15.風評被害も甚だしい。ギルドに文句言ってやる。


前回までのあらすじ。

CRホムンクルスと雑魚魔獣を10階層に避難させた。

冒険者とイビルホーネットが侵入してきた。


◇ ◇ ◇ ◇



・冒険者たちの視点


時は少しさかのぼる。


Aランク冒険者達は警戒しつつ1階層を進んでいた。



「罠はありませんねぇ」



Aランク盗賊が呟く。見たことのないダンジョンのタイプだ。


異世界へ転生した者なら、機械的もしくは研究所っぽい、スターウ○ーズみたい、などと例えるだろう。


しかし、彼らの文明は中世レベル+αくらい。

そんな例えが出てくるほど文明は進歩していない。



「壁は壊せないな。やっぱダンジョンで間違いない」


「それにしては魔獣が1体も出ないのはどういうことだ?」


「おそらく、異常に強いボスが1体だけ居るんだろ。

拡張前は、ダンジョンに入ったらいきなりボス部屋、とかだったに違いない」



Aランク剣士と盾役は言いつつ警戒し、ゆっくり進む。

出来たてのダンジョンなので、本来ならボスも弱いゴブリンエリートみたいなのしか居ないはずだが、それだとCランク冒険者が帰ってこない説明が出来ない。



「次の階層へ移動できる床ですねぇ」



Aランク盗賊の調べた移動式の床は、上の階層へ上がることが出来る物らしい。

しかし冒険者達は奥の広い部屋が気になる。



「これは何かの施設ですかねぇ」



冒険者達が気になっている、広くてところどころに培養カプセルや水槽がある施設。

サイバーファームだ。


土を使わず多彩なスポンジを用いた農業、マッドサイエンティストなやり方で家畜を増やすことが出来る施設なのだが、冒険者達にはそんなこと分からない。



「この場所には何もなさそうだな」


「そうですねぇ。……ん?」


「どうした?」


「ダンジョンの外の連中から通信ですねぇ」


「あのCランクどもか。俺が出よう」



リーダーのAランク剣士が通信に答える。

もし彼らがこの時点で、全力疾走してダンジョンのに逃げたのなら、もしかすると2~3人くらいは生き残れたのかもしれない。



『もしもし! Aランクパーティの皆さん!

変なトカゲとイビルホーネットがダンジョンに潜入しました!』


「え?! イビルホーネットだって?!」


『間違いありま』



剣士とジズとの通信が途切れた。


剣士の首が、食い倒れの鋭い爪によって飛ばされていたからだ。



「キエェェエエエエエエエエ!(おはようさん!)」



「イヤァァアアア?!」


「いつの間に我々の後ろに来たんですかねぇ?!」



食い倒れはダンジョンの2階層の大部屋でイビルホーネットの群れを相手するつもりだったのだが、人間を見かけたので挨拶することにした。


首をはねたのはわざとではなく、うっかり爪が当ってしまったからである。

彼が本気だったなら、プラズマ砲で一瞬で10人とも消し炭にしていただろう。


Cランク冒険者のリーダーから再び通信が来る。

しかし、それに応答する余裕はない。


イビルホーネットの軍勢がこちら目がけてやって来たからだ。


2mの黒いハチが9人の冒険者と1体の機械ティラノに襲いかかる。



「いいか! イビルホーネットを殺すなよ!

この銀色の竜の隙をついて逃げるんだ!」



パーティリーダーの剣士が死んでも、なお冷静に指揮をとる盾役の切り替えの速さは、さすがAランクといったところか。


しかし。


ザクリ。イビルホーネット数匹が爪により切り裂かれる。



「キャキャキャキャキャ!(そこにおったら危ないで。巻き込まれても知らへんで)」



盾役の忠告なんて目の前の機械トカゲには関係ない。

イビルホーネットが狩られてしまった。

冒険者達は顔を青くする。


死んだイビルホーネットからフェロモンが発せられる。

フェロモンは空気に乗って飛んで行き、イビルホーネットを呼び寄せると同時に怒らせる。


怒ったイビルホーネットは、手当たりしだいに攻撃を仕掛ける。


黒い悪魔の波が、襲ってくる。



「くそっ! 来るな! このっ!」


「焼いてしまっていい?!」


「こうなっては仕方ない! 頼む!」


「炎の海!」



サイバーファームの入り口に巨大な炎をまく。


逃げ道を塞いでいるように見えるが、そもそもこの状況で逃げられるわけがない。


|籠城(ろうじょう)して時間を稼ぎ、ギルドからSランク冒険者が助けに来るのを待つしか生き残る方法はない。


そんな決死の覚悟の炎だったのだが。



「キュワワッ、キャッ!(ちょ、炎なんかがあったらせっかくのハチが逃げるやないか。ふーっ)」



機械ティラノは炎を吹き消してしまう。


残念ながら彼は冒険者の言っていることが分からないのだ。

言っていることが分かったからと言って冒険者の味方をするとは限らないが。


そして、炎が消えた瞬間、ハチの大群がさらに押し寄せる。



「ああっ?!」


「危ないマルシャ! ぐふっ……」


「ミラード?! うっ……」



一瞬の隙をハチは見逃さない。

パーティの盾と魔法使いが倒れたことで、一気に戦力が崩れる。


回復役の魔力が尽きる。騎士の乗っていた馬がやられ、その騎士もハチの一刺しで落ちる。


魔力切れで倒れた回復役にハチがとどめを差す。


パーティの半分を失い、残り5人は既に戦意喪失している。



「ちくしょー!」



ハチの数の暴力に有効な対抗策がなく、あっさりとパーティが全滅する。


そんな中、食い倒れは爪攻撃でハチをばったばった切り裂いていた。


彼にとってはいい経験値稼ぎであり、主にとってもいいDP稼ぎになり、一石二鳥だ。


もっとも、冒険者にとっては悪夢以外の何者でもなかったが。


この日がきっかけで、ギルドでダンジョン『引きこもり拠点』の危険度がSランク相当に認定された。


命がこのことを知ったなら、俺は悪くねぇ、風評被害も甚だしい。ギルドに文句言ってやる。

そう言っていたであろうが、彼は外へ出ないため、自分のダンジョンがどのように見られていたかを知ることはなかった。





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