第12話 「無のための祈り」

祈り。

それは後悔と無力の象徴。

けれど祈る。祈る。

あなたのために。

わたしのために。

あなたの踏み出す足先が軽やかでありますように。

あなたが前に向かいますように。


祈る。祈り。

それは私の懺悔。あなたとの絵空事の未来。

楔(くさび)のようにまとわる弱さを克服できますように。


祈る。祈り。

あなたの今日が明日に続きますように。

どうかわたしを忘れますように。

後悔にまみれた祈り狂うわたしを消してくれますように。

あなたには光がありますように。

わたしの影など忘れますように。

微塵も忘れてくれますように。


祈る。祈り。

わたしのために。忘却を知らないわたしのために。

いつまでもあなたが歩いていけますように。

わたしという記憶の欠片を捨てて、

手ごたえの瞬間を集められますように。


祈る。祈り。

すべて一切のわたしを忘れて。

願わくば。

道すがら、あたらしい影となってあなたに会えますように。


祈る。祈り。

果てのない未来。なぞりもできない無形。

記憶というあなたのシルエットが薄くなる頃、扉は開くのでしょうか。

それは本当のそれは、肉体が滅びて、永遠の無になる頃でしょうか。

そのとき、わたしは、わたしの祈りはどこへいくのでしょうか。

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