第28話-全て本物だった、と-

 俺の右手先には、青いライトエフェクトのような球体が浮いていた。


(これが、魔力粒子の塊……俺にも魔術討撃の球体を出現させることが出来たのか)


「ほう、一発で出来るとは……貴君やる――」


 俺は学園長の言葉を最後まで聞かずに、本人目掛けて発射した。


「――魔術討撃ッッ!!」


 青のキラキラ輝くライトエフェクトのような凝縮された魔力粒子は学園長に向かう。 そのスピードはなんとか目で精霊粒子が確認できる速さ。

 直弾したら、打撲だけではすまない、魔術討撃。

 フィーネとリープはあの頑丈そうな岩を一発で砕いたのだ。

 俺の魔術討撃もそう柔らかいものではないはず!


「なっ!? うろだろ……」


 しかし、学園長は身振り手振りせずに、直弾前に俺の魔力粒子を消した。

 俺の渾身の一撃が、まるで存在していなかったかのように消え去った。


「なぜ、という顔をしておるな。我が魔法を発動せずに消えてしまったからかの」


 学園長は、殺されそうになったのにも関わらず、涼しげな表情。


「取り敢えず、一言言わせてもらおうかの。貴君の魔術討撃は完璧な一撃だった。我が驚くほど、な。凄い殺意が篭っておった。それも、只の暴力ではない。大切な人を守りたい、守らなくてはならない。その為には、どんな壁でも乗り越えてみせる、と。たとえ、相手が神であろうと、メルベイユ学園の学園長であろうとも、だ。違うかね?」


――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――


 ――――だめ……だ――――殺さ―――れる。

 ――この――ままで――は、俺は殺さ―――れ――る。


「今、貴君は殺されると信号が鳴っているのかね。足どころか全身が震えておるぞ。ただ、いつもふざけている学園長だと思っていたけれども、全然違う。本物は化け物だ、と」


――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――


「あ、ああ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 殺される。コロされる。ころされる。コロサレル――

 俺は、ココデコロサレル!!


 ――殺される


 一歩も動けない。蛇にでも睨まれたかのに。一歩も動かすことができない!


 あ、ああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいゴメンナサイ。


「はっはっはっ!! 愉快だわい。もう、この辺りにしておいてやろう」


 ――パチッ!


「殺され……あれ?」


 学園長が指を鳴らした途端、先ほどまでの学園長の殺気が、完全に消えた……。

 先ほどと変わらず涼しげな表情。 だけど、少しだけ微笑んでいる。

 しかも最初の位置取りから一歩も移動をしていない。


 ……一体何が起きた?


「貴君の魔術討撃。見事だったぞい。褒めてやりたいところだ」


 俺の背中は冷や汗が滝のように流れている。湿ったくて、気持ち悪い。


「如月煌。精神干渉魔法の実体験はどうだったかね。それ以外の事は全く考える事が出来ずに精神が崩れたであろう。これは下限が効かなくてのう」


(なんだったんだ、いまのは。俺が壊れたみたいになったぞ……)


「酷く驚いておるな。謝罪させてもらおう如月煌。その魔法は禁術の一つでな。本来は使用してはならぬものであるのだ。ただ、我は気づいて欲しかったのだ――」


 学園長は車椅子を方向転換し、後ろ姿を見せた。


「――貴君の想いは紛れも無く、全て本物だった、と」

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