第2話

そしてその翌朝。

寝るまで悩んで悩み抜いた俺は、ある結論へと辿り着いていた。



「…………よしっ」



見なかったことにしよう!!



……嘘です、ごめんなさい。


あれだね、あの瓶がポーションなのかどうなのかとかは置いといて、とりあえず瓶の出所を確かめることにしたのだ。


出所を確かめるのはそんなに難しくはない……と思う。

何せ俺がこれからやるのは出掛けたクロの後をつけるだけと言う単純明快な事だから。



……人が通れないような所に行かれると詰むけど、その時はその時だ。



「こんなもんかな?」



鏡の前で無駄にポーズをとってそう呟く俺。



鏡を前にするとつい……ね?


今日の格好は猫の後を歩いて追うことになるので出来るだけ動きやすいように……ってことで上下共にジャージを選んだ。それと腰ポシェットにお財布やらスマホやら日用品をつめこんで、念の為に軍手も突っ込んである。


あとはジャンパーを着て……うん、完璧完璧。


部屋を出て階段を降りると、ちょうどこれから出掛ける所だったのだろう。

クロと玄関でばったり出くわす。



「クロ、散歩に行くならあの瓶を取ったところに案内してくれないかな?」



靴を履きながらそう声をかけて見る。

別に無言で着いていっても良いんだけど、まあ一応ね?



するとクロは一声鳴いて俺から離れると、玄関を出て外へ向かい、道路へと……と思ったら道路に出る前にくいっと進行方向を変えてしまう。


あれ、そっちは庭だけど……まさか生垣をショートカットする気じゃないよね……?

さすがに生垣を乗り越えて人様の敷地に入り込む気はないよっ?


なんて内心焦っていたけどクロは生垣を乗り越えることはなく、庭のあるところでピタリと足を止めた。



「ん? ここ?」


クロが止まったのは庭に隅にある物置代わりに使っている小さな小屋の前であった。



「……クロ、器用というかパワフルと言うか……」



俺が小屋の前でボケッとしていると、クロは器用にも前足で小屋の戸を開けるとスルリと中に入ってしまう。


俺は慌ててクロを追い、小屋の中へと入るが……。




「……なにこの穴」


小屋の床にぽっかりと穴が空いていたのだ。

しかも穴は床だけではなく、その奥の地面にも空いている。



「奥が見えない……」


穴は途中から勾配が変わっているらしく、スマホの光で照らしても奥を見ることは出来なかった。

深いのか浅いのかも分からない。



「ここ進むの……? うっそでしょ」



クロだけど、俺が小屋に入って穴を見つけると同時にひょいっと飛び込んでしまったんだよね……。


……正直怖いけど、案内してといった手前行かない訳にも…………あれ? クロ俺の言葉を理解してる?



「……行くか」



深く考えるのはやめて置いた。


今はクロの後を追うべきだろう、どこまで続いているのか分からないけど途中で分岐してたりすると不味い。



それにさっきは怖いって言ったけど、少しだけワクワクしてきたりする。

しょうが無いよね、男の子だもん。


そうして俺は意を決して穴に飛び込ん……だりはせず、ゆっくりと這いつくばって穴へと入っていったのである。

ヘタレと言うなかれ、ワクワクしてようが怖いものは怖いんだよっ。





「せ、せまい……」


クロの後を追って穴に入ったわけだけど……正直狭い。一応膝を立てても大丈夫なぐらいの高さがあったが、油断すると頭を打ちそうである。


そのまま少し進むと前方に光が見え……近づくと穴の先に空間があることが分かった。

どうやらクロは既に穴の先に居るようで早く来いというように鳴き声が聞こえる。


俺は慌てて穴の先の空間へと向かう。


「なんで庭からこんな空間に…下水じゃないよね?」


出た先は幅5m、高さは3mぐらいの通路だった。


一瞬下水かと思ったけれど別に臭くないし、なんで明るいのって話だ。


……まって、なんで明るいの!?




「電気とかついてないし……これ、絶対おかしいぞ」



下水じゃないけど、明らかに人工物。

電気もないのになぜか明るい通路。

てか、家の地下にこんな空間あるとか明らかにおかしい。


それとクロは恐らくここであの瓶を入手したってこと。




……つまりこれってダンジョン?


ゲームの世界じゃあるまいしと思う反面、実際にポーションみたいなものが存在しているんだから、あって当然とも思う。

というかゲームとかはそれなりにやるし、漫画も小説も読む俺としてはダンジョンであってほしいと思ってる。



「……どこまで続いてるんだろ」


奥の方へと視線を向けると十字路やら曲がり角があり、その先がどうなっているかはここからじゃ分からない。


ちょっとした迷路の様になっているのだろうか? てかこれもうあれだよね、ダンジョン確定でいいよね?


庭の地下空間にこんなの存在するとか普通あり得ないし、ダンジョンだよダンジョン。





……まって、ダンジョンと言えばお約束のモンスターがいるんじゃ!? テンション上がってきたけど、これこのままじゃ不味い。



「クロ、ちょっと道具持ってくるから、一旦外に出よう!」


クロに一言かけて一旦家に戻る。

何か武器や防具になりそうなものを持ってこないと……あと水と食料に救急箱もだ。





「よ、よし……行くか」


30分後、完全武装した俺は再びダンジョンへと降り立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る