ムスメと旅をする
REX
旅立ち
第1話 トオル「僕はムスメイトマスターになる!!!」
トオルは田舎町に住んでいる少年である。
この物語はそんな彼がムスメイトマスターになる為の冒険譚である。
トオルは辺境の田舎の村に生まれ育ち、ずっと母と2人で過ごしてきた。
この村には数えられる程しか住宅がない。だから村中の人は大抵知り合いだったりする。
たまに都会から来る人は空気が澄んでいて凄く良いなんて褒めてくれる。
(まぁ、買い物には隣町まで行く必要があったりと、不便といえば不便なところもあるんだけどね。)
そんなネガティブな思いを持つつも、トオルは生まれ育った村が好きだった。
空気が綺麗で林に囲まれ自然の匂いが溢れるのどかな田舎。
ゆったりとした空気が漂い自分はこの村で一生を過ごすのだろうとも思っていた。
そんなトオルの前に、半年くらい前に都会からこの村に新しい住民がやって来たことで一変する。
その人の孫のレイジは僕と歳が同じということもあり、良く一緒にいることになった。
レイジは僕に都会で流行している事を色々と自慢……、教えてくれた。
その一つにムスメを使ったチームバトル、その名もムスメイトバトル。
正直、レイジの話は自慢が多くて辟易していたが、ムスメイトバトルの話にはトオルも心が躍った。
そんなものがあったのかと興奮を抑えられずにいた。
村の大人達から危険なモンスターとして教えられてきたムスメ。
そんなムスメを使ったバトル。
実際に見たいとレイジに頼んだところ一本のビデオテープを貸してくれた。
今、テレビに映っているのはレイジから借りた昔のムスメイトバトルの全国リーグの試合の映像。トオルはその画面を食い入るように観ていた。
ムスメと呼ばれるモンスターを使った競技ムスメイトバトルのチャンピオンを決めるリーグ戦の決勝戦。
赤い帽子を深く被った少年と、年配のおじいさんが激しい攻防。
少年の的確な指示によって、放たれた一撃によって、おじいさんの最後のムスメが気を失ったところ、勝敗が決まった。
「今! チャンピオンが決まったーーーー!!!!」
実況が甲高く叫び、観客席が大歓声に包まれる。
手に汗握る展開に興奮し、テレビで前のめりに見てたトオルも、「僕はムスメイトマスターになる!!!」と心に決めた。
甲高い声で新しいチャンピオンの登場を視聴者に宣伝をするように煽るアナウンサーの一言一句を心に刻み込む。
応援に集中し過ぎていた。
不意に目の前のテレビの映像が――
プツンッ
と消えて真っ暗になってしまった!?
何が起こったのか。背後に人の気配を感じる。
後ろにはテレビのリモコンを手にした母が仁王立ちしていた。
額から冷や汗が垂れ落ちる……
「トオル、聞いてた? 隣町までカレーの材料を買ってきてってお願いしてるでしょ? 返事は?」
母は笑顔で問い詰めてくる。これは鬼の笑顔って奴だ……恐怖を感じてしまう。
「あはっ。もう一回見てからでも良い?」
トオルが笑って誤魔化そうとしたが、母は笑顔を崩さず、優しい口調で僕に注意をする。
「ダメよ? そのビデオを見るのも駄目。」
これは、凄く怒っているなと直感する。
「お母さんはトオルがムスメなんて危険なモンスターと関わるなんて認めませんからねっ!? 全く……この町にあの変なお爺さんが引っ越してきてから……」
母はぶつくさと新しい住民の文句を言い始める。こうなってしまったらめんどくさい。
そう、実は最近引っ越してきた人はムスメの研究をしている有名な博士らしい。
その博士が研究のためにと、この田舎の村に引っ越してきたのだ。
トオルは直接会ったことは無いんだけど、レイジや隣町に住む友達のツバサが言うには、結構気さくな人らしい。
なんでもレイジやツバサはムスメイトマスターになる為に旅に出る事の相談に乗ってもらってるという事を聞いていた。
「トオル、早く買い物に行って頂戴。夕飯の準備が遅れちゃうわ。」
「カーさんは人遣いが荒いなぁ……」
やれやれと立ち上がりボソッとつぶやいた。
「何か言った?」
「何も言ってないよ……僕、買い物に行ってくる。」
早く買い物を終わらせてもう一回見るぞ。
逸る気持ちを抑えて、この場をやり過ごすためにトオルは隣町に行く準備を始めた。
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