サーモン


 サーモンピンク。真梨が買っているリップの新色。


 洗濯物をたたむ間のBGMにと流していたテレビの声に、私は手を止めた。


『女はいつだって自由、でしょ』


 CMの女優が笑う。きっとその「女」の中に、母親の私はいない。


 娘の真梨は先月、高校生になった。高校の入学式でようやく私は、猫背気味で歩くあの子を産んでもう15年が経過したのだと気づいてしまった。


 リップのせいで、先週真梨に吐き捨てられた言葉を思い出した。


『誰かさんに似て一重だからこんなブスになっちゃったんだよ』


 重たいまぶたの一重も、それを気にしてしまうところも。こんなくだらない部分まで似てしまうから、親子ってものは嫌なのだ。あのときなんて答えればよかったのだろう。きっと夫に聞いても答えは出ない。あの人は「女」じゃないから。


 じゃあ整形しましょうか。そう気軽に言える人間だったらどれほど楽だったろう。私は「ごめんね」と軽く返事をして、夕飯のカレーを作っていた。軽い返事のなかにどうしようもない感情がかすかに残っていた。真梨もそれに罪悪感を抱いたようで、翌日、そこそこ高いコンビニ限定のプリンを買ってきた。


 最後のタオルをたたみ終えた私は、手さげバッグをもって家を出た。足は近所のドラッグストアに向かっていた。


 女はいつだって自由。真梨が私に似たことを恨むのも、私が彼女のために二重テープを買ってあげるのも、自分用に娘と同じブランドのリップを買うのも。


 自由がゆえに面倒で、自由がゆえに、手放しがたい。

 

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