第3話 「蝉しぐれ」
耳のなかに蝉がいる
まだ 夏は少し先なのに
蝉が さんざんに 鳴いている
右側の奥に 林が生まれ 蝉が居ついた
いつの間に入りこんだのか
蝉が おそらく 百匹は越えるほどの数で
ずっと 翅(はね)を擦り 腹を震わせている
何のことはない
例えるなら 気圧の変化 体調の低下 感情のうねり
たぶん 不安定な自分を支えるために 林が生まれ 蝉が鳴くのだ
その音と共に 歩き 食べ 笑い いじけて 寝る
不便なことはない
オプションがついたとするなら
まわりの音が 少し大げさに響くこと
蝉が周波数を上げ 共鳴を求め 音を拾っているのだろう
はしゃぎあう少女たち
横切る車輪の滑走
自転車のつんざくブレーキ
パタパタとアスファルトを蹴る運動靴
ここにいるのだ
皆 ここにいるのだと響いている
だから私も ここにいるのだと 耳をかたむける
蝉の音は まだ止まない
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