112.地下三階

 階段は地下深くまで続いていた。

 これまでの階層よりもずっと深い。

 体感的には、二倍くらいの深さを感じる。


 そして――


 俺たちは地下三階へとたどり着く。

 見た目はこれまでと変わらない。

 ただまっすぐに伸びる通路が一本だけある。


「さっきより広くない?」


「ああ」


 ただし、他の階層より天井が高く、横幅もある。

 これを見た最初の感想は、戦い易そうだな……ということだった。


【呑気に構えてんじゃねーぞ】


 ベルゼの忠告で、全員が気付く。

 暗く閉ざされた視界の先で、何かが蠢いている。

 この場合、正体は一つしかないだろう。

 じっと目を凝らせば、闇とは別の黒い部分が輪郭を現す。


「黒いゴーレム」


【お出ましだな】


 情報通りの黒いゴーレム。

 闇にも溶け込めてしまうほどの漆黒。

 形は同じだが、大きさが二倍以上ある。


「あたしの見間違いかな? あれでっかくない?」


「普通にでかいよ」


「なるほど。あのサイズじゃ、さっきの通路だとギリギリだな」


 さらに二体、後ろから通常のゴーレムが姿を現す。

 王を守る兵士のように、黒いゴーレムの前に立ちはだかる。


「シンク、どうすんだ?」


「先に前の奴を倒そう」


「りょーかい!」


 そう言って、キリエが槍を構える。

 ミアが隣に立ち、剣を抜いてから言う。


「私とキリエで一体ずつ相手をすればいいかな?」


「ああ。俺たちで援護するよ」


 俺は弓を構え、ユイは杖を握る力を強める。

 ミレイナは前衛の二人を強化する。


「主よ――我が同胞に光の加護を与え給え」


 二人は光のベールに包まれる。

 これで身体能力が全体的に強化されただろう。


「よっしゃいっくぜー!」


 最初にキリエが突進する。

 続けてミアも前に出て、剣で応戦する。

 白いゴーレムは二体とも近接タイプだったようだ。


 二人が前衛で戦っている間に、ユイが黒いゴーレムに攻撃する。


「マジックバレット」


 放たれた魔力エネルギーは、二人の間を通って黒いゴーレムに届く。

 しかし、黒いゴーレムも同種の魔法を発動し、ユイの魔法を相殺した。


「あっちも魔法」


「みたいだな」


 俺は二人を援護しつつ、黒いゴーレムを鑑定眼で見る。

 すると、左胸の部分に心臓を発見する。

 それも一つではない。

 サイズの大きい心臓が一つと、その周囲に小さい心臓が三つある。


「あれも心臓なのか?」


 そう口に出した直後、小さい心臓が動き出す。

 黒いゴーレムは右手を突き出し、そこへ心臓も移動している。

 攻撃の危険性を感じた俺は、前衛二人に忠告する。


「黒いのが何かするぞ! 二人とも注意するんだ!」


 そう言いながら、俺は矢を連射して迎撃を試みる。

 だが、これも黒いゴーレムの魔法で防がれてしまう。

 

「ちっ、ダメか」


 すでに心臓の一つは右手へと移っている。

 そして次の瞬間――

 手の一部が形を変え、岩の塊となって膨張していく。

 ブクブクと生物のように膨れ上がり、やがて形を整える。

 そうして一体の白いゴーレムが誕生した。

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