第8話
年が明けもうすぐ卒業ではあるが、学生はまだ少しばかり授業に出る必要がある。
俺もその例に漏れることなく土日以外はちゃんと学校へと通っているわけです。
「ごっめん、今日用事あってさー帰らないとダメなんだよー」
「あー? ならしゃあねえなあ」
「なに、島津行かねえの? 戦〇無双でも買うのか?」
「いや、買わんし」
「先週発売だっけ? あとで買いに行く?」
「もう売り切れてんじゃねーの」
とまあこんな感じで6限目が終わり、荷物を手に帰宅しようとしたところで友人から遊びのお誘いがあったんだけど、生憎先約があったのでこの日のお誘いは断る事にした。
……約束ってのは勿論ダンジョンに行くことなんだけどー……あまり断っていると何かあるのかと怪しまれそうだし、平日はダンジョンに行くの少なくしたほうが良さそう気がするね。
てか戦〇無双ってなんだよ、名字が同じってだけで関係ないってーのに。
「クロ、ただいまー」
玄関に入り靴を脱いでいるとクロが出迎えに来てくれる。
何時もの事だけどやっぱ出迎えてくれると嬉しいよね。
近寄ってきたクロの頭を撫で、尻尾をしゅるっと掴むと満足したのか茶の間へと戻って行ってしまう。
このまま追いかけてクロを撫で続けるって選択もあるけど、俺はとりあえず自室へと向かい荷物を置いて着替える事にした。
……あまりしつこく撫でると怒るからね。
程々が一番なのだ。
それに帰ったらダンジョン行こうと約束しているし、潜るなら夕飯前に済ませてしまいたい。
ダンジョン潜る格好に着替えて茶の間に向かうと、クロはソファーに寝そべり爪のお手入れをしていた。
「夕飯前にダンジョン潜っちゃおうか?」
俺が声を掛けるとクロはうにゃんと一声鳴いてソファーを飛び降りる。
……やっぱ今更だけど完璧に俺の言葉を理解してるよね、レベルアップの恩恵凄い。
「今日中に残りの部分の埋めちゃいたいねー」
埋めるのはマップの残り部分ね。
ちょいちょい進めたお陰で残りは少しなのだ。
たぶん2時間ぐらいで行けると思う。
今のところは更に奥へと続く階段とか、いかにもな扉とか見つかって無いのだけど……残りの部分で見つかると良いなあ。
ネズミしか居ないダンジョンってのも悲しい物があるよね、お宝も今のところポーションしか見つかってないし。
「……なんかいかにもって扉があるんだけど」
とかなんとか考えながらダンジョン潜り始めたら、30分かそこらでいかにもって感じの扉を見つけてしまった……ここ、昨日引き返した所から一つ角曲がったところじゃん。
昨日見つけておけばもう少し準備してきたのにさー……ま、いっか。
「とりあえずマップ埋めちゃうか」
別に今日中に扉を開けなきゃいけない訳ではないし、残りのマップを埋めてしまおう。
「ちょっと覗いてみる……?」
あっさりマップ埋め終わっちゃった……いやね、小部屋とかもうネズミが一杯詰まってようが全く苦労しなくなってるんだよね。 うっかり噛まれそうになんてこともほぼ無い。今なら俺一人でも無傷いけちゃう……は言い過ぎかもだけど、多少噛まれるぐらいで行けてしまうとは思う。
レベルアップの恩恵まじ半端ない。
んで、時間も結構余裕あるし、そうなると扉の奥が気になる訳で。
クロと一緒にちょこっと開けた扉から中の様子を窺うと……。
「…………あれ、ウサギかなあ?」
中には体長1mぐらいのウサギとしてはかなりでかめ……でもどう見てもウサギにしか見えない存在が2匹、部屋の中央に陣取っているのが見えた。
ネズミの次はウサギかあ……なんだろうね、その手の動物限定なダンジョンなのだろうか?
普通はゴブリンとか出て来そうな気がするんだけど……いや、実際出てこられても困るんだけどね。人型とやり合うのはさすがにちょっと遠慮したい。
それはさておき、あのウサギをどうするかだ。
たぶんあいつらを倒さないとこの先には進めないとかそんなのじゃないかなーと思う。
俺としては是非とも先に進みたいので、俺の中で彼奴らを倒すのはほぼ決定事項だったりする。
問題は倒せるかどうかって事なんだけど。
「2匹いけるかなあ……ポーションは用意してっと。 後は扉につっかえ棒しといて、やばい時は逃げれば良いかな……?」
まあ、たぶん行けると思う。
ポーションあるし、でかいと言っても1mぐらいだしね。
でも念の為逃げ道は確保しておく。
「行くよっ」
合図と共に俺とクロは扉の奥へと左右に分かれて駆け出した。
するとウサギはすぐに反応し俺とクロそれぞれに1匹ずつ向かってくる。
ここまではネズミ戦と変わらない、こちらに向かってくる速度がネズミと比べ大分速いが対処出来ないほどでは無い。
ウサギが蹴りの射程に入ったところで俺は足を蹴り上げた。
「へっ?」
足にガツンと重い衝撃が来て、そのまま足を蹴り抜くとウサギは宙を舞い……そんな光景が来るはずだった。
だが、予想に反して俺の蹴りは虚しく宙を空振りする。
マヌケな声を上げ、口をポカンと空ける目の前でウサギが俺に蹴りを繰り出していた。
蹴りの向かう先は鳩尾から心臓付近、ウサギは空中に飛び跳ね俺の蹴りをかわしていたのだ。
「いったぁっ!?」
ドスンと腕に鈍い痛みが走る。
咄嗟に空いている腕でガードする事が出来たが、正直かなり痛い。
腕なので折れたりはしてないだろうが……これが肋骨とかだったら折れていたかもしれない。それぐらいの威力があった。
「っこの!!」
攻撃を受けたことで頭に血が上り、俺は半ば反射的に反撃を仕掛けていた。
ウサギに対して鉈を振り下ろす。 咄嗟にやったことなので勢いも無く、攻撃としては中途半端だった……が、空中で蹴りを放ったウサギは重力に引かれて落ちるしか無く、その攻撃を避ける手段は持ち合わせていない。
鉈はウサギの首へと深く食い込んでいた。 振り下ろした勢いのまま地面に叩き付けられたウサギはしばらく痙攣していたが、やがて動かなくなる。
「やった……クロはっ?」
クロは大丈夫だろうかとバッと顔を向けると、そこにはウサギの首をがっちりくわえ込んだクロの姿があった。
……楽勝そうですね。
たぶんクロ相手だとウサギも跳んだりはしなかったんじゃないかな。
跳んでも無防備なお腹晒すだけだし、で普通に噛みつきにいって……ネズミ相手で対処に慣れてるクロにあっさりやられたと……うん、たぶんきっとそう。
決して俺がアレな訳じゃ無いんだよっ?
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