37.ヒドラ戦白熱!

 ヒドラをモデルにしたボスモンスター。

 事前の情報収集によると、三つの攻撃属性を持っているらしい。

 三つとは頭の数と同じ。

 中央が炎属性、正面から見て左が氷属性、右が雷属性という順番だ。

 これだけでも十分にやっかいなのだが、こいつが最も恐ろしいのはそこじゃない。


「プロミネンス」


 ユイの炎魔法が炸裂する。

 炎の柱はうねりながら伸びて、左の頭部を破壊する。


 しかし――


 破壊された頭部はブクブクと蠢き、ものの数秒で再生してしまう。

 驚異的なスピードと、復活の仕方にキリエは思わず……


「うわっ、気持ち悪いな」


 と言ってしまうほどだ。

 こいつの恐ろしさは攻撃の多彩さではなく、超スピードの再生能力にある。

 仮に頭部を全て破壊しても、同じ速さで再生するだけだ。


「聞いていた通りだな。普通に戦っていても、こっちが先に消耗するだけだ」


「ねぇねぇ! 身体のどこかに核があるんだよね?」


 攻撃を躱しながら、ミアが俺に尋ねてきた。

 俺も矢の連射で応戦しながら、全員に聞こえる声で言う。


「そうだ! こいつの再生能力も、核さえ破壊すれば停止する!」


 これまでヒドラと戦ってきたパーティーが掴んだ情報だ。

 ヒドラの体内には、モンスターのコアと似た核が存在しているらしい。

 それを破壊すると、再生能力も停止するとか。

 だから、攻略法としては先に核を破壊する。

 もしくは、核ごと全身を消滅させるしかない。


「シンクー! 核ってどこにあるんだー?」


 今度はキリエが遠くのほうから聞いてきた。

 ヒドラは強力な攻撃を放ち続けているが、スピード自体はそれほどじゃない。

 慣れてしまえば回避は意外と簡単だったりする。

 それにしても皆余裕そうで驚いたよ。


「今見るからちょっと待って!」


 話では、核は体内をグルグル回っているらしい。

 俺は鑑定眼を発動して、ヒドラの構造を確認する。

 確認するといっても、核の位置がハッキリと見えるわけじゃない。

 鑑定眼は肉体を透視するスキルじゃないからね。

 わかるのは大体の位置だけだ。


「胸の辺りだな! 今は真ん中の首の付け根だと思う」


「よっしわかった!」


 俺からの情報を聞いて、キリエが真っ先に動き出す。

 槍を構え、スタートダッシュの姿勢から地面を蹴る。

 キリエの突進スピードなら、核が移動する前に貫けるかもしれない。

 ただ、残念なことに俺が教えられたのは大まかな位置だけ。


 キリエの攻撃でヒドラの胸がえぐれる。


「あれ?」


 しかし、核にはヒットしなかったようだ。

 抉れた肉の内側に、紫色の水晶のような丸い玉が見えた。

 すぐに再生してしまったけど、あれが核であることは間違いなさそうだ。


「くっそ、おしかったな今の! だったらもう一回チャレンジして――」


「待ってキリエ! 後ろから来るよ!」


「えっ? うおっと!」


 ヒドラの尾がキリエに迫り、ギリギリで回避してよろめく。

 ミアが気付かなければ今頃大ダメージを受けていただろう。

 ブレスや再生能力に気がいってしまいがちだが、尾での攻撃も要注意だ。


「ミア、サンキュー!」


「どうしたしまして! だけど気を抜いちゃだめだよ?」


「りょーかい! シンク!」


「私たちはもう慣れたよ!」


 二人からの声が届く。

 俺はユイに目を向けると、彼女は小さく頷いて言う。


「いける」


「よし! じゃあ作戦開始といこうか」


 戦闘開始から十数分が経過している。

 この時間はいわゆる慣らし運転みたいなものだ。

 ヒドラの動きにどこまでついていけるか、事前情報はあっているのかの確認をしていた。

 それも十分に済んだし、攻略に移るとしようか。

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