第19話- 異世界の使者を横取りしようっていうの? -
あれからリープとの学園案内から約三時間が経過。 一通りメルヴェイユ学園全体を見学し終える。学園の端から端までは一時間程度で、その広さに見合う施設の数がたくさんあった。そして最後に、お腹を満たすため向かっていた食堂に到着する。
「――それでですわ。彼女が何て言ったかわかります?」
「ん~。あたしのぼた餅を返せとか?」
「そう返ってくるとわたくしも思ってたのですわ。けれども、『ボタンケーキ返せ』って言ってましたの。何の話していたか当時のわたくしにはさっぱりでしたわ。ふふっ」
全校生徒約五〇〇〇人がゆったりと入れそうな総合グラウンド。何十万冊もの書庫数を誇る図書館。一クラス五〇人程がいても狭く感じない魔法訓練室が二〇箇所。多目的ホールが三箇所。中等部の約二〇〇〇人全員が入れそうな聖堂が三箇所。特別高等魔導師がいると言われている大聖堂が一つ。数えたくもない教室の数。とにかく広い花畑が目立つ中庭。
広いドーム状の決闘場が一箇所。多くの人が入れそうな広い学生食堂が三箇所。
俺とリープは正門から見て一番右端にある食堂で昼食を摂っていた。
「ほんとおかしいですわ。ふふっ」
俺は学生食堂で日替わりランチを注文した。
今日のメニューはシチュー。
懐かしい味が口の中でとろけて、次から次へと口に運んだ。
ちなみに、この学園の食堂代は学費から降ろされているらしく、好きな時に好きなだけ食べて良いシステムだ。
この世界の通貨を持っていない俺からすれば都合のいいシステム。
学園長によると、異世界の使者は学園に関することは全て無料になるらしい。
つまり、俺はこの学園で暫く暮らしていれば全くもって問題ないことになる。
「あきらさん、この学生食堂はどうですか?」
「うまいよ。しかも、ここの学食は実質食べ放題なんだろ? 最高じゃないか!」
「良かったですわ。案内のしがいがありました。今度は他の食堂も今度行ってみませんこと? きっとお口に合いますわ」
リープは嬉しそうな表情だ。
「ああ。リープ、ぜひ案内頼むぜ」
「わたくしでよろしければいつでもご案内差し上げますわ」
そういって、リープはピンク色のランチボックスからもう一つサンドイッチを取り出して、小さな口を開きパクっと食べた。
「そういえば、リープは学食で御飯頼まないの?」
もぐもぐとサンドイッチを食べるリープはまるでリスみたいで可愛い。
俺は自分のシチューをスプーンですくい、口に入れる。
「そうですわね。お母様から毎日お弁当を作りさないって指導頂いてますの。お嫁さんにいくためには料理が上手なことに越したことはない、意中の殿方を一発で仕留めることが出来るのが料理とおっしゃてまして」
「リープは偉いな。ちょっとそのサンドイッチ味見してもいい?」
「えっ食べてくださいますの!?」
「もちろんだぜ。シチューだけってのも寂しいしな」
パチンっと名案が思い浮かんだかのように手のひらを合わせて、リープがランチボックスから沢山サンドイッチをテーブルに出してきた。
……ちょっ多すぎじゃね!
「ちょうど良かったですわ! 自信がなくて言い出せませんでしたが、実は今日、なぜか多めに作ってしまいましたの。良ければ食べてくださる?」
俺はシチューを一杯おかわりしたので、気分転換にちょこっとだけ他のも食べてみたいと思っていたのだけど。
まさか、ガッツリ出されるとは思っていなかった。
「あ、あぁもちろんだ」
「もしかしまして、本当は食べたくなかったのですの?」
不安げに聞いてくるリープ。
吃ったから不安になってしまったのだろう。
「そんなことない! 女の子の手料理は最高だ! ワクワクしてきたぞ!」
リープはサンドイッチをさらに二等分して、細い可憐な親指と人差し指で二等分したサンドイッチを差し出してきた。
「では……。はい。あ~ん」
「ほえ?」
これは噂の恋人同士で食べさせ合う「あ~ん」ってやつじゃないか!
リープはどこでそんなの覚えてきたんだ。
やば、ドキドキしてきた。
少しずつサンドイッチが俺の口元へ接近する。
「あ~~~~~~~~ん!」
ゆっくり噛んで、リープ特性サンドイッチを味わう。
――こ、これは、伝説の!?
「うまい! 超美味しいぞ! 俺多分料理したことないからよくわからないけど、リープのサンドイッチは格別だ!」
「ほ、本当ですの!? やったー!」
「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
――パチンっ!
俺たちはサンドイッチで興奮しすぎて、思わずハイタッチ。
周りの学生達がザワザワとこっちを見てきているが、気にしない。
「これは最高にうまい! リープは良いお嫁さんになれるぞ! 俺が保証する。これで意中の殿方とやらは一発だ!」
「良いお嫁さん、ふふっ」
「リープ! 他の料理も作れるのか!?」
「作れますわ! えぇ! まだまだ沢山美味しい物を作れますわ!」
「おし、食堂には悪いが食堂は今日で終わりだ! 明日からリープの手作り弁当を俺は食うぜ!」
「喜んでお作りしますわ! まだまだ沢山ありましてよ? はい。あ~ん」
「あ~~ん」
もぐもぐもぐ。
懐かしい味だ。記憶が無くなる前はこの手料理みたいなものを毎日食べていたのだろうか
――記憶を戻すには過度な刺激が必要だろうな。
ダメだダメだ! あの淫乱学園長の言う通りにしてはいけない。
「うまいよ!」
「ふふふっ。はいあ~んっ」
「あ~~~~ん」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
突如、俺たち以外にも「あ~ん」という人が現れた。
だが、俺は気にしない。俺とリープは今、二人だけ別の世界にいるのだ。
この天国にいるかのような食事、誰にも止められ――。
だが突然、後ろから胸ぐらを捕まれ、俺の身体が地震が起きたかのように激しく揺れた。
「うぶっうぶっ!」
ちょっ死ぬっ死ぬ! サンドイッチが喉に詰まる!
「ちょっとあきら!!なにこんな所にいるのよ! ずっと探してたんだからね!」
この声まさか――
「フィ――」「フィーネ!?」
俺の声に重なるようにしてリープが目を丸くして少女の名を発した。
「リープ!?」
どうやらフィーネも驚いているようだ。
「なぜフィーネがあきらさんのことをしっていますの!」
「なんでリープがあきらといるのよ!」
もしかして、この二人は知り合いなのだろうか。
「学園長にあきらさんの学園案内を直々に頼まれましたの。あきらさんにとってわたくしはこの学園最初のお友達ですわ! フィーネこそ、随分と近いようですわね」
可愛かったリープがフィーネに対して反抗している。
「あきらはフリーレン家に天来してきた異世界の使者よ! あたしが知ってても問題ないわ。ところで、あきらさんですって!?あんた! 一体どういうことよ!」
また、胸ぐらを中心に俺の頭が上下に激しく揺らぐ。
「俺に言うな! そういう風になったんだ!」
「や、やっぱりあきらはどこでも変態魔だったのね! もう、学園生を誑かしてる! ど、どどど、どうせ巨乳に釣られたんでしょう! この変態痴漢!」
「いや、別にちょうどいい感じの大きさだと思うんだけど」
「なんですって!?あ、あたしの胸がまな板だっていいたいわけ!!どうなのよ!」
「切れるところそこじゃねえだろ……」
―― ざわ、ざわ、ざわ、ざわ ――
俺たちの周りに野次馬たちが修羅場を見学しに来ているかのように集まってきた。
野次馬たちは「何が起きた?」「もしかして、修羅場?」「うわー。三角関係なのね」「見慣れない男の人だよ?」「転校生なのかな」「三角関係に入れるかな」「入れるわけねーだろアホ」「昼夜に君臨するハーレム王ここに参上?」「あれフリーレンとライトニング?」「仲がいいのか悪いのか。ハーレム王は人選を間違えたね」
と、訳の分からないこと言ってざわざわしている。
「フィーネ。お行儀が悪いですわ。わたくしたちの邪魔をしないでくださらない? 今はお食事中でしてよ?」
「リープこそ邪魔しないで、あたしはあきらと話があるの。ほら! いくわよ!」
フィーネに俺の右腕をぐぐっと引っ張られた。
華奢な身体の癖に、どこにそんな力があるんだ。
しかも、胸が軽くあたっているぞ。
イエス、ロリータ、ノータッチの胸。
だけど、少しだけ女の子と思わせる弾力があるぜ。
「ちょっとお待ちなさい!」
リープがサンドイッチをテーブルに置いて立上り、俺の余っている腕に両手で抱きつく。 俺の左腕に柔らかな弾力がはっきりと感じられる何かに接触している。
こ、これは――
「リープ……それは何のつもりかしら?」
「フィーネこそ何のつもりでして? あきらさんはあなたのものではなくってよ? あきらさんには意志がございますの。わたくしと一緒に食事をしたいというね」
「異世界の使者を横取りしようっていうの? あきらはあたしのものよ! そう約束したの! 絶対に渡さないわ!」
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