111.一網打尽

 ゴーレムは次々に増えていく。

 倒しても一向に減る気配なく、前衛で戦う二人の表情には疲れが見え始めていた。


「くっそっ! 全然減らないじゃん!」


「文句言ってないで戦って!」


「わかってるって!」


 ゴーレム一体の強さも相当なものだ。

 俺たちの援護もあるとは言え、さすがの二人もそろそろ厳しい。

 何かしら手を打たなくてはならない。

 

「どうにして一気に無力化できれば……」


【オレならやれねーこともねーぞ?】


「ベルゼ」


 腰のランタンの炎が揺らぐ。

 

「本当か?」


【おう。全部まとめて止めちまえば良いんだろ? だったら余裕だぜ】


 ベルゼはハッキリとそう答えた。

 彼が出来るというのだから、それは間違いないのだろう。

 後の問題は、どれだけの負担がかかるのか。


「時間はかかるのか? ここで出し切るわけにはいかないぞ」


【心配ねぇ、一瞬だ】


「わかった。なら頼む」


【おうよ! んじゃ行くぜ!】


 憑依重魂――


 互いの魂が混ざり合う。

 瞳の色が変化し、紫色の炎を宿す。

 俺の身体に、ベルゼの魂が憑依した証だ。


 ベルゼが叫ぶ。


【お前ら下がれ!】


 声の変化に気付いた二人は、回避に専念して後退する。

 二人が俺の後ろへ戻って来たところで、ミレイナに言う。


【後ろで結界張ってな。巻き添えくっちまわねーように】


「わかりました」


 ミアとキリエが俺の後ろへ下がる。

 ミレイナが祈りで結界を展開し、俺との間に壁を隔てる。

 そして、戦闘を中断したことで、ゴーレムたちが一斉に迫ってきていた。

 迫るゴーレムを見ながら、ベルゼは不敵に笑う。


【残念だったな土人形共】


 パチンッ!

 指を鳴らした。

 次の瞬間、全てが凍り付く。

 天井も、床も、壁も瞬く間に凍結し、ゴーレムは氷像となって止まる。


【ほれ、一丁上がりだ】


「さすがだな」


 俺はすでに憑依を解いている。

 時間的には数秒だったから、以前よりも疲労感は出ていない。

 それにしても圧巻の光景だ。

 あれだけのゴーレムを、文字通り一瞬で無力化してしまうんだから。


 ユイも同じように思ったのか。

 ベルゼの手際に感動している。


「すごい……」


【お前さんもいつかできるようになるぜ?】


「本当?」


【おう。努力次第だけどな】


「頑張る」


 ユイも魔法使いとして、目指すものが明確に見えてきているようだ。

 問題のゴーレムは討伐した。

 気になるのはこの先だ。

 俺たちは凍った地面で滑らないように気を付けて、奥へと進んでいく。


 そして――


「これは?」


 階段を見つけた。

 地下三階へと続くものだろう。

 いや、驚いたのはそこじゃないんだ。

 床の一部だけ、氷がはがされた跡がある。


「凍結から抜けたのか」


【らしーな。だとしたら、他と比べ物にならねぇ】


「ああ……もしかすると」


 黒ゴーレム。

 その単語が頭によぎる。

 他の個体と明確に違う強さを持っていると聞いていた。

 もしもそうなのだとすれば、この階段の先に待っているのだろう。


「行くしかないな」


【だな】


 俺たちは覚悟を決め、階段を下っていく。

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