36.ボスモンスター①ヒドラ
ダンジョンの地図を見ながら進んでいく。
俺たちが通っているルートは、ダンジョン最深部と思われる場所に繋がっている。
そこには大きな空間が広がっていて、ボスモンスターも配置されているとか。
「なぁなぁ、質問していい?」
「何? キリエ」
「ボスモンスターってもう倒されてるんじゃないの? たくさんパーティーが挑戦してるんでしょ?」
「倒されてるよ? だけど、ダンジョンのモンスターは一定時間たつと復活するんだ」
「えっ、そうなのか!?」
キリエは驚き目を見開く。
ボスを含め、ダンジョンにいるのもモンスターの形をした別物だ。
倒してもコアは手に入らず消滅する。
そして、ある程度の期間をあけると、新しいモンスターとして復活する。
詳しい仕組みは現代でも不明のままだ。
「ボスもそれと同じで、倒しても翌日には復活してるはずだよ」
「そうか~ すごいなダンジョンって」
感心しながら歩いていくと、問題の部屋前にたどり着いていた。
目の前には大きな扉が一つある。
ダンジョンの入り口と似たような扉だ。
ルートを知っているから、ここまではあっさりたどり着くことが出来た。
だけど――
「この先は大変だぞ」
「おう!」
「よーし! 頑張ろうね! ユイ」
「頑張る」
「じゃあ、開けるぞ」
そう言って、俺が扉に手をかける。
ぐーっと押し込むと、扉はギィギィ音をたてながら、ゆっくりと開いた。
広がっていたのは、上も横も遠いと感じられるほどの空間だった。
ただし、広いだけで何もない。
聞いていたボスモンスターはいないし、先へと続く扉もない。
三人がキョロキョロと中を見回す。
「何もいないね」
「だよな。もしかして、今日は誰か倒しちゃったとか?」
「空っぽ……」
三人から緊張感が消えていく。
「気を抜かないで」
しかし、俺の目は捉えていた。
この部屋に施されている仕掛けを――
部屋の床に魔法陣が展開される。
魔法陣は七色に光を放ち、小さな粒子を放出していく。
粒子は一箇所に吸い寄せられ、徐々に大きくなる。
形を作り上げ、命を吹き込まれたそれは、巨大なモンスターへと変貌する。
灰色の鱗を纏ったドラゴン。
それも三つの頭を持っている。
このモンスターのモデルを、俺はとある文献で見たことがある。
名前は――
「ヒドラだ!」
三つの顔が同時に叫ぶ。
空間が揺れ、消えかけていた緊張感が一気に戻っていく。
黒竜と対面したときに近い。
俺たちは武器を構え、戦闘準備を整える。
先制はヒドラ。
頭の一つが口を広げ、炎のブレスを放とうとする。
俺が叫ぶ。
「ユイ!」
他の二人も意図を察し、俺たちはユイの後ろへと隠れる。
放たれる灼熱の炎。
対するユイは杖をかざし、魔法陣を展開させる。
「アイスドラゴン」
展開した魔法陣から氷の竜が飛び出す。
氷の竜は俺たちを中心にとぐろを巻き、炎のブレスを防ぐ。
本来は相手にぶつける魔法だが、ユイは防御のために使用した。
防御はしているものの炎のブレスは収まらない。
俺は後ろの氷を一部だけ破壊して、大きく後退する。
そこで弓を構え、ブレスを放っている頭に当てるため、放物線を描くように矢を射る。
射ったのは爆発矢。
連射された矢は炎の上を抜け、ヒドラの頭部に着弾する。
炎のブレスは止まった。
しかし、続けて別の頭部が動き出す。
同じように顎を開くと、今度は電撃の一閃を放ってくる。
炎を防いで溶けかかっていたアイスドラゴンは、電撃攻撃によって弾けとぶ。
「うっ……」
「ユイ!」
「大丈夫」
幸いにも三人は無事だった。
だが、これで攻撃が終わったわけじゃない。
続けて最後の一つの頭も動いている。
顎を広げて放たれるブレス。
今度は炎でも電撃でもない。
全てを凍らせる冷気だ。
「三人とも一旦下がれ!」
俺の指示で三人が後方に飛ぶ。
ブレスが当たった場所は、一瞬にして凍り付いてしまう。
事前に聞いていた情報通りだ。
ダンジョンのボスモンスターヒドラ。
こいつは三つの属性を持っている。
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