第3話
……完全武装といっても実習で使う作業服に厚手の皮手袋とヘルメット、あとは安全靴……は動きにくいかなと思って登山靴。あとは小屋に放り込んであったごっつい鉈が一つ。
もっと強そうな武器とか防具が欲しいけど、家にあるのじゃこれが精一杯だ……ホームセンターに行っても今あるのと大した変わらない気がする。
あと、たぶんだけどクロが出入りできるぐらいだから、そんなに強いのは出ないと思うんだ。
いくら俺でも飼い猫よりは強いと思い……たい。
再びダンジョンに入ると、クロは俺を先導するようにとっとっと……と軽やかに通路を進んでいく。
「ク、クロ進むの早すぎ」
一方の俺はおっかなびっくり進んでいくので徐々に離されていってしまう。
思わず呼び止めるが、振り返ったクロに半目で見られてしまう。
「そんな目で見られても……っ」
怖いものは怖いんだ~! そう言おうとしたところで通路の奥から何かが向かってくる音に気が付いた。
はっとして音の方向に顔を向けると同時に、曲がり角から何かが飛び出してきた。
「ネズミ!? でっか!」
来たのはネズミが一匹だけ……ただしかなりでかい、クロより一回り小さいぐらいはあるんじゃないだろうか。
正直ハムスターぐらいしか見たことのない俺にとってはビビるぐらいの大きさだ。
実際に俺は飛び出してきたネズミにどうすれば良いのか分からず、ただビビッてその場に固まっていただけだった。
「うぉぉぉ……え、それ首噛んでるの?」
で、そんな俺に対してクロはビビるなんてことはなかったらしい。
ものすごい勢いで飛びかかったかと思うとその喉元へと噛みついていた。
……クロ、ここにちょいちょい来てるって事なんだよね? たぶん。
飼い主としての威厳がちょっと揺らいじゃう。
「うへぁ……」
暫くの間ネズミは足を痙攣させるようにもがいていたけど、やがて動かなくなる。
……窒息させたのか、それとも首を折ったのか。どちらにしてもクロさん半端ない。
「ま、また来た!」
動かなくなって安心していたけど、そこにもう1匹ネズミがやってきた。
「ちょっ……う、うわああああっ!」
そいつは今度は俺へと一直線に向かってきて……クロが今度もしとめてくれるかと思ったら、クロは黙って俺とネズミを見ていた。
あ、これ俺がやれってことか。
俺は半ば本能的に理解し、反射的にネズミを蹴り上げていた。
「……」
良い感じで顔に靴先がヒットした。
ネズミは吹っ飛んで壁に叩き付けられるとビクッビクと痙攣する。
……瞬間的に首が縦に90度以上曲がるの見えちゃったから、たぶん死んでると思うけど……。
「し、死んでる」
動かなくなったところで足先でツンツンと突いてみるが反応は無し。
どうやら無事に倒せたらしい。
咄嗟に生き物を蹴り殺してしまった訳だけど……思ったより動揺してない俺が居る。
必死すぎてそれどころじゃ無いのか、それとも……必死だったってことにしておこう。その方が精神衛生上も良さそうだ。
「んー……何も変化しないなあ」
ドキドキしながらじっと死体を見守っていたけれど、何も起こらない。
どうもここのモンスター?は死んだら何か落とすとか、そんなことは無いらしい。
「解体とかしないとダメなタイプ……俺、解体とかしたことないんだけど」
色々考えてたけど、結局俺は死体を無視してそのまま進むことにした。
もしかすると解体すれば何か手に入る可能性もあるけど、解体の仕方なんて分からないし、道具もないし、そもそもあれモンスターかどうか分からないし。
たんに迷い込んで繁殖しただけのネズミって可能性もあるわけで。
と、なんやかんやと言い訳しつつポーションを求めて俺とクロは探索を再開するのであった。
「……噴水?」
……で、探索再開したそばからであれなんだけど、ネズミが飛び出して来た曲がり角の手前に十字路があるんだけどね、そこをひょいと覗き込んだ先に噴水みたいなのを見つけたんだ。
「なんだろここ、休憩所とか?」
十字路の先は体育館の半分ぐらいはありそうな広い部屋だった。その真ん中に噴水があってそこから流れ出た水は水路を流れて壁に空いた穴へと流れ出ていく。
なんかこうさっきまで居た通路と空気が違うっていうのかな?
たぶん安全なんだろうなーと感じる。
たぶんだけどね。
ここを休憩所として使うなら実際に安全か確かめたほうが良いとは思う。
具体的な方法としてはー……ネズミを誘導して入ってこれないの確認するとか? 何となく入ってこれないんじゃないかなと思うんだ。これで入ってきたら笑うけど。
「セーフポイント的なあれなのかなー」
ま、そのへんは後で確認すれば良いか。
今は休む必要ないしとりあえず先に進むとしよう。
ポーションを探すのだ。
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