72.裁かれる悪

 頭を貫かれたロードは、ついに命の火を燃やし尽くす。

 どさりと大きな音を立てて倒れた直後、俺も力が抜けて転がり落ちる。

 もはや起き上がる力も残っていない。

 無様に地面で寝そべって、空を見上げている。


「はぁ……っ、勝ったんだよな」


【おう。オレたちの完全勝利だ】


 ベルゼがそう答えた。

 緩やかに流れる雲を見つめながら、俺は安堵してため息をこぼす。


【なぁシンク、今の気分はどうだ?】


 今の気分?

 そんなの決まっているだろ。

 身体中が痛いし、ボロボロだし、魔力は空っぽだ。

 今すぐにだって眠ろうと思えば眠れるくらい疲れている。

 二度とこんな経験はしたくない。

 つまり、何が言いたいのかと言うと――


「最高だよ」


【かっ! それでこそだ】


 青空の下で、俺たちは笑い合った。

 生き残っていることを実感できる幸せを噛み締めながら。


 数日後――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 戦いを終えた俺たちに待っていたのは、街の人々からの祝福――ではなく、療養生活だった。

 当然といえばそうだが、限界を超えて身体を酷使した影響で、一歩も動けないほど弱っていたんだ。

 ロードを倒してから眠りについて、目が覚めたのが二日後。

 それから立てるようになったのが三日後で、一週間後にようやく普通に生活できるレベルまで回復していた。


 歩けるようになった頃、俺はギルド会館に呼び出されていた。

 俺だけではなく、ミアたちも一緒だ。

 リガール支部長が待つ部屋では、彼以外にも人影があった。


「さて、なぜ呼び出されたかわかっているね?」


 リガールは怖い表情でそう言った。

 俺に……ではなく彼に向かって。


「――ガラン」


 苦い表情を見せるガラン。

 両腕を手錠で拘束されている。

 ガランの後ろには、ティアラたちパーティーメンバーも一緒だ。


 リガールが続ける。


「君はとても優秀だった。やりすぎる所はあったが、良い成績を収めていたからね。だからと改心の機会を与えたが、今回ばかりは度が過ぎている」


「一体何の話ですか? 俺は何もしていませんよ」


「惚けても無駄だよ。君が何をしたのかは証言がとれている」


「証言……ね こいつらの話を信じるっていうんですか?」


 ガランは呆れながら俺たちを見る。

 この期に及んで、なお罪から逃れようとしている。

 ミアたちの表情が怖くなってく。

 すると、リガールがガランの言葉と態度を否定する。


「それだけではない。私は直接見ていた」


「見ていた? 何を言って――」


「私は【千里眼】スキルを持っていてね? 望んだ場所を見ることが出来るんだよ」


「なっ……千里眼?」


「そうだ。君の行動は逐一監視させてもらっていた」

 

 リガールは断言的にそう言った。

 このとき、俺は理解した。

 彼が決闘のときに現れたのも、ゴブリンの出現を察知できずに悔しがっていたのも、彼が千里眼と言うスキルを持っていたからだ。

 そして彼は、ガランが俺を指した場面を目撃していたらしい。


「言い逃れは出来ない。君は罪を犯した犯罪者だ。このまま罪人として王国に引き渡す」


「ま、待ってくだ――」


「何を言っても無駄だ。この決定に変更はない」


 ガランが言い訳を口にする前に、リガールはそう言いきった。

 これで観念したのか、ガランは絶望した表情で黙り込む。

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