95.山頂を目指す
キリエの突進は、イナズチの懐を貫通していた。
致命傷を受けたイナズチは雪に埋もれながら倒れている。
すでに事切れていてピクリとも動かない。
対照的にキリエは、意気揚々と歩いて戻ってくる。
「どうどう? 今の見たよな? あたしのほうが速かったぞ!」
「そうだな。お手柄だったよ、キリエ」
「えっへへ~ まっ、あたしにかかればこれくらい楽勝だからな!」
幸せそうに満面の笑みを浮かべるキリエ。
ユイとミアが動きを封じて、ミレイナの加護で強化したから、キリエの速度が一瞬だけイナズチを上回ったんだろう。
内心ではそう思っているが、声に出しては言えないな。
こんなにも嬉しそうな顔をしているのに、雰囲気を壊すのは可哀想だ。
「皆もお疲れさま。良い動きだったよ。ベルゼもありがとう」
【かっ! 礼には及ばねぇよ】
「さて、じゃあ素材を貰おうか」
イナズチから採取できる素材は二種類。
クエストの納品素材である雷獣の爪は、両前足から一つずつ採取できる。
爪はたくさんあるけど、目的の爪は親指の一番太い爪だけだ。
あとはモンスターが持っているコア。
イナズチからは雷のコアが採取できる。
今さらだけど、強力なモンスターのコアには属性が宿っていることがあるんだ。
だから、イナズチのコアには雷の力が宿っている。
「これで一先ずクエストは達成だな」
「やったね! じゃあ後は一つだけだよね?」
「ああ」
俺とミアは話しながら、山の頂上へと目を向ける。
雪山エリアで手に入る素材は四種類。
すでに三つを手に入れているから、残りは一つだけ。
エアリアル草。
一本で人間が一生のうちに必要な分の空気を生み出せると言われている草だ。
海岸エリアを攻略する上で、この草は絶対に必要になる。
「採取できるポイントは山頂。つまり、ここを登りきらないと駄目ってことだ」
「険しい道のりですね」
ミレイナの言う通り、ここからの道は険しい。
俺たちが現在いる中腹より、山頂付近は寒いし空気も薄い。
寒さ対策はしてきたが、山頂には長い時間留まれないと予想している。
「シンク、時間は?」
「ああ、ユイ。ギリギリだよ」
ここに来るまでに、予定より時間がかかり過ぎている。
山頂まで登るためには、ここから数時間はかかるだろう。
夜になれば気温も一気に下がる。
しかも、タイミングが悪いことに雲がかかり始めた。
「一旦拠点に出来そうな場所を探そう」
これ以上進むのは危険と判断し、俺たちは適当な洞穴を探していく。
四十分ほど探して、いい感じの穴を見つけられた。
そして、俺の判断は正しかったと悟る。
「雲が……」
ユイが穴から上を見上げると、どす黒い雲が空を覆っている。
中腹から山頂にかけての一帯は、気候の変化が激しい。
特に丁度見えている場所は、雲と同じ高さだ。
あの中に突っ込むということがどれほど危険なのか。
わからない愚か者はいないだろう。
「今晩はここで過ごそう。山頂は明日だな」
「さんせーい。さすがに疲れたぁ~」
ぐったりと腰を下ろすキリエ。
激闘を終えた俺たちは、たき火をしながら暖をとる。
そして、明日に備えて英気を養う。
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