第27話 井戸の手
僕が学生時代アルバイトをしていたスーパーの社員のある女性の体験談。
仮にYさんとしましょうか、Yさんは子供時代千葉県に住んでいて、大きなお屋敷の様な祖父の家に父母と共に住んでいたそうです。
屋敷には使われていない井戸があり、その蓋を決して開けないようきつく言い渡されていたそうである。
ある日皆が出かけてYさんが留守番をしていた時、興味本位で井戸を開けてみたというのです。古い木蓋は厚みがあり意外と重く、小さな井戸には不釣り合いでした。まるで何かの封印の様でした。
苔むしたような石積みの井戸の中は真っ暗で、微かに磯の匂いの様な香りがしたそうです。
ちょっと気味が悪いなとは思ったそうですが、特に興味を惹くようなものではなく、蓋を閉め忘れたまま井戸のある縁側に座って本を読み始めました。
しばらく読書に熱中しているとどこからか、ぴちゃ……ぴちゃ……と水音がします。それと同時に強烈な腐敗臭の様な臭いが辺りに漂ったそうです。
何だと思って顔を上げると、井戸の中から濡れた手がはい出してくるではないですか、手首から先の手だけ、水にびっしょりと濡れていて、異様に白い手だったそうです。
ぴちゃ……ぴちゃ……と井戸の淵に指がかかり、ぼとっ……と地面に落ちて、指で引っ掻くような動きをしながら、井戸の周りをウロウロと動き回るのです。
あまりの出来事にYさんは声も出なかったそうです。そうしてしばらく手は蠢くとまた、井戸の中に戻って行ったと言います。
恐る恐る近づいて井戸を覗くと、もうそこには何もいなかったそうです。Yさんはしっかりと蓋をして、二度と開けなかったといいます。
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