第10話 水子寺

 この話エブリスタの方でも少し書いたのですが、改めて書こうと思います。聞き直したので細部が違います。


 僕の家から四キロほど離れた山の中にM寺という心霊スポットとして有名な寺がある。風光明媚な美しい庭のある由緒正しい寺です。


 昭和の時分に火事にあい、それはそれは立派だったという御堂が焼けていなければ、多分今頃国宝だったろうと僕の父は言っていました。


 遊び半分で行くと子供が出来なくなるとか、流産や中絶の経験のある女性が行くと霊現象が起こるとか、入り口の地蔵を写真に撮ると、怒った顔になったり赤ん坊の顔になるなどと実しやかに囁かれている。水子を祀った寺です。


 そんな場所へ僕の高校時代の友人Kさんが肝試しに行ったそうである。男四人くらいで、免許取りたてのKさんの車で。


 狭い山道は曲がりくねっていて傾斜があり、夜中に運転するのは結構怖かったとKさんは言っていました。


 それでも何とかM寺の駐車場にたどり着き、キャッキャとはしゃぎながら地蔵を写真に撮ったり、山の急斜面の階段を登って御堂まで行ってみたりしたそうです。


 特にお寺では何も起こらなかったそうですが、十分に雰囲気を味わったので、満足して帰ろうと車に乗り込み発進しました。


 帰りは急な下りの山道です。Kさんは慎重に運転しました。すると後方から後続車が現れました。


 パッパーパッパーと後続車がクラクションを鳴らします。Kさんは煽られていると思い焦ったそうです。狭い道路なんで追い越しは危ないしどうしようかと思案していた時でした。


 軽く減速しようとブレーキを踏んだ時だった、スコンとブレーキの手ごたえが無くなり、いくら踏んでも全くブレーキがかからなくなったそうです。


 Kさんは焦ります。後にも先にも車に乗っていてあそこまで慌てたことは無いというくらいでした。免許取りたての彼にそこまでの技術はなく、ほどなく車はガードレールに衝突しました。


 幸いそこまで速度が出ていなかったので、怪我人はなかったそうでしたが車内は騒然としたそうです。


 先ほどの後続車からおばさんが降りてきて、「大丈夫だった?」と訊いてきました。はぁまあなんとか、曖昧な返事をKさんは返します。


 すると、おばさんはこんなことを言うのです。「あなた達の車の後部のトランクのところに、赤ちゃんがいてね、こっちに手を振ってたの。これはただ事ではないと思って、クラクションを鳴らしたの」


 Kさん達はその話にぞっとしたと言います。車がまだ動くことを確認して、おばさんは走り去っていきました。ブレーキを確かめると今度はちゃんと効いたそうです。


 バンパーが派手にへこみましたが車は問題なく動いたので、Kさん達はそのまま帰ったそうです。


 今から考えるとあのおばさんも妙なんだよね。あんな時間に肝試しでもなくM寺の山道を走っている奴なんてそうそういないよ、そもそもM寺の駐車場の上下どっちにもあんな車なかったぜ。とKさんは言っていました。

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