63.作戦第一段階

 時間は経過し、午前十時となる。

 作戦は大きく三部隊、三段階に分かれている。

 渓谷の一箇所に集められたパーティーは、ゴブリン軍団の先頭を肉眼で確認していた。


「来たぞ!」


「す、すごい数だな……」


 渓谷の中を進むゴブリンの群れ。

 うじゃうじゃと蠢く様子は、見ているだけで気分がわるくなる。

 軍団の中には数種類のゴブリンが混ざっているようだ。

 この群れのどこかにロードもいる。


「よーし! 攻撃を開始するぞ!」


 一人の男性の合図で、魔法使いたちが一斉に動き出す。

 展開された魔法陣からは、炎、水、雷、風と様々な属性攻撃が飛び出す。

 攻撃はゴブリンたちに降り注ぎ、慌てふためき出す。


 第一部隊の役割は、ゴブリンの数を一匹でも多く減らすことだ。

 彼らが攻撃をしているポイントは、渓谷内からは移動できない場所になっている。

 崖を昇ってくることも不可能ではないが、ネズミ返しのような形をしているのでほぼ無理だ。

 ここで数を減らして、後続の部隊の負担を減らす。

 あわよくばロードを倒せれば、侵攻そのものを止めることが出来るかもしれない。

 よって集められたパーティーも、高威力な攻撃が使える者が多い。


 ゴブリンたちは逃げるしかなく、急いで攻撃の雨から抜けようと走る。

 魔法が使えないものは矢を放ち、一匹ずつ狩っていく。

 軍団の半数が通り過ぎたら、第一部隊の役目は一旦終了となる。

 そこから第三部隊と合流し、流れてきたゴブリンを殲滅する流れだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「第一部隊がゴブリンとの戦闘を開始したらしいぞ」


「そうか。だったら俺たちの出番も近いな」


「ああ……やばい、緊張してきたぞ」


「今さらやめろよ。俺だって本当はちょっと怖いんだから」


 伝達役によって情報が伝えられ、第二部隊全体がざわつき出す。

 戦いが近づいていると知り、様々な感情が胸のウチからわきあがり、落ち着けないのだろう。

 かくいう俺たちも、彼ら同様に緊張していた。


「ゴブリンかぁ……あんまり戦ったことないんだよなぁ」


「そうだね。グラニデの周りにはいなかったし」


「ちょっと不安」


 どうやら三人とも、ゴブリンとの戦闘経験はないらしい。

 俺はガランたちとパーティーを組んでいた頃、ゴブリン討伐のクエストを受けたことがある。

 最初は下級のモンスターと思って侮り、ロクな作戦も立てずに挑もうとして、ギルドの人に止められたっけ。

 結局色々と調べて、念入りに準備してから臨んだけど、無策でいかずに良かったと思ったな。

 ゴブリンは小さくて弱そうに見えるけど、とても狡猾で意地汚い。

 嫌がらせや人を殺すことに関しては、異常なまでに長けているといっても過言ではないほどだ。

 油断はできない。

 とは言え、俺はあまり心配はしていなかった。


「以前ならともかく、今の皆なら大丈夫。過信はよくないけど、もう少しくらい自信をもっていいいと思うよ」


「そう……かな? そうかも!」


「なんかあれだな! シンクに言われるとホントって感じがする!」


「嬉しい」


 俺の言葉に励まされて、彼女たちは肩の力を抜く。

 そうして、俺たちの出番が近づいてくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る