35.モンスターとの遭遇

 ダンジョンには固有のモンスターが配置されている。

 姿形は自然界にいるモンスターと同じだが、中身はまったくの別物。

 ダンジョンを建設した者が、侵入者を阻むために製造した警備兵。

 故に、厳密にはモンスターではない。

 そして何より――


「つよっ! 何だよこのウルフ!」


 俺たちはダンジョンでモンスターに遭遇。

 交戦を開始していた。

 遭遇したモンスターはダンジョンウルフ。

 名前のままだけど、ダンジョン内に出現するウルフタイプのモンスターだ。

 見た目は白銀の狼で、眼だけが赤く光っている。

 行動パターンは、森林エリアで遭遇したウルフと同じだが、予想以上のスピードにキリエが翻弄されている。


「キリエ下がって!」


「頼んだ!」


 キリエが大きくバックステップし、ミアと位置をチェンジする。

 迫るウルフ二匹に、ミアが連続で剣を振るう。

 ウルフの回避よりも彼女の剣速が上回り、ウルフは散りとなって消滅していく。


「ふぅ~ 助かったよミア」


「どういたしまして」


 戦闘が終了し一段落する二人。

 後ろにいた俺とユイも合流し、反省会を始める。


「キリエどうだった? 戦い辛かっただろ?」


「めちゃくちゃ戦い辛かったよ! やっぱ狭い場所だと槍って不便だな~ ていうか動き早過ぎ!」


「ははははっ、まぁ実感してくれて良かったよ」


 ダンジョンの通路は人が通るには十分だけど、戦うためにはスペース不足だ。

 キリエの主武器は長槍だし、彼女の長所は足の速さも、乱戦になってしまうと発揮できない。

 彼女にとっては不利な場所だと言える。


「まぁでも、キリエは足の速さに頼りすぎてる節があるからな。ここで普通の戦い方も学んだ方が良いと思うぞ」


「普通……ふつう?」


 キリエはキョトンとした表情で首を傾げる。

 その反応を見て若干呆れながら、俺は彼女に言う。


「俺も人並みになら使えるから、教えようか?」


「頼む!」


「私も教えてほしいな~」


「ミアは十分戦えてたし問題ないよ」


「そっかぁ」


 褒めたつもりだったんだけど、ミアはガッカリして俯く。

 ミアの場合は剣速が異常なだけで、使い方の基礎は身についていたからな。

 武器が追いついた時点で、俺から教えることはあまりない。


 さて、二人はこれで良いとして――


「たぶん一番戦いにくいのはユイだな」


「うん……」


 俺の後ろにいるユイは、シュンとして立っている。

 彼女の扱う上級魔法は、どれもこれも高威力かつ広範囲なものばかり。

 こんな狭い場所で使えば、味方どころか自分すら巻き添えになる。

 おそらくだけど、ここで使えそうな魔法は、マジックバレットくらいかな。

 あの魔法は単発で放てば、普通の威力でしかないし。


「ごめんなさい……あんまり役に立てない」


「そんなことないって! 普段からユイの魔法には助けられてるしな!」


「そうだよ! こういうときは私たちに任せて!」


「……」


 二人はユイを励まそうとしているのだろう。

 ただ、こういう場面での励ましは、かえって逆効果だったりする。

 申し訳なさそうに落ち込むユイ。

 俺は彼女の肩にトンと手を置いて言う。


「シンク?」


「大丈夫。ユイの出番はこの先にあるから」


「本当?」


「ああ」


 ダンジョンには特別な部屋が設けられていることが多い。

 そこは宝の隠し場所だったり、トラップの延長線だったり、理由は様々だ。

 部屋は広く設計されていて、ボスモンスターが配置されている。

 聞いた話によると、このダンジョンには三体の大型モンスターが配置されているそうだ。


「だから、その時までユイは魔力を温存しておくように」


「わかった。そうする」


 少しだけ元気を取り戻し、ユイの表情にやる気が宿った。

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