる。
てか防具無しとか1種の縛りプレイだよね……我ながらもっと早く用意しとけよと思わなくもない。
まあ、それは置いといて。残っている問題があるとすればでかウサギの数が少ない小部屋を探すのが大変と言ったところだろうか。
「いてて……4匹はまだきついか。 横とか後ろに回られちゃうんだよなあ…………ん?」
これがせまい通路などであれば一度に戦う数を制限できるので、例え相手が5匹だろうが10匹だろう問題ないのだが、小部屋ではそんな事は出来ない……そう考えたところでふと疑問が浮かんだ。
果たして本当にそうなのだろうか?
俺は手製のマップを見て考えた。
そしていくつか案が浮かんでくる。
「角で戦うとどうなる? 4匹同時には攻撃出来ないよな、たぶん。 入り口は……なんとも言えないな」
部屋の四隅のどこかに陣取れば恐らく一度に相手する数を制限できると思う。
入り口もそうだが、あっちは襲い掛かってくるかどうかが微妙だ。
「……とりあえず角でやってみるか」
物は試しにやってみよう。
とりあえず4匹部屋を探さないとだ。
結論から言えばあっさり出来てしまった。
「いけるじゃん」
角に陣取ると3匹が同時に攻撃を仕掛けてきた、だが残る1匹は味方が邪魔で攻撃を仕掛けられずにいた。
そして相手が3匹であれば防御優先にすればそこまで厳しい戦いにはならない。
実際無傷で先ほどの戦闘は終わっている。
……あれ、これすごく楽なのでは?
勿論楽とは言っても防具があって、しか3匹までなら倒せる実力があれば、だけど。
これが防具無ければただなぶり殺しされるのが落ちだと思う。
やっぱ文明の力ってすごいな!
これならわざわざ数が少ない小部屋を探さなくてもすむ。
レベリングが非常に捗るだろう。
……とは言ってもいきなり10匹部屋に入るのは怖い。
5匹、6匹と確かめながら数を増やしていこうと思う。
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