第20話- 元高等魔導師の娘、フリーレン家の長女よ! -
あたしのもの? 約束?
フィーネとそんな約束した覚えはないのだが。
というか、二人とも腕を離してくれよ。このままだと鼻血が出そうだ。
「そうですのあきらさん?」
「いや、俺とはしてないはずぞ。って、いつそんな話したんだ」
「えっ……」
突如、右腕に絡んでいたフィーネの腕の力が弱まる。
「おわわっ!」
「きゃっ!」
リープが引っ張っていた左腕の方に俺の体重が持って行かれ、俺らは転倒した。
「イタタタ」
「いったいですわ……」
フィーネの顔が変だ。まるで、恋人が記憶喪失になってしまったかのような表情。
「そうよね……。そうだったわ。そんな約束は微塵もしてない。だったら――」
先の表情から一変して、燃える決意のある眼差しに。
「精霊法第五条に基づき、決闘を申し込むわ。あたしの名前はフィーネ・フリーレン。元高等魔導師の娘、フリーレン家の長女よ!」
「精霊法第五条に基づき、その決闘を受諾いたします。わたくしの名前はリープ・ライトニング。貴族ライトニングの次女ですわ! 決闘場と時間帯は――」
「今この場よ! 勝者はあきらを自由に出来る権利を有するでいくわ!」
おい、まじで何が起きるの。俺が置いてけぼり何だが。
ていうか、精霊法ってなに。遠慮無く喧嘩すればいいのに。
てか、俺の人権はどうなった?
「ちょっとまった! ここ食堂だ……ぞ?」
そう思っていると食堂の様子がおかしいのに気が付いた。
野次馬は既に距離を適度に保ってあり、「はいはい掛け金はこちらでーす」と商売始めている学園生が現れた。
チラホラとその商売人にチップと硬貨を交換している野次馬の姿。
「フィーネ・フリーレン……。あきらさんとの食事の邪魔をして、本当にわたくしを怒らせましたね」
刹那、リープの周りに放電が起きているかのようにビリッビリッと空間に電撃を走らせていた。
ああ、やっぱりライトニングって言うくらいだから雷系統なんだなって、それどころじゃねえ。
「お前らストーップ!」
「あきらは黙ってて!」「あきらさんはお黙りなさって!」
――息ピッタリじゃないか二人共。
もう、止める手段はないぜ。
――でも、大丈夫。すぐに決闘は収まる。
だから、少しくらいやらせても問題ないだろう。
(……は?)
何ですぐ収まるってわかった。俺の未来視が発動したのか?
「涼しい。いや、寒くなってきた」
食堂には風が外から流れ込んでいないのに、風が発生して、フィーネのツーテールが舞い上がった。
カップに注いであったミクルティーは一瞬で氷漬けになり、フィーネを中心とする半径、人が二人分くらいの範囲は氷結化した。
「
懐の杖を取り出し、先制したのはフィーネだ。空中に透明な青の魔法陣を出す。
たしか、あの魔法は俺とリビングのドアをふっ飛ばした魔法。
「リープ……今回だけは、譲らないわ!」
「わたくしに決闘を申し込んだことを後悔させてあげますわ」
リープも杖を出して、唱える準備を始めている。
「
初めて見るリープの魔法。
フィーネの魔法は氷の風に対して、リープの魔法は雷で出来た風。
その一撃にどの程度の力があるのか不明だが、結構危険なものだと認識できた。
「これでどうですわ。
リープの杖先には魔法陣一枚生成され、重なるように二枚魔法陣が生成された。
この世界では魔法陣の生成数によって、大まかに強さが分別されているらしい。
一枚より二枚。二枚より三枚。三枚より四枚、四枚より五枚。
しかし、それは正確な数値ではない。
魔法陣の魔力圧縮率、射撃の精度、属性管理、臨機応変な対応など。それら全てで魔法使いとしての強さが決まる。
そして、精霊召喚を行えば二段階ほど魔力が上回る魔法が使えるとかリープが言ってた。
「――
リープが生成した二重の雷色魔法陣から、雷で出来た弾のようなものが幾つか発射される。その雷弾はギリギリ目で捉えられるくらいの速さでフィーネを襲う。
「一重陣魔法――
フィーネの目の前に出現したのは人間を二人ほど隠すことが出来そうな大きな氷の壁。 この魔法も俺に対して使った魔法だ。
氷の壁に着弾した雷弾は氷の壁を崩して消滅した。
「相変わらず堅い壁ですわね。まるで、どこかの部分を表現しているようですわ」
「へ、へぇ~。そういうリープこそ、柔らかい魔法使って、どこかだらしない部分みたい。それだから射的精度しか取り柄がない貴族なのよ! そろそろ家宝でも使ってみたら?」
「わたくしの家系をバカにするのは許せませんわ!」
そういうとリープの雰囲気が一変に変化した。
「
黄色に輝き豪雷の音を鳴らしている魔法陣が三枚重なり、その中から、雷で出来た槍が発生した。槍は軸を中心に高速回転し、触れただけでも削り取られそうだ。
リープは左手で魔法生成によって震える右腕を抑え、右腕で杖を握って定める。
「――穿て、
豪雷の如く鳴り響く雷槍は真っ直ぐにフィーネを貫通するかのような速さで射出された。
「リープ。相手を間違えたわね。あんたの癖は全て把握済みよ!
フィーネは勝算があるのか、余裕の笑みで詠唱する。
「――
刹那、フィーネの身体は雷槍の軌道からずれて、そのままリープへ浮遊飛行した。
――自分自身に風系統が混じった魔法を使用し浮遊加速する。
魔法陣の枚数だけで魔法使いとしての強さを測れないのはこのようなことだ。
例え一枚の魔法陣でも三枚を超えることが出来る。
突如、リープは驚いた声を上げた。
「へっ!」
――!? あれはまずい。
この後の展開、未来視が発動した俺に何となく分かる。
――フィーネは格闘へ戦闘を持ち込もうとしている。
――何故なら、リープは物理攻撃の戦闘に関しては全く触れていないから。
――対して、フィーネの知っている格闘は全て急所を一撃で仕留める技。
当たりどころが悪ければ、リープは死ぬ。
「待ったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は全力でリープへ駆ける。 運がよく、リープとの距離は近い。
「あきらさん!?」
「間に合った」
フィーネと一瞬目が合い、声を掛ける前に――
――ゴツン
「おっ……うぅぅ」
コメカミに激痛が走り、俺は全身脱力した。
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