第13話 婚活パーティの怪

 S恵さんは三十代前半、女盛りの年頃の時に婚活パーティに参加したという。自分の周りの女性たちもぼちぼちと結婚して、子供がいたりする人も増えてきた。そろそろ自分も考えなきゃなと思い行動に移してみた。


 会場に着くとそこには目を血走らせた様な、ギラつく視線の男女ばかり。皆が皆お互いを値踏みしていた。


 女達は何人かの少数のグループに分かれて男に視線を送りながらボソボソと小声で話し、男の方も何やらブツブツとしゃべりながら会話のハウツー本なんかを読んでいたりする。


 自分は明らかに浮いている。あらっ間違って来ちゃったかしらと思ったそうだ。


 パーティが始まると主催者側の意向で、最初は頻繁にお相手を交代させられた。そうして、短い時間に何度も自己紹介させられ、いざここからは自由にどうぞとなった時には、疲れ果てていた。


 ああ……めんどくさい……もういいや……と会場の隅で飲み物片手にぐったりとしていた時である。


「やっぱり、疲れちゃいますよね」と男が話しかけてきた。小奇麗なスーツ姿で、髪型もこざっぱりした清潔感あるイケメン。あ……ちょっと良いな、と思ったそうだ。


 話しているうちに意気投合してきて、このままバーで一杯やりませんか? なんて話になった。


 S恵さんがOKの返事をしそうになった時である。男の首の脇から何かがニョキニョキっと出てきた。手の様である。


 痛む寸前のバナナの様な黒ずんだ指の、指先だけがマニュキュアで鮮やかな赤、女の手である、手はそのまま男の首に巻き付いていき、その首を締めあげた。


 男の顔が見る見る紫になっていく、しかし男は爽やかな笑顔のまま、駅前のあの店知っています? なんて聞いてくる。


 あっ! やばいっ! と思って「無理、貴方には付いていけません」と断った。


 すると男はちっ! と舌打ちして「見える奴か」と言い残し、紫の顔のまま立ち去ったそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る