第6話-森の中 嵐の前の静けさ-


 俺は試験が終了した後、クラスメイトと軽く雑談し、すぐに昨日の森へ走った。

 雑談から得た情報は、この森を「暗黒世界に繋がる魔界の森」と噂になっているくらいだ。たしかに、この森は空気が不自然すぎるところがある。

 何もしていないのに、手に汗が握るというか。体内のエネルギーが危険を察知しているという表現が正しいのかもしれない。


 先ほどまでの夕暮れは何処行ってしまったのだろうか。急に風が強くなりだし、上空に雨雲が浮遊している。

 かなりの暴風だ。

 木々が風圧で倒れそうになり、葉っぱは竜巻のように旋回して舞っている。昨日は良い音色で鳴いていた虫たちは周りにはいないのか、森の木が風に揺れる音しか聞こえない。

 一旦家に戻り、森へ向かう準備をしたのは正解だった。物凄く動きやすい。

 機動性が高い学校指定のシャツ、ハーフパンツ。その上にジャージを着用。

 そして、護身用の小型折り畳み携帯ナイフと小銭入れを左ポケットに、右ポケットには携帯電話を入れている。

 周囲を見渡しても、人の気配はない。


 風が強い。

 着用しているジャージが風で激しく靡いている音が聞こえる。高め風圧が目に掛かり、目を細めなければ、風向の景色を眺めることが出来ない。

 手で目付近を多いながら、俺はもう一度周囲を見渡す。

 夕焼けは雨雲に覆われて、完全に見ることが出来なくなっていた。

 太陽はもう隠れたのか、空から雲明かりが失われていき、月のない夜になる。

 もしかしたら健二に繋がるかもしれないと、電話を掛けることにする。

 三コール後、「ただいま電話に出ることができません――」と音声が聞こえたので、俺は携帯電話の終話ボタンを押してポケットにしまった。

 圏外。と言うことは森の中に入った可能性が高い。

 ここに来るまでの道のりは何処の電波も圏外にはならないはずだ。

 周囲がかなり暗いから色々と急がないとまずい。

 俺は焦燥感に駆られ、慌てて森の最奥部へとおもしき場所へ振り向き、健二の無事を願いながら走った。


「健二ー! 何処にいるー! 返事しろー!」


 誘拐犯に見つかってしまう可能性を考慮し、出来るだけ声を出さないようにしていたが、全く健二の姿が見える様子がないので大声をかけることにした。


「健二ー! 何処だー!」


 何度か声をかけながら、森を駆け巡るが、返事は一切ない。

 数分走り続け、息が苦しくなったので、徒歩で移動することにする。激しく鼓動している心臓によって、血液が体の中で勢い良く循環しているのを想像させる。


 さすがに、怖くなってきた。


 慣れない真っ暗な森の中、一人でいるのは初めての経験だ。しかも、誘拐されるかもしれないで有名な場所。怖くないほうがおかしい。

 心拍数が通常の状態に戻りつつなった所で足を止め、これからどうしようか考える。

 もしかしたら健二はこの森にはいないのかもしれない。

 そう思って、引き返そうとした瞬間に、突如あの異変は起きた。

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