併用注意!〜市立病院おくすり相談室の事件手帖〜

走るアンピシリン

プロローグ

ようこそ市立病院おくすり相談室へ

 皆さま、普段何かしら薬を飲んでいると思います。

 お薬に関して、何か疑問はありませんか。

 気になることがあれば、何でも当院おくすり相談室へ。


 「こんな感じですかね」

 近くにいた先輩に聞いてみた。

 「おお、いいんじゃなかろうか。おそらくそんなに来る人もいないであろう。まあこの病院に入院してくる人々は土地柄かなぜか個性的な人が多いから、そういった人はたくさん来るかもしれないけれどね」

 先輩はにやにやしながらそう言った。

 「ええ、やめてくださいよ」

 当院では、院長の方針で親しみやすい病院を目指しているやらなんやらで各部署に各自親しみやすさを追求するようにとの通達が出され、薬剤部では薬の相談を受け付けるおくすり相談室なるものを新しく作ることとなった。いま院内に貼る張り紙を作成している最中である。

 私は新卒でこの病院の薬剤科に就職して三年目であるが、なぜかおくすり相談室に配属された。

 「まあ、貴嬢もいろいろ相談を受けることで思いのほか勉強になることもあるだろうし。ないかもしれないけど。わからなかったら曖昧に答えないで、一旦保留して調べるなり僕に聞くなりしてちょうだいね。まあまあ、あまり気負いせずがんばりたまえ」

 先輩の言うように育成の観点から私が選ばれたのだろう。先輩は補佐役としていつでもサポートをしてくれる役割とのことであった。


 先輩は私のかなり上の先輩である。名を浮谷二八郎という。どこか達観している風であり、薬のことはおろかこの世のことについて何でも知っているように見受けられる。何か質問をすると必ず答えや答えに繋がるヒントをくれる非常に頼もしい存在である。なぜか、先輩のケーシーだけほかの部員とは違って和服のような様相をしている。どこで買ったのだろうか。靴も下駄を履いているように見える。とにかくとても謎多き先輩である。


 当院は北海道某市内の中核を担う大病院である。A棟からF棟まで六つの棟があり、全て七階建てとなっている。一日に発行される処方箋もたいへん多い。そのため、薬剤部も薬剤師数約五十人となかなかの大所帯である。これだけの人数なので先輩を始めとしてなんとも個性的な人が多い気がする。


 おくすり相談室には、病院入り口近くにある患者サポートセンターの使っていない一室があてがわれた。

 まあ、そんなに大変な相談はこないだろう。

 このときの私はまだこれから起こる大波乱に気付く由もなかった。

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