異世界でダンジョン運営任されたけど知るか。それよりゲームするわ

気まぐれ屋さん

1.スキル無し縛り強要だと? 運営に文句言ってやる。



俺の名は伊乃田命いのだまこと

25歳。フリーター。


深夜1時のコンビニバイト(レジ)をしている最中だ。


深夜バイトは客が少ない割には給料が良い。

仕入れや準備、掃除もあるが。



「ふぁ……うん……」



暇である。

客が片手で数えられるくらいしかいない。


あくびをかみしめる。

一応は接客業。

だらしない所を見せるのは良くない。


お、サングラスにマスクを着けた、

40代くらいの怪しいオッサンが入店した。



「動くな! 全員大人しくしろ!」



オッサンは包丁を見せ、俺達を威嚇いかくする。



「手を上げろ! 少しでも変なマネしてみろ!

そいつを殺す! いいな!」



うへぇ。強盗かよ。


もちろん強盗などへの対策マニュアルも、

新人研修で学んだ。


俺はさっと、警報ベル(ただし鳴らない)を使う。


あとは警察や警備会社の人が来るまでおとなしくしよう。



「おい! お前!」


「は、はい」


「警察に通報したら殺すぞ?」



もう手遅れです。


それに、ここの監視カメラは警備会社がリアルタイムで見張っている。


警察や警備会社の人が来るのは時間の問題だ。



「さっさとこの鞄に札をつめろ!」



オッサンはボロボロの皮鞄をレジに叩きつける。


俺はせっせと札をつめる。



「早くしろ!」



急かすなよ。手元が狂うだろ。

こう見えてビクビクしてるんだから。



「つ、つめ終わりました」


「よ、よし。よくやった。そのまま手を上げろ。

ここにいる全員だ。俺が出るまで動くなよ?」



オッサンが出ていく。


警察が待ち構えていたらしい。


ドタバタという音と、男どもの怒鳴り声が聞こえる。



「てめぇーっ! よくも通報しやがったなぁ―っ!」



げ?!

怪しいオッサンが、警察を振り切ってコンビニに戻ってきやがった!


何やってんだ警察は?!



「死ねぇええええええ!」



ザシュ。胸元に包丁を刺される。



「う……かはっ!」



俺は血を吐いた。肺や消化器が出血すると、血を吐くらしい。


オッサンが包丁を抜く。

胸が熱くジリジリする。触ると生温かい。

ほのかに香るさびた鉄の香り。俺は倒れる。



「きゃあぁあぁぁぁああああ―ー?!」


「ひ、人殺しだぁあああ――ー?!」


「ああっ?! んの野郎!

この社会のクズが!」



薄れゆく意識の中、

警察の男がオッサンを殴り、オッサンが組み伏せられるのを見た。



「救急車! 急げ! 店員が刺された!」


「放せぇええええええ!」



阿鼻叫喚の中、俺は死んだ。



◇ ◇ ◇ ◇



「というわけなんだなぁ」



俺は雲の上にいた。

自分の体を見ると半透明だ。


女神を名乗る銀髪の少女パチモは、俺の死にざまを見てたかのように丁寧に教えてくれたわけだ。



「で、俺は幽霊になったわけか。パチモンさん」


「ボクはパチモ! 『ン』はいらないんだな『ン』は!」


「はぁ、で、俺はこれからどうなるんだ?」



女神パチモは「んー」と考え



「その1。異世界に転生し魔王を倒すんだな」


「やだよ面倒くさい。それくらいなら家でゲームする」


「その2。異世界に転生し最近流行りのダンジョン経営をするんだな」


「異世界って中世レベルの文明だろ?

そんな土くさい場所に行きたくないな」


「1と2か、どっちか選ぶんだな」


「ちなみに断ったら?」


「君の魂は冥王様に回収され、気が遠くなるほどタダ働きさせられるんだな」



冥王?

閻魔大王(えんまだいおう)様のことか?


というか、ただでさえ死んで気分最悪なのに、タダ働きさせられるなんて嫌すぎるだろ。



「で、魔王とダンジョン経営どっちに興味あるんだな?」


「ダンジョン経営で」



魔王なんぞ知るか。引きこもってやる。


パチモが俺の額に人差し指を当てる。



「職業登録完了なんだな」



――――――――――――――*――――――――――――――

伊乃田命いのだまこと

種族:人間(25歳)

所属:名のないダンジョン

Lv:1

職業:ダンジョンマスター

スキル:なし

HP 0/0(不死) MP10/10

力18 頑丈さ16 素早さ12 知識27 魔法力10 器用さ36

――――――――――――――*――――――――――――――



俺のステータスが宙に表示される。

VRかな?



「というかスキルなしかよ」


「君は地球出身だから、一生スキルなしなんだな」


「スキル無し縛り強要だと?

運営に文句言ってやる」


「では転生いってらっしゃいなんだなー」



パチモがそう言うと、俺は雲から落ちてゆく。




◇ ◇ ◇ ◇



地面にぽふっ、と到着。

目の前には洞窟っぽいのがあり、「名の無いダンジョン 所有者:伊乃田命」と表示される。



「今日からここは俺の引きこもり拠点だ」



表示が「ダンジョン『引きこもり拠点』 所有者:伊乃田命」に変化した。




――――――――――――――*――――――――――――――

ダンジョンアドバイザーを選択してください。

「妖精」陽気な妖精を召喚します。

「エルフ」魔法が強いおてんばエルフを召喚します。

「ドラゴン」最強の冷酷なドラゴンを召喚します。

「ゴブリン」器用な人懐っこいゴブリンを召喚します。

「スケルトン」剣術に長けた渋いスケルトンを召喚します。

「人間」過去の大賢者を召喚します。魔法が伝説クラスです。おすすめです。

「人工音声」私です。

――――――――――――――*――――――――――――――



女性の様な高い、

しかし人工の透き通った声が聞こえ、

宙に選択肢が表示される。


俺の相棒を選べってことか。


強さを求めるならドラゴンか人間なのだろうが、俺はまじめにダンジョン運営をする気はない。




「『人工音声』でよろしく」



――――――――――――――*――――――――――――――

『人工音声』には何の力も能力もありません。よろしいですか?

「はい」

「いいえ」

――――――――――――――*――――――――――――――



「はいはいっと」




――――――――――――――*――――――――――――――

ダンジョンアドバイザーを『人工音声』に設定しました。

――――――――――――――*――――――――――――――



何で『人工音声』にしたかだって?

人付き合いが|煩(わずら)わしいからに決まってんだろ。


半引きこもりの俺がコンビニで働いていたのだって、ゲームを買ったりネトゲの課金をするためだった。


この世界にはゲーム、無いんだろうな……。




――――――――――――――*――――――――――――――

検索対象「ゲーム」結果1,000,000件以上

1.ゲームセンター設置(1,000,000DP 別途電力必要)

2.万能ゲーム機セット購入(10,000DP 別途電力必要)

3.トランプ+トランプの本購入(300DP)

……

――――――――――――――*――――――――――――――



あるんかい。


それに喋らなくても俺の考えが伝わるのか。

楽でいいな。


ってかDPって何だ。



――――――――――――――*――――――――――――――

解説「DP」

ダンジョン・ポイントの略。ポイントを消費することでダンジョンの拡張・魔獣配置・アイテムや罠など配置・ガチャを行う


などが可能。


主なDP獲得方法は以下の通りとなります。

「自然獲得」……1日の始めに500DP

「ダンジョン内での敵死亡」……対象の危険度に応じたDP

「ダンジョン内での敵の負傷」……その日に死亡せず負傷させた総計HPの0.1%のDP

「敵がダンジョンの帰還地点から帰還」……対象の危険度に応じたDP/5

――――――――――――――*――――――――――――――



ふむふむ。


――――――――――――――*――――――――――――――

入手 「自然獲得(500DP)」

手持ち0DP→500DP

――――――――――――――*――――――――――――――


現在のDPは500DPか。


そのポイントだけで遊べるゲームはトランプだけなのか?



――――――――――――――*――――――――――――――

検索対象「ゲーム 500DP以内」結果20件

1.トランプ+トランプの本購入(300DP)

2.小型ゲーム機・テトリス(300DP)

3.小型ゲーム機・タマウォッチ(300DP)

……

――――――――――――――*――――――――――――――



小型ゲーム機・テトリス(300DP)を変換してくれ。



――――――――――――――*――――――――――――――

購入「小型ゲーム機・テトリス(300DP)」

手持ち500DP→200DP

――――――――――――――*――――――――――――――



購入のお知らせが表示されると、俺の手元に手のひらサイズの小型ゲーム機が現れる。


このタイプの小型ゲーム機は、1種類のゲームのみ遊べる機械だ。

お土産屋やガチャでたまに見る。


さっそく洞窟の中で遊ぼう。


洞窟は狭い小部屋1室のみだった。


しかも土造りかよ。

せめて石造りならマシだったのに。


壁とか変えられないかなぁ。




――――――――――――――*――――――――――――――

検索対象「ダンジョン壁 200DP以内」結果1,000,000件以上

1.土(200DP)

2.石レンガ(200DP)

3.木製(200DP)

……

――――――――――――――*――――――――――――――



変えられるらしい。


いろいろな壁紙があるみたいだが、なるべく清潔なのがいい。

地面でそのまま寝ても病気にならないくらいの。


お、「近未来(200DP)」ってのがある。

これにするか。



――――――――――――――*――――――――――――――

購入 ダンジョン壁「近未来(200DP)」

手持ち200DP→0DP

――――――――――――――*――――――――――――――


壁変更でよろしく。


――――――――――――――*――――――――――――――

小部屋1の壁を「近未来」に変更しました。

ダンジョンの60%以上の壁が「近未来」になったためダンジョンタイプが「近未来」に変更されました。

デフォルトの壁が「近未来」に変更されました。

――――――――――――――*――――――――――――――


土くさい壁が一変して、機械の埋め込まれた白い壁へ早変わりした。

壁にはLEDっぽいのがついていて光っているため洞窟が明るくなる。


さて、引きこもるか。


俺は小部屋で寝転がり、テトリスの小型ゲーム機を起動。

電池が切れるまで遊んでやるぜ。




◇ ◇ ◇ ◇



今回の成果。


増減前0DP

―――――

収入500DP

支出500DP

―――――

現在0DP



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